光姿~真の主
「さて、今後の事ですが…。」
神龍の王の事が一段落して、話を仕切り直す為、ガリアスは口火を切った。
黒き髪の王が再びこの地を狙ってくる事は、明らかであり、その対策を練る事が優先となっている。
かの王の軍勢は、このルシフの倍以上…、大国に匹敵する軍勢と、この小国のそれでは、到底対抗出来無い。だが、この国には、神々が張った結界がある。
その結界も祭りの際、かの王の侵入を許していた事により、彼の力を、防ぎ切れない事を示していた。
この事を踏まえて、リシェアオーガが意見を言った。
「まずは、神龍達の力で結界を強化し、その結界内で、ルシフの騎士団と神官達で、民人を護って欲しい。」
「確かに、結界の強化は大切ですが、それから神龍様方は、如何されます?」
ガリアスの質問に、尽かさずリシェアオーガは答えた。
「その後、神龍達は四方に散らばり、そこであ奴等の軍勢を迎え撃つ。恐らく、あの王の軍勢だ…この国を包囲する事など、容易だろ。
だが、王自体は正面から、やって来る。
奴は、我に怪我を負わされた恨みで、真正面から来るだろう。先に自分の部下を使い、ルシフを攻めさせ、その様子を、我に対しての、見せしめにする為に…な。」
護れなかった後悔や、喪った後悔は、二度としたくない。
神龍達の力なら、操られた者も、正気に戻せる可能性が高いし、ルシフの周りにいる精霊達の力も、借りる事が出来る。
只、この国に入る為の唯一の街道は、黒き王の本陣が進軍してくる筈…そう、この国が見渡せて、かの王が傷を負った場所、そこでリシェアオーガは向かえ打つ気だ。
前とは同じ様で違う、自らの力、神の力と神龍王の力…その力の翻弄に、ルシフの国と民人を巻き込みたくない。
あの場所なら、思う存分、力を駆使出来る。初めて使う力が、どの様な物か判らないし、この剣の威力も、計り知れない。
精霊の剣より、強い力を秘めていると感じる剣に、自らの手を掛けた。あの王は、自らを滅するには神の御業で無いと、無理、それでも自分の剣には敵わないと言った。
だが、あの剣には、邪悪な気配を強く感じた。確かに、普通の神々の御業では、あの剣に報いる事は出来無い。
…出来るとしたら、邪悪を浄化する事の出来る神龍達の剣と、ジェスク神の持つ光の剣、フレィリー神の創りし炎の剣と、クリフラール神の持つ空の剣のみ。
かの剣だけが、邪悪を滅する強い力を持つ。という事は、自分の持つ神龍王の剣も、同じ力を秘めている物かもしれないと、リシェアオーガは思った。
リシェアオーガの考えに、ルシフの面々と神龍達、ルシナリスとアルフィートも同意した。あの王なら、遣り兼ねない事であり、容易に推測出来る事でもあった。
彼等の同意で、事の次第は決まった。
結界を強化し、後はあの王を待つばかりとなった。
今後の予定が決まった事で、会議はお開きとなり、大神官とその補佐、ルシフの王と騎士長は、部屋から出て行き、自分達の持ち場へ戻って行った。
神龍達は、そのままリシェアオーガの傍に集まり、結界の指示を受けた。ルシフには、神々が張った結界があり、その属性の数だけ、それはあった。
その為、神龍達が一人一人順番に、自分の属性の結界を強化する。
行く順番は、彼等が簡単なくじ引きで決め、残った者は自ら望んで、リシェアオーガの傍に居ようとした。
彼等の様子を見て、ルシナリスは微笑ましく思えた。
自分達の主の傍に居たい…彼等の姿は、自分達精霊と似ている。自分達を創造した者であり、尊敬する神の傍を望む精霊達、または、真の主を捜そうとする精霊達。
ルシナリスを始め、神々に仕える騎士達や従者達、または神々以外で真の主を得た者は、精霊でも恵まれた者達である。
自身の望んだ、真の主の傍に居られる…それが、どんなに嬉しいものか、彼は身を持って知っている。そして今、自分が仕えるの神の神子の傍に、神子に望まれて存在している事も、精霊にとって嬉しいものだった。
同じ喜びを神龍達は、漸く、手に入れた。
この事を嬉しく思い、つい、お祝いの言葉が、彼の口から出ていた。
「神龍の方々…貴方々の永年の念願が叶い、漸く、真の主の許に集えた事を、御祝い申し上げます。
…特に黄龍、同じ光の属性の者として、永年の知己の者として、貴女の望みが叶った事は、私も嬉しいですよ。」
ルシナリスの言葉に神龍達は、感謝の返答を返し、名指しされた黄龍に至っては、嬉しそうに彼へ返事を返す。
「ルシェ、ありがとう。私もやっと、貴方と同じく、本当の主を得たわ。
やっと…私達の王が…現身を持ってくれたの…。」
と、嬉し涙を流しながら訴え、何時の間にか彼女は、彼に抱き付いていた。相手が違いますよと、ルシナリスは告げ、リシェアオーガに黄龍を託す。
託された彼は、そのまま黄龍を抱き締め、待たせたなと、声を掛けていた。リシェアオーガより背が低く、華奢で年若く見える黄龍は、彼の腕の中にスッポリと収まる。
それを羨ましそうに見る、他の神龍にも、彼は同じ事をした。
最初の者は真っ赤になり、自らの羽根で姿を隠そうとし、次なる者は嬉しそうに、優しく王の体を受け止め、そして、ある者は勢い良く、陽気に抱き付き、またある者は困惑しながら、壊れ物を扱う様に、優しく受け止め、最後の者は一見、無表情に見えているが、内心は嬉しそうにしていた。
彼等の様子をアルフィートも、嬉しそうに見つめていた。
自分と同じく、主を待っていた神龍。初めて得た、主を想う心に、彼も同調した。




