光姿~幼子の行く末~
一頻り、事を終えたリシェアオーガは、サニフラールとガリアスに声を掛けた。
「ルシフ王と大神官に、頼みたい事がある。」
「はて?リシェアオーガ様の頼みですか?」
「そうだ。これから神龍達と共に、作戦を立てたいと思う。
その場所を、提供して貰いたいのと…この子の事だ。」
そう言ってリシェアオーガは、翆龍が抱いている男の子を示す。
先程、神殿で保護した子だった。
「この子は…如何なされたのですか?」
大神官達の視線が、その子へと注がれた為、少年神は簡素な説明を施す。
「我が剣と共に、此処に飛ばされたようだ。
家族をあの王に殺され、一人で生きて来たらしい。…そう言えば、坊やの名を聞いていなかったな。名前を言えるかい?」
尋ねられた子供は、うんと大きく頭を振り、名を告げる。
「ハールトバム…ハールって、よばれてた。」
「ハールトバム…知識を求め、羽ばたく翼か…良い名前だな。」
リシェアオーガが翆龍に替わり、その子を抱きかかえ、王と大神官の前に連れて行く。そして、彼等とその子を対面させ、
「この子の面倒が、見れる人間を、捜して欲しい。」
と頼み込んだ。
彼の頼みに、大神官が子供・ハールトバムへ、幾つかの質問をし出した。
歳と、出身地、今後やりたい事等。
最後に聞いたのは、新しい両親がいるか、如何かだったが、ハールトバムの答えは、いらないだった。
新しい両親は、欲しくない、両親は死んだんだと、頑なに拒否をする。
八方塞と思いきや、大神官は、意外な提案をした。
「では、じいちゃんは如何だ?」
「え…じいちゃん?」
「そうじゃ、じいちゃんだ。」
祖父は、既にいなかったらしく、じいちゃんと、嬉しそうに口にしていた。
その姿に、大神官が微笑んでいる。
「ガリアス…もしかして、引き取るつもりか?」
「いけませんかのぉ。
此処なら、色々教えられるし、他の者達も、良い勉強になりますぞ。」
神殿で孤児を預かる場合もある為、神官達への子育ての教育とは、言っていないが、暗に含まれている物を、リシェアオーガ達は悟った。
この子が、ここに引き取られるなら、色々と道が出来る。剣士になろうが、神官になろうが、一般の市民になろうが、選択肢が沢山あるのだ。
「頼めるか、ルシフ・ラル・ルシアラム・ガリアス。」
「勿論ですとも。」
正式名称で呼んだリシェアオーガから、ハールトバムを受け取ると、大事そうに抱きかかえる、ガリアスは、ハールトバムに向かって宣言する。
「今日から、わしが、ハールのじっちゃんだ。良いかのぉ。」
「うん、じっちゃん。」
素直に頷く子供と、抱きかかえる大神官…如何見ても、孫と祖父だった。
子供の件が片付いた頃に、ヴァルトレアが、彼等を呼びに来た。各々の部屋が用意出来たとの事で、神龍達もその部屋に分かれる。
リシェアオーガも、彼等と共に、今も使用している部屋へ向かおうとした処、サニフラールに引き留められる。
「リシェアオーガ様、祭りに来ていた舞踊家達と、我がルシフの者達が、精霊剣士である貴方様の事を、心配しております。
如何か、無事な姿を、彼等に見せてやって下さい。御願いします。」
最敬礼を崩さずに告げる、彼のお願いに、リシェアオーガは暫し考えた。このままの姿では、彼等も納得しない。一度、精霊の姿になって、会うしかない。
しかし、極普通の精霊剣士が、かの王から傷を受けて、生還したとあっては、先程の銀の双子の様に、変な誤解を受けかねない。
いっその事、姿を元に戻し、正体を明かした方が、良いのだろうか。だが、あの精霊剣士の姿のままの方が、黒き髪の王と再び対峙するには、都合が良い。
色々と考えた結果、神龍達を説得して、一旦、あの姿に戻る事を決める。
「判った。後で、彼等とも会おう。
我が正体を明かすか、如何かは、此方で決めておく。」
サニフラールにそう告げて、リシェアオーガも部屋に戻った。部屋では、何かの準備を終えた翆龍と黄龍が待ち構えていた。
アルフィートは驚いていたが、ルシナリスは平然としている。
何故なら、リシェアオーガが両親の許にいる時、彼女等は、極偶にリシェアオーガの世話もしていたのだ。
「リシェア様、お着替えを。
それと、アルフィートさんとルシェは、向こうの…アルフィートさんの部屋へ、行って貰えますか?」
にっこりと、微笑みながら告げる黄龍に、アルフィートは迫力負けした。
ルシェと呼ばれたルシナリスは、呼んだ本人に、リシェアオーガの傷が癒えた如何か、確認して欲しいと頼んで、部屋を出て行こうとし、ついでとばかりに、アルフィートへ声を掛ける。
「アルフ、女性の着替えに、同席は出来ませんよ。」
「えっ?女性??」
「ルシナリス…私は無性だが…。」
光の騎士の言葉を受け、今の自分の性別を答えるリシェアオーガだったが、直ぐ様、反論の言葉を黄龍が口にする。
「いいえ、リシェア様。我等が王になられた貴方は、正真正銘両性体です。男性であり、女性であるお体なので、ルシェ、アルフィートさんを連れて行ってね♪」
黄龍から見送りの言葉を投げられ、彼等は部屋から出て行った。
以前、翆龍と黄龍と同じ事を言った、母を思い出したリシェアオーガは、更なる反論を止め、大人しく彼女達の手で、新しい服に着替えさせられる。
服を着せながら黄龍は、ルシナリスに言われた通り、傷の確認をしたが、リシェアオーガの体には傷一つ、残っていなかった。
痛みがあるかも確認するが、全く痛みを感じていないようだ。
傷の完治が判った、黄龍と翆龍、リシェアオーガは安堵した。これで、あの王と決着を着けれる、そう考えるリシェアオーガは、心の片隅で歓喜する想いを感じた。
邪悪なるモノと戦える…神龍の本能から来る歓喜に、彼は身を任せた。




