光姿~願いの承諾~
そこは、かなりの人数が入る、大きな部屋だった。
神座のある神殿の、真下に位置するこの部屋には、等身大よりやや小さな神像が七つ、真正面に配置されてある。この七神の像は、本人そっくりに造ってあり、その下には人が一人、通れる位の扉が厳かに配置してあった。
その扉を良く見ると、夫婦である神々の間にあり、奥に通じているようだった。恐らく、その奥には、その神々の子である神の像が、あるように思われる。
神像の前には少し間を開けて、沢山の長椅子が配置してあった。白木で出来た椅子は、神像と向かい合う様になっており、規則正しく並んでいる。
神像とその間の扉以外、普通の神殿の装いを見せる部屋は、この国では、神々の謁見の場と呼ばれている。
先程の部屋も、ルシフならではの物で、神々に最も近き神殿と、呼ばれている。
その神々の像の前に、大神官のガリアスが控えていた。
「御待ちして、御りました。新しき神よ。」
そう言って、ガリアスは、リシェアオーガに最敬礼をした。彼に、ゆっくりと近付き、リシェアオーガは言葉を掛ける。
「ルシフ・ラル・ルシアラム・ガリアス。そなた達の許に、我は来た。
我は、ファムエリシル・リュージェ・ルシム・リシェアオーガ。ジェスク神とリュース神夫妻の神子であり、カーシェイク神を兄に、リルナリーナ神を双神とする者。
以後、宜しく頼む。」
伝わっていた姿とは異なっていたが、その顔は疑う余地の無い物であった。
ジェスク神と、双神であるリルナリーナ神と瓜二つ。余りにも似過ぎていて、血族で無いと言われると、即座に否定の言葉が出る位である。
然も彼から発せられる声は、ガリアスにも、聞き覚えのある物。
それについ、言葉が出ていた。
「リシェアオーガ様も人が…いえ、神が悪いと、申すのでしょうかな?
何故、オルガと、偽名を使われたのですか?」
「ルシフ以外では、私は破壊神らしいからな。
それに…少し一人で、考えたかった事もあった。どちらも今となっては、不必要な物となってしまったが…。」
戦の神としての自覚、神龍達の事、家族の事を考えたかったが、結果の出た今では、その必要が無い。
この姿は正に、あの家族の血族を示しており、神龍の王を示していたからだ。
リシェアオーガの言葉に、納得したガリアスは、彼等の傍にいる、自分達の王へ目を向ける。彼と目があったサニフラールは、彼の傍に近寄った。
御苦労様ですの声が、ガリアスから聞こえ、サニフラールは無言で頷き、その場で再び、最敬礼を施す。そして、リシェアオーガ達の方へ目線を向けた。
「我等が神々の御一方よ。我等が願いを…聞いて頂けますか?」
「ルシフの王よ。我に願い事とは、黒き髪の王の事か?」
リシェアオーガの即答に、サニフラールは肯定の頷きをし、理由を述べた。
「御存じの通り、あの者は貴方様の名を騙り、この世界の国々を滅ぼしています。幾度も、腕に覚えのある者達が、挑みましたが…全て失敗に終わりました。
残念な事ですが、我等にはもう、成す術がございません。
如何か、我等の願いを御聞き届け下さい。」
最敬礼をしたまま、顔だけを上げて告げるサニフラールを、リシェアオーガは見つめる。
双方の瞳は、真剣な物であった。
「判った。ルシフの王並びに、大神官、その願い聞き届けた。と、言いたい所だが、既にこの件は、我の預かりとなっている。
黒き髪の王に関する件は、七神によって我に託された。故に、この度此処に、神龍達を呼び出した。暫くの間、迷惑を掛けるやもしれんが、宜しく頼む。」
告げられた言葉で、ルシフの両名は驚き、喜んだ。彼等の感謝のそれに、リシェアオーガは微笑みながら頷く。
そんな時、リシェアオーガの後ろに、控えていた神龍から、声が掛った。
それは闇の神龍・緇龍だった。
「あんた…じゃなくて、ええっと、我が王、何時の間に、そんな約定を結んだんだ…あ、じゃない、結んだのですか?」
反感を持っていた、成り立ての王に対して、敬語が使い難いらしく、詰まりながら尋ねる彼に、リシェアオーガは答える。
「ルシナリスに頼んだのが、ルシフに来る前…アルフとルシナリスに、森の中の集落で初めて会った日だったから…2・3週間位前だ。そして、七神からの返答が来たのが、光の竪琴の主に選ばれた日…だったな。」
「…そんなに前から…あんたってば…。」
「緇龍、リシェア様に対して、なんて言葉使いしてるの!」
横から黄龍の張り手が、緇龍の頭に見事命中する。痛ててと、呟く緇龍は、彼女に文句を言わず、再びリシェアオーガの方を見た。
破壊神だと思っていた彼を、戦神として、神龍王として、認めざる負えない行動…それを自分の目で直視した緇龍は、再び口を開く。
「リシェアオーガ様、我等神龍に、何なりとご命令を。」
「緇龍、お前が言うのか?…まあ、良いが。」
「碧龍…俺も同感だ。」
呆れた碧龍と皚龍の突込みに、緇龍は別に、いいじゃないかと返す。
顔を赤らめての反論であったので、迫力は無かったが、まわりの失笑を買っていた。




