終焉~新しい神の正体
一方、精霊騎士達の間では、神龍達と少年神の遣り取りに、驚きの声が上がっていた。
神龍達が、【我が君】と彼を呼んだ…それは、ある事を意味している。
【神龍の王の誕生】…ジェスク神の腕の中にいる少年は、光の神の神子という特徴と、神龍王の特徴を兼ね備えている。
ふと、大地の精霊騎士・リュナンの心に、あの可憐な少年神の事が過った。
暗緑色の瞳と髪の、間違う事無い、光と大地の気配を持つ彼。
今、抱かれている少年とは、全く違う、姿と纏う気…。あの少年神は、如何したのだろう、偽物だったのかと、疑問を持った。
それは、他の精霊騎士達も、同じ思いであった。
しかし、神龍達は勿論の事、精霊騎士達の中でルシナリスとランシェだけは、平然として、神龍王である少年神を見ている。
不審に思っている精霊騎士達の視線に、気が付いた少年は、微笑を浮かべたままで、彼等の名前を呼ぶ。
「リュナン、ラン、レア、フレルにウォーレ、アレィまで、来てたのか!」
見知らぬ少年から、自分達の名前を呼ばれ、ランシェ以外は、驚きのあまり呆然としていた。その傍で神龍達が、忍び笑いを始める。
彼等の態度に少年は、首を傾げ、不思議そうな顔をしていたが、何かに思い当たったのか、溜息を吐いた。
「…神龍達から、事情を聴いていなかったのか…。
そなた達、態と黙っていたな…。」
「申し訳ありません、我が君、つい…。……予想通りの反応でした…。」
「そうそう、アレィの驚く顔なんて、滅多に見られないし…。
あれ?ランだけは、驚いていない?」
「本当だ~!なぜ?ランだけは、驚いていないの~?」
翆龍の弁明の後に、緇龍と緋龍から、ランシェが驚いていない事を指摘され、その理由を、彼は簡素に述べた。
「リューレライの森の…元長から我が長に、伝えられた事があるのですよ。
森の養い子の元の姿は、金髪で青い目だったそうです。」
「ラン…そなた…知っていたのか…。」
「知っていたと言うか、推測の域でしか無かったので、言うべき事では無いと判断しましたし、何故か、言えなかった節もあります。」
当時の事を追い出しながら緑の騎士は、目の前の少年神の姿に、自分の疑問の答えを見出していた。
「…神龍王の覚醒は、真の目的の自覚と、元の姿を自らの手で取り戻さなければ、意味が無いと聞き及んでいます。恐らく、私が誰にも言えなかった理由は、森の養い子が神龍王であったからでしょう。
…オーガ君…いえ、リシェアオーガ様、御無事で何よりです。」
微笑を浮かべた緑の騎士から、懐かしい呼び名で呼ばれた所為で、リシェアオーガの心に暖かい物が広がった。
何も知らず、幸せだったあの頃…。
この身を邪悪な想いに染める前の、穏やかな日々…。
思い出される記憶に、少年神の微笑が一層、優しげな、穏やかな物となる。
その笑顔に一瞬、精霊騎士達と、神龍達が無言になり、彼に見惚れていた。彼等の様子に気付いたリシェアオーガは苦笑するが、他の七神は、大いに笑い始める。
「リシェ、お前って奴は…神龍や大地や光の精霊なら、いざ知らず、他の属性の精霊まで見惚れさせるとは、大したもんだぜ。」
そう言って、リシェアオーガの頭をグシャグシャと、乱暴に撫でるクリフラールに、彼は反論した。
「伯父上、そんな事を言われても、私は何もしていません。」
「いや、リシェアが魅力的だからこそ、こうなったのだ。
…流石、我とリューの娘だ。」
「…父上まで…。私は両性体です。息子でもありますよ。」
リシェアオーガの息子発言を無視して、尚、娘扱いする父親に抗議してか、彼は、抱き上げられていた腕から、一瞬にして別の場所へと飛び、既に黄龍が控えている、神龍達の許へ逃れる。
そして、全くもう、と言う態度で両腕を組み、ジェスクの方に向き直る。その態度まで微笑ましく見え、彼の後ろでも再び、神龍達が忍び笑いを始めた。
彼の血脈の属性と異なる精霊騎士達は、自分達が彼に見惚れた事に驚き、神龍王の本質を思い出した。
【全ての属性を持ち、且つ、どの属性にも偏らない、即ち、本質的な属性を持たない王】であり、神々の一人である故に、自分達が、見惚れてしまった事に気付いた。
彼等の考えている事を知ったのか、緇龍が振り返り、自慢げに言い放つ。
「どう?我等の王は。素晴らしい方だろう?」
「…緇龍、御前な…有れ程、反抗して居たのに、其の態度か…。」
自慢げな緇龍の意見への、皚龍の突込みで、精霊達も笑い出す。
何か、文句あるのという態度の緇龍の体に、細い腕が絡みつく。
何時もの様に黄龍かと、思ったが、頬に掛る髪は、金色の直毛…。驚いて振り向こうとしたが、抱き付いた人物が、笑っている為、出来無かった。
聞こえた声は、少年の声。
「ふふ…緇龍…そなたは…面白いな。判り易いし、退屈しない。」
「……我が君……それは、どういう意味ですか?」
「緇龍様。そのままの、意味。貴方は、直ぐに、表情、変わる。
良い意味で、態度も、変わる。何、考えているか、判り易い。」
リシェアオーガの替わりに、滅多な事では、長文を喋らないアレストが、声を出す。彼の意見に周りが頷き、碧龍も同意見を述べた。
「確かに、緇龍の感情は判り易い。
喜怒哀楽が激しくて、闇の神龍である事が疑わしい位には…な。寧ろ、緋龍と同じ、炎ではないかと疑った事もある。」
「あっ、それ、判る♪
碧龍の言う通り、あたしも同族じゃあないかって、思った事ある。」
「…ひっでー!そんなこと、思っていたのか?碧龍、緋龍。」
「仕方ないと思いますよ。緇龍は、表情が豊かで、自分の感情に素直なのですから。
でも、其処が、緇龍の良い所ですね。」
優しげな女性の声が掛り、リシェアオーガが振り向くと、そこには、闇の神・アークリダが立っていた。全てを包み込む様な、優しい微笑で、彼等を見つめている。
「緇龍…おめでとう。やっと、念願の主を得たのですね。
他の神龍とも、共に居られる。…寂しがり屋の貴方が、仲間と一緒に居れるようになって、私も嬉しいですよ。
リシェア…神龍王よ、緇龍を頼みます。」
「あ、わたしも~。リシェ、緋龍を目一杯、こき使ってやってね~。」
「碧龍も、お願いしますよ。
緇龍と違い、何を考えているか、判り難い子ですが、悪い子ではないのです。誤解しないでやって下さい。」
アークリダを皮切りに、フレィリーとウェーニスが、自分達の許にいた神龍を託す為の、手向けの言葉を告げる。
言われた神龍達…緋龍と碧龍はリシェアオーガの後ろで、緇龍はリシェアオーガの横で、彼等の言い草に頭を抱えていた。
「アークリダ様…。寂しがり屋って…それ、ここで、言いますか?」
「ひっどい、フレィリー様。その言い草は、あんまりですよ~。」
「…ウェーニス様…そんな事まで、気付いておられたのですか…。まあ……我が君には、バレバレだと思っていましたが…貴方まで…。」
元仕えていた神々からの、手向けの言葉に、緇龍、緋龍、碧龍は本音、ダダ漏れの返答をしている。
そんな中、リュースとジェスクが、翆龍と黄龍に声を掛けていた。
「翆龍…リシェアを、宜しく頼みますね。
この子は絶対に、無茶をするでしょうから、その時はお願いね。」
「黄龍もだ。リシェアの事を宜しく頼む。他の神龍達も、宜しくな。」
仕えていた神龍への手向けと言うより、親が子を彼等に託す言葉で、過保護な親の一面が見えてしまい、緇龍から手を放したリシェアオーガは、溜息を吐く。
反論した処で無駄と判っていたし、これが自分の親の通常だとも、理解している。
故に無言で、溜息だけが出ていた。




