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緑の夢、光の目覚め  作者: 月本星夢
最終章・光の目覚め
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光姿~王の装い~

 着替え終わったリシェアオーガは、自分の身に付けている服が、何時もと違う事に気が付いた。

何時もの精霊の剣士服とは、違う装飾…白を基本に黒の縁取り、その中には金色の龍の文様、金具は全て、蛇行した金色の龍…神龍達と同じ形の服に驚いた。

翆龍(すいりゅう)黄龍(こうりゅう)…この服は?」

「我等が王の服ですよ。やっと…袖を通す方が、現れたのですから…。」

「そうですよ、折角、我が君が現れたのですから、是非、着て下さい。

…お気に召しませんか?リシェア様。」

期待に満ちた目で見つめる翆龍と、上目使いで不安そうに見る黄龍。

彼女等の視線に、リシェアオーガは微笑んだ。

「…そなた達と、お揃いなのだな。気に入った。有難う、黄龍、翆龍。」

彼の言葉で彼女等は喜び、お互いの手を握り合っていた。普段から仲が良い彼女達は、用意した甲斐があったねと、声を掛け合っている。

着替え終わったリシェアオーガは、装飾品を、家族から貰った物に付け替えた。その様子を、不思議そうに見る黄龍だったが、傍にいた翆龍が尋ねた。

「リシェア様、何故、そちらに付け替えるのですか?」

「ルシフの民人が、私の事を心配している。

彼等に会うのに、この姿では判らないだろう。髪と瞳の色も、この色で無く、前の色にする心算(つもり)だが…。」

「じゃあ、彼等に会う時には、精霊剣士の格好に………

あ、それだと、わたし達が一緒にいるのは、不自然ですよね。」

黄龍の意見で、翆龍も考え込む。すると、リシェアオーガは、彼女等に告げた。

「後で他の神龍達にも、話そうと思っているのだが、あの精霊の姿で彼等に会い、私の正体を告げようと思う。

そうすれば、そなた達神龍が傍にいても、不自然じゃあない。リシェアオーガ神の許に、神龍が集まっていると、一部では知られているからな。」

それなら、と彼女等も納得した。で、彼等に会う時は精霊剣士の姿、今は、神龍王の姿でという事になった。

勿論、装飾品は、神龍王の物となったが、リシェアオーガに異論は無かった。

…後で、家族に何か、言われそうだとは思っていたが…。



 リシェアオーガがいる部屋に、アルフィートとルシナリスが戻って来た。

黄龍が彼等を呼びに行き、連れて来たのだ。

部屋に入って、リシェアオーガの姿を見た彼等は、感嘆(かんたん)の声を上げ、神龍の王の服を着た彼に、見惚れてしまった。

「御美しい…これ程、御似合いだとは…思いませんでしたよ。

流石、あの方々の神子様ですね。」

「リシェアオーガ様…ですよね。良く、似合ってますよ…。綺麗です。」

彼等の絶賛の言葉に、翆龍と黄龍は、してやった、という顔をしている。主が褒められた事が、余程嬉しかったらしい。

拳を握り締めそうな感じの、彼女達を後目(あとめ)に、リシェアオーガは不思議そうな顔をした。

自分では、本当に似合うと思っていなかったのだ。

「馬子にも衣装…では無いのか?」

つい、漏らした言葉へ、全員の否定の返事が返って来る。それでもリシェアオーガは、納得出来無い顔をした時、扉を叩く音が響き、翆龍が声を掛けた。

この部屋の扉前に居るのが、大神官補佐・ヴァルトレアだと判ると、部屋の主が入室を許可する。

「御寛ぎ中の処、失礼致します。

リシェアオーガ様、神龍様方とルシナリス様、アルフィーと様とが御一緒に、集まる事の出来る御部屋なのですけど………。」

彼の姿を見て、言葉を忘れた様で、ぽかん、と見つめるヴァルトレア。そう、部屋に来た、大神官補佐にも、ここに居る彼等と同じ反応を返されたのだ。

部屋を訪れた神官の反応で、光の騎士は、先程の光の神子の言葉を伝え、ついでとばかりに、否定の言葉をも付け足す。

「ヴァルトレア殿、リシェア様は御自分で、馬子にも衣装とおっしゃってますが、

違いますよね。」

「ルシナリス様……ええ、良く御似合いです。本当に…御美しいです……」

ぼうっとして、見惚れるヴァルトレアの様子に、気が付きいたリシェアオーガは、照れくさそうに、そっぽを向く。今まで、そういった反応をされた事が少なかったので、慣れないと言うのが本音だった。

美しいと言われた事はあったが、陶酔された事は余り無い。目の前で両親等に、陶酔している者を見る事はあるが、自分がされるとは思わなかったのだ。

その様子に我慢出来無くなったのか、翆龍と黄龍がクスクスと笑いだした。

「リシェア様、これから先、そういう反応をされる事が多くなりますから、早く慣れて下さいね。…わたし達神龍や聖獣は勿論、神官殿や精霊達、獣人達や他の人々にもされますから。」

黄龍の諦めて下さい的な、意味を含んだ発言に、リシェアオーガは苦笑した。

これは、仕方の無い事でもあった。彼が神であり、神子であり、神龍の王である限り、この反応は付き纏う物だった。



 黄龍達の笑い声で、我に返ったヴァルトレアは、真っ赤になって俯く。

大神官補佐であろう者が、神に見とれ、自分の仕事を忘れてしまっていたのだ。しかし、彼の行動に誰一人、諌める者はいなかった。

無言になったヴァルトレアに、翆龍が声を掛けた。

「ヴァルトレア殿、貴方の反応は当然ですよ。

初めて会う神に、神官の方々は皆、同じ反応をされます。況してやリシェア様は、今までの気が神気ではなかったのですから、尚更です。

恥ではありませんよ。」

「当たり前の事ですよ。ヴァルトレアさんは、神官で、人間ですからね。

…ルシェは…既に、見惚れてたわね。」

「唯一の神に仕える、精霊の私でさえ、そうなのですから、ヴァルトレア殿も、例外ではありませんよ。」

彼等の援護で、ヴァルトレアは、ゆっくりと顔を上げ、再びリシェアオーガを見つめる。初めて神を目の当たりにして、そうならない者はいない。

先程までは、きちんとした身なりでは無く、人間の纏う服を着ていた。それでも見つめそうになるのを、何とか耐えたのだったが、今は神の纏う服を着ている。

その為、耐えられなかったのだと、気が付く。

この上も無く魅かれるのは、彼が神として、存在しているからに相違なかった。




ヴァルトレアが困惑している中、リシェアオーガの部屋に近付く、足音がした。走っているらしく、大きな音を立てているそれは、扉の前で止まる。

「ヴァルトレア様、オルガ殿の意識が、戻ったって!!」

リシェアオーガ達の部屋のドアが、急に開けられ、(あか)い髪の騎士の姿が現れた。全員の視線が、その騎士に集中すると、彼は自分の仕出かした事に気付いた。

「…し・失礼しました。部屋を間違えたようです。では…。」

そう言って、部屋を出て行こうとする騎士・エルトに、リシェアオーガが声を掛けた。

「間違っていないぞ、エルト殿。

まあ、私の姿が変わってしまったから、判らないだろうが…。」

聞き覚えのある声に振り向いたエルトは、リシェアオーガを見て驚く。金色の髪と青い瞳…ジェスク神と同じ色合いの、似通った顔…。

服装も、金色の龍の装飾のある騎士服で、腰に帯びている剣も変わっている。

「…え…オルガ…殿??って、ああああ~~周りにおられるのは、神龍様方じゃあないですか~~~。っと…いう事は…」

慌ててその場で、騎士の最敬礼をするエルトに、リシェアオーガは苦笑した。

頭を床に打ち付けんかの如く、下げるエルトは、

「これまでの無礼、申し訳ありませんでした。

知らぬとは言え、リシェアオーガ様に、数々の失礼を働いてしまいました。」

と、元気な声で訴えていた。

そんなエルトに、リシェアオーガは近付き、面を上げさせる。

「今まで私が、正体を明かさなかった故、あの対応は、当たり前だ。

そなたが、詫びを入れる必要は無い。」

「ですが…。」

「エルト、私が気にしていないのだから、問題は無い。

だが、扉を急に開けるのは、頂けないな。」

楽しそうに、注意を(うなが)すリシェアオーガ。

エルトは慌てて、申し訳ありませんと告げる。すると、翆龍が、助け舟を出した。

「仕方ないですよ、我が君。

エルト殿は、我が君の事を随分、心配をされていたご様子ですから。

慌て過ぎて、礼を欠くなんて、当たり前ですよ。」

「…冷静さが掛けている、とも言えます…。エルト、リシェアオーガ様の心配は判りますが、貴方は冷静さを養うべきですよ。」

ヴァルトレアの指摘でエルトは、ぐうの音も出なかった。冷静さはこれからでも身に着く、と言うリシェアオーガの言葉に、エルトは尊敬の眼差しを送っていた。

自分より、年若い者の援護は、普通なら頭に来る処だろうが、眼の前の神は、年相応に見えなかった。

経験の差と言えば、そうなのだろうが、それ以上にエルトが、素直な性格をしている所為でもあった。歳を関係無く、尊敬出来るものは尊敬する。

それが、ルシフの人々特有の、性格でもあった。

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