光姿~神龍王の降臨~
ヴァルトレアの案内で彼等は、作戦を練る為に用意された、部屋に赴いた。
そこには既に、他の神龍達が揃っており、何時でも話し合える状態となっていた。その他にはルシフ王と大神官、そして、この国の騎士長がいた。
翆龍と黄龍、ルシナリスとアルフィート、ヴァルトレアを従え、部屋に入ったリシェアオーガへ、彼等の視線が集まる。
今までの精霊騎士の服とは違う、神龍王の服…白を基調に、縁取りの黒、そこは金龍の刺繍、付けられている装飾品は、蛇行した金の龍、淡い色の折り返し長靴にもそれがある。腰に帯びている剣も、精霊剣では無く、神龍王の剣だった。
神龍達と大神官は、その姿に見惚れ、ルシフ王と騎士長は、声を失くす。
「リシェアオーガ様を、御連れしました。」
ヴァルトレアの声で、彼等は我に返り、最初に神龍達が声を出した。
「…翆龍と黄龍が、用意して居たとは言え…此れ程迄とは…。」
「リシェアオーガ様…良く、お似合いです。ね、緇龍も、そう思うでしょ。」
「…綺麗だ…。」
「御美しい…流石、我が君。」
「でしょ♪用意した甲斐があったわ。ね、翆龍。」
黄龍の一言で彼等は頷き、再び、自分達の王に向き直る。
視線を集めているリシェアオーガは、先程の翆龍達の反応で慣れたか、諦めたかで、無言のまま受け流していた。
「本当に良く、御似合いです。それは、神龍王の装いでしょうか?いやはや、久し振りに、神の御姿に見惚れてしまいましたわい。
リシェアオーガ様の戦神としての装いも、楽しみですな。」
ガリアスの言葉に、サニフラールも頷いた。まだ、正式な装いが決まっていない、リシェアオーガにとって、それがどの様な物になるか、想像出来無い。
只、家族に挙って、着飾させられる事だけは、思い至ったが…。
この遣り取りを冷静に見つめていた、ルシフの騎士隊長が口を開いた。
「つかぬ事をお尋ねますが、大神官様、陛下、あのオルガと言う剣士殿は、何処におられるのでしょうか?意識が戻った事は、伝え聞いていますが。」
彼の問いに、リシェアオーガは微笑みながら、
「姿が変わってしまったから、判らないだろうが、私がオルガだ。
破壊神・リシェアオーガという名と、黒き髪の王の噂を聞いて、今まで偽名を使っていた。あ奴は、我が名を騙っていたからな。
だが…この姿になって、それは止めた。今の我の姿は、一目見るだけで正真正銘、ジェスク神を父とする者だと判るからな。」
と、答える。確かに眼の前の神は、ジェスク神に似ていて、その神子だと言われると納得する姿だった。
澄み切った青き双眼、光を放っている様な金の髪、そして何より、その身に神気を纏っている。だが、オルガと言う剣士の姿は、暗緑色の髪と瞳、そして纏う気は精霊の物。
違い過ぎる姿に騎士長は、疑いの芽を拭えなかった。
するとリシェアオーガは、不意に、虚空へ両手を伸ばし、言霊を綴る。
『我が竪琴、ジェスリム・ハーヴァナムよ。我が前に、その姿を現せ。』
それに応じてあの竪琴が、リシェアオーガの前に現れた。
オルガという剣士を、主と定めた光の神の竪琴…。
光の神と、自ら選んだ担い手の呼び掛けにしか、応じないそれが、リシェアオーガの腕に抱かれる。
光の神の子供である、知神のカーシェイクさえも、選ばず、今まで主を決めなかった物が、つい最近、オルガという担い手を選んだ。
そして今、リシェアオーガと名乗る少年神が竪琴を呼び、それに応じて姿を現したのだ。
抱かれた竪琴は、嬉しそうな音を響かせ、主の許にいる。
リシェアオーガは現れた竪琴を、軽く爪弾いた。主でなければ、真の音が出ないそれは、リシェアオーガの手で音を響かせる。
この事はリシェアオーガが、オルガと同一人物である事を証明していた。
「疑って申し訳ございません。ですが、何故、御姿が変わられたのですか?」
「怪我で眠っている間、大いなる神から真の姿を取り戻せと、言われた。そして、ここに来た神龍王の剣が、我が姿を変貌させた。
恐らく…剣がここへ、主を求めて来たのであろう。
そして、剣自らの力で、主の姿を戻した…と思う。来る時の為に。」
騎士長の謝罪を聞き、右腰にある剣に触れながら、言葉を綴るリシェアオーガに周りも納得した。神龍は、邪悪なるモノと戦う為に、生まれて来た者。
その王たる者も、例外では無い。王として、目覚める条件を満たしているのなら、剣は主の許に現れ、その主に従う。だが、その姿が王のそれで無かった為に、剣は、主をあるべき姿に戻す役割を果たした。
王たる証し、空を映した青き瞳と、光輝く髪…。
今のリシェアオーガの姿こそ、神龍の王の姿だった。
大いなる神が作りし剣も、意思があり、その担い手を自ら選ぶ。つまり、その剣を使える者こそ、神龍の王、その人であるのだ。
これを踏まえて、大神官がリシェアオーガへ問い掛ける。
「リシェアオーガ様は、その剣を鞘から、抜く事が御出来で?」
「ああ、剣を抜いた後に、この姿になった。今でも、抜けると思う。」
ガリアスに尋ねられ、竪琴をアルフィートに預けたリシェアオーガは、腰にある剣を手にする。ゆっくりと、鞘から出てくる刀身に、周りの者は目を見張った。
初めて見る、神龍王の剣の刀身は、光の反射で色々な色を映していた。
時には炎の赤、時には水の青、そして、風の虹色等、様々な色に、刀身全体が染まっていく。改めて見た美しい刀身で、リシェアオーガも驚くと同時に、その剣から溢れる力が、様々な属性を持つ事を感じ取る。
各々に属性を持つ神龍…その王たる者には、纏める為、王の剣に様々な属性を、大いなる神は与えていたのだ。
そして王には、それを感じ取れる力と、神龍を従える力を与える。
新たな剣を手にしたリシェアオーガは、この時初めて、自分の中に剣と響き合い、担い手と剣を繋いでいる物をも感じ取った。
己の心臓と同じ位置に、全く別の鼓動……
それが何か、今の彼には判らなかった。
「これが…神龍王の…剣…。」
改めてみる刀身に、感嘆するリシェアオーガ。
彼は、剣に見入る自分へと、雪崩れ込む力の本流に、身を任せつつあった。
「流石に、大いなる神の御業ですね。
我が王の力が、我等に伝わって来てます…。」
翆龍の言葉に、他の神龍達も頷き、自らの力と王のそれが響き合っている事を、喜びと共に感じている。
満たされる力と、王の鼓動…。
その両方を確かに感じた彼等は、リシェアオーガに視線を集める。
永年待ち望んだ、王の出現と目覚め。
彼等のとって、最も望む存在の鼓動に、彼等は再び歓喜する。
彼等の視線を集める中で、リシェアオーガは、雪崩れ込み終えた力が、己の体に留まっている事に気が付く。
そこで彼は剣を収め、瞳を閉じ、自らの体の変調を確認した。
今までの精霊の物とは違う、力の本質──属性を全て持ちえて、尚且つ、属性が無い力──この不思議な力を内に感じ、自らの性別も同じように思えた。
男性であり、女性であり、そして、無性別でもある自分の半身と同じ体…両性体である事に、今更ながら気付く。
そうして、再び双眼を開け、神龍達とルシフの人々と対面した。
神龍王の目覚めの場に立ち会った人々は、驚きながらリシェアオーガを見つめ、やがて感嘆の声を上げる。
「これが…神龍王か…。属性がある様で、無い様な…不思議な気配だ。」
「神の気とは、また、違いますね。
でも…何か…大きな気配と言うか…包容力のある気配ですね…。」
「…どちらも、オルガ殿の時とは、違いますね。
鈍感な私でも感じれる…頼もしい気配ですよ。」
「神龍王としても、降臨された様ですね…。まあ、何と言うか…その御力と気配…正に神龍様方と同じ、邪悪を封印する方ですね。」
ルシフの王と大神官補佐、騎士長が、受ける気配の感想を述べる中、大神官が力に関して、そう述べると、リシェアオーガは首を横に振る。
大いなる神から言われた事は、封印が出来る力では無かった。
邪悪なるモノを浄化する力と、聞かされていた。その事を彼等に告げると、神龍達は頷いた。彼等が望んだ王、そのものであったのだ。
大いなる神が、神龍達の願いを叶え、その証の現身が目の前にある。
それは彼等にとって、喜ばしい事であり、この世界にとっても、頼もしい存在であった。




