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緑の夢、光の目覚め  作者: 月本星夢
最終章・光の目覚め
110/126

決戦~邪悪な王と神龍王

一方、草原では、黒き髪の王の本陣が、進軍して来た。

ルシフの街道の入り口付近で、二人の剣士がいる事に気付いた彼等は、王へ進言する。王は、その剣士の姿を確認する為、前に出た。

そして、その精霊剣士の姿に驚き、

「…生きていたんだ…そうか、生きのびれたんだ…。」

と、怒りを露にした。

そして、残虐な微笑を浮かべ、直ぐにあの剣士の許へ馬を走らせる。

周りの者は、慌てて王を追い掛けるが、追い着いた頃には既に、王と二人の剣士が面として、向き合っていた。

「…良く、無事だったんだね。

まあ、剣がないんじゃあ、どうしようもないのだけどね。」

明らかに侮蔑を含んだ言葉を、投げ掛けられた精霊剣士は、何の動揺もしていなかった。いや、薄らと微笑さえ浮かべて、答えている。

「得物なら、ある。そなたを葬るに、相応しい物が…。」

そう言って、自らの腰にある剣を示した。黒き王がそれを確認すると、驚きと怒りの混じった声を上げる。

「それは、僕の剣だ!何故、お前がそれを持つ。

それは神龍王である僕の剣だ!!」

この彼の言葉に、精霊剣士・リシェアオーガと黄龍は、黒き髪の王が、何者であるか、判った。

「…そうか…やはり、そなたは、神龍王の成り損無いか…。

その身を邪悪に染め、戻れなかった…哀れな者…。」

「な…オルガだっけ、

精霊の分際で、神龍の王を侮辱するなんて、烏滸(おこ)がましい!」

「その言葉、そっくりそのまま、返してやろう。

神龍王の成り損無いの分際で、神に牙をむき、神の名を偽りし者よ。

そなたの罪、許し難い。」

厳しい声で、言い放つリシェアオーガに、黒き王は、怒りに燃えた目を向けている。

「罪?何それ、僕には関係ないね。神龍の王だし、破壊神だからね。」

「…神龍は神の僕、神に逆らう事は、出来ません。

ましてや、神と偽る事も、してはならないのです。」

かの王の言動に、我慢(がまん)が出来無かった黄龍が口を挟む。

その瞬間、黒き王は黄龍を見た。

金色の綿毛と白い羽の耳、纏う服は、黄色の龍の刺繍がある騎士服、そして、銀色の地に黄色の龍が舞う剣。


彼女の装いに、黒き王は気付き、厳しい口調で命令を下した。

「黄龍に命じる。その精霊剣士を殺せ!」

だが、黄龍は全く動かず、黒き髪の王に、厳しい眼差しを送っている。

「何を言っているのですか?貴方は、我が王ではありません。

王に成り損ない、邪悪に身を堕とした分際で、我等に命じる事が出来ると、お思いですか?…無知で、可愛そうな人…。」

憐みの入った言葉に、黒き王の怒りは、更に増した。そして、怒りに染まった声で、リシェアオーガに向かって怒鳴った。

「精霊剣士の分際で、神龍を従え、その剣を持つな!」

その言葉でリシェアオーガは、更に、笑みを浮かべ、

「そう言えば、我が本当の名を名乗っていなかったな。

我が名は、リシェアオーガ、ファムエリシル・リュージェ・ルシム・リシェアオーガ。

そなたが騙った破壊神とは、我の事だ。」

と、告げた。彼の名乗りで、黒き髪の王の軍勢にどよめきが走った。

目の前の精霊剣士が、黒き髪の王と同じ、リシェアオーガを名乗ったのだ。

然も正式名の、ファムエリシル・リュージェ・ルシム・リシェアオーガ、即ち、戦の神・リシェアオーガ。

伝えられている名と、同じであった。

だが、黒き髪の王は、尚も食い下がる。

「神か、精霊かなんて、関係ない!僕は神龍の王だ!!

神龍の王でない神が、神龍を従えるなんて、冒涜だ!」

かの王に同調する声も、上がっていたが、誰一人、リシェアオーガと名乗った精霊剣士へ、剣を向けなかった。いや、向けられなかったと言えよう。

王の許に、馳せ参じる事は出来たが、その後の行動が一切、出来無かった。

圧倒される精霊の怒りの気で、動けないのだ。


その気が、不意に変わった。

精霊の気から、神の気と別の何か。

リシェアオーガの持つ神気に当てられ、彼等は身動きはおろか、声すらも一切出なくなる。戦の神の怒りの気が、人間と精霊、獣人等、人型を取れる者全ての、体の自由を奪ったのだ。


未だ続く、言い合いに、リシェアオーガは終止符を打った。

その姿を元に戻し、もう一つの名を告げる。

「黒き髪の王…神龍の王として、覚醒出来ず、邪悪なるモノに成り下がった、愚かな者よ。そなたに神龍は従わない。何故なら、神龍は既に、真なる王を得ている。

ルシム・ラムザ・シュアエリエ・リシェアオーガ…我という、神龍の王を。」

精霊の姿から、神龍王の姿…金色に輝く髪と青い瞳…その身に纏うのは、精霊剣士の物では無く、黄龍を同じ形の、色違いの服。白を基調に黒い縁取り、その縁取りの中には金色の龍、装飾も全て、金色の龍に変わっていた。

金色の光龍…それは、神龍の王の姿。

まだ、龍の姿になった事は無かったが、それがもう一つの姿だと、他の神龍達に教わっていた。その黄金の光龍の装飾を見に纏い、更に神の気と神龍王の気をも、その身に纏う…目の前の剣士。

青き双眸は澄み切り、怒りも悲沁みも無く、無表情の中に厳しさが籠っていた。その顔は光の神に似ており、誰も、その血筋を疑う事が出来無い。

その姿に黒き髪の王は元より、周りの兵士も言葉を失くす。

神子であり、神であり、神龍の王であるリシェアオーガの気配は、大きく、力強く、神々しい物であった。

これを感じた黒き髪の王は、彼の放つ気配に負けじと、自らの気配を解き放つ。

リシェアオーガとは真反対の、禍々しい気配が満ち、彼は眉をしかめた。

「やはり…完全に、邪悪なるモノと化していたか…。ならば、容赦はしない!」

そう言って、リシェアオーガは自らの剣、神龍王の剣を抜く。あの、美しいまでに輝く刀身が現れ、辺りに満ちた禍々しい気配を打ち消す。

「な…何で、お前が、その剣を抜けるの?それは…。」

「まだ言うか、邪悪なる王よ。この剣は、そなたには扱えぬ。

この剣は、邪悪を滅ぼす為の物。

そなたの様な邪悪なるモノには、触れる事も出来ぬ。

邪悪を葬る力を持つ、真の神龍王でなければ、扱えぬ代物。故に、これは主を選ぶ。

我は剣に、王として選ばれただけだ。」

無表情で、淡々と言い放つリシェアオーガの目は、既に敵として見做(みな)した、神龍王の成れの果て…邪悪なる王を捕えていた。

戯言(ざれごと)は、此処までだ。覚悟は()いか?黒き髪の、邪悪なる王よ。」

リシェアオーガの言葉で、最初の一閃が放たれる。剣から放たれる強い力を、黒き髪の王は、自ら作った黒い剣で受け止めた。

前より重く、力強い一撃を何とか食い止め、負けじと自らも応戦する。リシェアオーガの方は、かの王の剣を軽々と受け流し、素早く次の攻撃を仕掛けている。

今まで以上に動く体、相手の次の手を逸早く感じ取り、受け流し、次の攻撃に備えうる腕…。奥底で眠っていた剣の技量が、解き放たれたかの如く、リシェアオーガの体を動かしていた。

自ら求めていた剣の腕前…それが、ここに、溢れ出ている様に感じている。息も全く上がらず、かの王の攻撃を余す処無く受け止め、そして自らの攻撃を強めて行く。

まだ余裕のあるリシェアオーガの攻撃に、黒き髪の王の剣が受け切れなくなり、かの王の体力も消耗して来た。

その事に気付き、早く決着を着けようとするかの王の、渾身(こんしん)の一撃がリシェアオーガを襲った。だが、彼は敢えて、剣で受けけ止めず、自らの神の力を放つ。

一瞬にして剣の姿が無くなり、黒き髪の王は唖然となった。その隙にリシェアオーガは、かの王の胸に、自らの剣を突き刺した。

その出来事で、かの王の命は、尽きたかの様に見えたが、生きていた。

「…神龍王の剣も、大したことないね。僕を葬るって?

出来ていないじゃあないか…」

不敵な笑みを浮かべ、何事も無かった様に言う、かの王へ、リシェアオーガは無表情のままで、返答をする。

「まだ、無に帰す事はしない。

我が成す事は、そなたを止める事。そなたの処罰は、初めの七神に(ゆだね)る。

それに…もう、そなたの力は、尽きている。

我の剣は、そなたの力を奪う為に、使っただけだ。そなたの命を罰するのは、我の役目では無い。始めの七神によって、罰せられる。」

「そんなこと…えっ、抜けない?!な、んで…だ…誰か、これを抜け!」

リシェアオーガの返答を聞き、疑いながら、自分の胸に刺さった剣を、抜こうとした黒き王は、抜けない剣に狼狽(うろた)え、周りの兵士に声を掛けるが、誰一人、命令を聞こうとはしなかった。

そればかりか、彼等は侮蔑の眼差しを彼に向け、罵倒し始める。

「誰が、お前などに手を貸すか!お前の呪縛は解け、俺達は自由になった。」

「良くも…我等を操ってくれたな…。

もう、お前の命令は、聞かない。我等は、自身の罪を償う。」

そう言って彼等は、その場に跪く。それは、黒き王に向けた物では無く、自分達の呪縛を解いた、神龍王へ向けた物だった。

黒き王は彼等の対応に唖然とし、その場に蹲る。何もかも失った彼にリシェアオーガは、逃がさない為の小さな結界を張った。

かの王の呪縛から解放された彼等は、一斉に、神龍王へ感謝の言葉を述べ、邪悪なる王の最後を見届ける事を望んだ。 

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