決戦~終結の時
次回から、副題が変わります。
彼等の最敬礼を見届けたジェスク神は、無言で、目の前の神龍王を見つめている。すると、後ろから声が掛った。
「ジェス…この黒き髪の王の一件は、リシェに託してなかったけ?
何故、この者が関わってる?」
「ラール…お前は…。」
「あの子を差し置いて、何の関係もない、この神龍王が終結したんだぜ。
お前も少しは、怒っても…。」
ラールと呼ばれた神、半分が闇色の髪、半分が金髪の男性…空の神・クリフラールの言葉に、ジェスク神は溜息を吐く。
クリフラールを後目に、彼は神龍王に近付き、目線を合わす様に跪いた。そして、未だ顔を上げない、神龍王の両脇に手を入れ、思いっきり抱き上げた。
「な…父上!!!」
いきなり抱きかかえられたリシェアオーガは、驚きの余り、声を大にして叫び、ジェスク神と視線を合わせる。
そして、して遣ったり顔の父親の微笑に脱力し、その腕の中へ素直に収まった。
「リシェア、心配したぞ。全く、そなたという子は、無茶をしおって…。」
「御心配を御掛けして、申し訳ございません。ですが…、何故、御判りに?」
姿が変わった為、気付かれないと思ったリシェアオーガは、父親に問った。しかし、答えたのは、母親の方だった。
「リシェア、我が子を判らぬ親が、いますか!」
優しい声の主、母親であるリュース神の言葉で、愛おしい我が子を抱け上げている父神も、同意の頷きをしていた。初めて会った時にも、父親である彼は、彼が我が子であると、見抜いていたからだ。
その時と同じ様に、我が子を見定めたジェスク神の、腕の中に納まった神龍王の姿に、クリフラールは絶句し、尋ねる。
「お前…本っ当に、リシェか?…まあ、ジェスとリーナに、そっくりだけどな…。」
「はい、クリフラー「ラール伯父上!!」…伯父上。
色々ありまして…やっと、元の姿に戻れたらしいです。」
自覚無しのリシェアオーガの言葉で、後で詳しく、説明しろよと、クリフラールは告げた。リシェアオーガは素直に承諾し、他の神々に目を向ける。
誰一人として、彼の今の姿に、疑いの目を向ける者はいなかった。その中で、薄紫の髪の中性的な神、時の神・フェーニスが、話しかけて来た。
「漸く、目覚めたのですね、神龍の王。
その姿…元の姿に戻った事が、何よりの証。
まさか、ジェスの子として、誕生させるとは…大いなる神も、罪な事を為さる。でも…無事に成長され、王として君臨された…。
リシェ…君が、最良の道を選んでくれて、私も嬉しいよ。」
最後だけは、砕けた口調に戻ったフェーニスの言葉に、リシェアオーガは頷き、微笑を返す。初めて見る、悲しみの隠れていない彼の微笑に、他の神々も、嬉しそうに微笑んでいた。
我が子を胸に抱いたジェスク神は、草原で跪いている兵士達に、目を向ける。誰も微動だに是ず、眼の前の神の言葉を待っていた。
彼等は全て、自ら望んで、黒き髪の王に従ってはいなかった。操られ、脅され、恐怖と、故意に植ええ付けられた従属の念で、彼に従っていたのだ。
その呪縛が解け、本来の性格と、信仰心に戻った彼等は、眼の前の神から、罰を受けようとしている。だが、ジェスク神の口から出たのは、意外な言葉だった。
「黒き髪の王の…軍勢だな。そなた達に、罪は無い。」
神の言葉に、納得が行かない彼等は、反論をしようとした。
が、次の言葉で、納得する。
「だが、己が罪を意識するのであれば、本来の国に戻り、その国を立て直すが良い。
それが、そなた達の罪滅ぼしとなろう。」
始めの七神らしい言葉に、彼等は一斉に頭を深く下げ、それに従う為、その場を離れだした。散り散りになった軍勢は、全て、ルシフから撤退した。
ルシフの国に張られた、結界の外で応戦していた、神龍と精霊騎士達も、新しい神の気配の出現と、黒き髪の王の力が、失われた事に気付いた。
かの王の力が無くなった事で、相手にしていた兵士達は正気に戻り、自分達が相手にしていた者達に、詫びを入れていた。
操られていた事を知っていた彼等は、謝罪を受け入れ、彼等の怪我の心配をする。そんな折に、七神の降臨があり、黒き髪の王の、軍勢に向けた言葉が伝わった。
神の言葉を聞いた彼等は、他の者と同じ様に、自らの国へと帰って行った。その姿を見送り、神龍達と精霊騎士達は、新しい神と七神を迎える為に、ルシフに戻った。
まあ、神龍達は、新しい神が、誰なのかを知っていたのだが、敢えて、精霊騎士達には、全く伝えなかった。彼等の驚く顔が見たいのと、自分達の王を自慢したい為だったのは、言うまでも無い。
事を終えた神々は、ルシフに向かう事にした。神々に護られし国と呼ばれている国、神としてのリシェアオーガが、護った国である以上、訪れない訳にはいかなかった。
まあ、三分の一は、それが理由であったが、残りは神々自身、今のルシフの人々に会いと思ったからだ。愛しき人類…人間、獣人、その他の人の形を取れる者達と、久し振りに会いと願った。
おまけに、自分達に仕えている精霊騎士の、労いの意味を込めて、と言う、大義名分もある。彼等もまた、神龍と共に、ルシフで待っていると考えたのだ。
事実、そうであったが………。
ルシフでは、オーガと黄龍の帰りと、七神の訪問を待つ者達が、佇んでいた。
彼等は、この国に一つしかない、街道を見つめている。彼等の待ち望んでいる、人影が現れてくれるのを…見守っていた。




