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緑の夢、光の目覚め  作者: 月本星夢
最終章・光の目覚め
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光姿~王の目覚め~

男達の蔑みや、馬鹿にした声が聞こえないのか、リシェアオーガはそのまま手を動かした。そして、剣は何の抵抗も無く、鞘から抜けて眩い光を発し、辺りを染める。

その光景に男達は勿論、ルシナリス、アルフィート、幼い少年は息を呑んだ。

やがて光が収まると、その場所で、彼は倒れていた。

男達は剣が自ら、邪悪なモノを葬り去ったと、口々に言う。彼等の言葉を耳にして、絶句したアルフィートとルシナリスの前で、リシェアオーガの体がピクリと動く。

ゆっくりと体を起こす彼だったが、それ従って、変化する物がある。床に広がった暗緑色の髪が、毛先から徐々に、その色を金色へ変えて行ったのだ。

完全に身を起こし、銀の男達の方へ振り向いたその瞳も、暗緑色から澄んだ青に変わっている。その変化に、全員が驚き、無言になった。

当の本人であるリシェアオーガは、何事も無かったかの様に剣を元の鞘へ戻し、男達に渡そうとしたが、彼等は受け取らず、その代わりと言わんばかりに彼等は、この場で跪き、目の前の少年に対して(こうべ)()れた。

「「先程は、失礼しました。我が王とは露知らず、数々の無礼、御許し下さい。」」

先程と全く違う彼等の態度に、リシェアオーガは、不思議そうな顔をする。我が王と呼ばれ、何の事か判らず、彼等に問った。

「我が王とは、誰の事だ?」

「貴方様の事でございます。我が王、神龍の王よ。」

「その美しい光髪(こうはつ)、空を映す青き瞳…間違(まが)う事無き、我が王です。」

「光髪と空の瞳だと…私の髪と瞳の色は違う。私のは…暗き緑の…。」

彼等の言葉に困惑し、反論しながら、自らの髪を一房手に取った。

そこにあったのは、暗緑色では無く、金色の光を放つ髪。

思い掛けない事柄を知り、今度は、ルシナリスとアルフィートの方へ振り向く。

頷くルシナリスと、嬉しそうな顔をするアルフィート。

「御父君に、良く似て御出でです。貴方は正真正銘、あの方々の御子(おこ)様ですよ。」

「オルガ様…やっぱり、私の主です。

その姿は間違いなく、求めていた主の姿です。」

2人の言葉にリシェアオーガは、落ち着きを取り戻す為、瞳を閉じた。あの時、大いなる神が言った真の姿とは、この姿だったのかと悟る。

アルフィートと同じく、自分も役目を持って生まれた。

定められた役目と、罰として担った役目は同じ…この世界を護る事。

護りたいと思う人々が、居てこその役目。

リシェアオーガは、自らの意思を、役目を、はっきりと自覚した。


 再び目を開けると、リシェアオーガはアルフィートに剣を託した。そして、光の髪と瞳を元の暗緑色に変え、神殿の祈りの場へと赴く。

確かな足取りで進む彼に、ルシナリスは怪我の完治を知った。

アルフィートは、心配そうに見つめていたが、光の騎士は彼に、大丈夫ですよと声を掛けている。安心した彼等だったが、リシェアオーガの行動を、不思議に思った銀の男達は、揃って話し掛けた。

「「我が王よ、何故に、神に祈りを捧げるのですか?」」

「捧げるのでは無い。神龍達を呼び出すのだ。」

己の主の言葉に、男達とアルフィートは驚いた。

神龍達は今、破壊神・リシェアオーガの下にいる。つまり、黒き髪の王といるのだ。

彼に意見をする為に、長衣を着た方の男が声を発する。

「我が王、無理です!

彼等は破壊神・リシェアオーガの(もと)…黒き髪の王の下にいるのですよ。神龍の王とて、神に逆らう事は、許されぬ事です。だから…。」

「彼等は、黒き髪の王の下に(など)いない。

ジェスク神の一時預かりとなり、かの神の下にいる。

それに…黒き髪の王は、リシェアオーガという名では無い。破壊神・リシェアオーガと、名を偽る者…。」

男達を見つめ、言葉を綴るリシェアオーガの瞳は、厳しい物となっていた。纏う気も精霊の気では無く、神龍の王の気と、もう一つ、異なる別の何かが混ざっていた。

その気に当たられたのか、彼等は動けなくなり、無言になる。そんな彼等を余所に、再び、神の座に目を向け、リシェアオーガは言霊を綴った。

『ジェスク神の下に集いし、神龍達よ。我、ファムエリシル・リュージェ・ルシム・リシェアオーガの名において、此処に集う事を望む。』

告げられた言葉に、アルフィートと男達、少年は驚いていた。

唯一、彼の正体を知っているルシナリスだけは、その場に跪き、己が仕える神の、神子(みこ)に捧げる最敬礼をしていた。

程無くして、リシェアオーガの前に、数人の人影が現れた。


「「「ご用ですか?我が神。」」」

跪き口を揃えて、目の前にいる暗緑色の髪の少年を、我が神と呼ぶ彼等は、それぞれ異なった髪の色と、その姿に合わせた色で、同じ形の騎士服を着ていた。

集まった彼等を見渡す、リシェアオーガだったが、一人足りない事に気付いた。

闇色の色彩の少年…集まった当初から、反感の意思を示していた緇龍(しりゅう)だった。

この事で彼は、一番馴染み深い神龍の一人である黄龍…淡い金色の、綿毛の髪を持つ少女に尋ねた。

黄龍(こうりゅう)、緇龍が、いない様だが…。」

「あ…申し訳ございません。緇龍は…その…」

言葉を(にご)す黄龍に、リシェアオーガは苦笑した。彼の事を思うと、その行動は仕方が無かったが、一人でも欠けると、黒き髪の王を倒す事が困難になる。

そう思ったリシェアオーガは、他の策を考えようとした。

そんな折に神龍の一人、白い長髪の皚龍(がいりゅう)の目に、リシェアオーガの後ろに控えている男達が映った。

それは、銀色の髪と、紫の瞳の二人の男…双子の兄弟の姿だった。

「護り手の御前達迄、こんな所に。何か、有ったのか?」

「皚龍…あれを見ろ。

あの聖獣が、持っている物…護り手の物じゃあないのか?」

濃い水色の髪の碧龍(へきりゅう)に言われ、彼等の視線がアルフィートに移る。その手にある物は…王たる者の剣、神龍の王だけが扱える、大いなる神の創りし剣だった。

厳しい目を向ける神龍の中で、再び皚龍が口を開いた。

「其処な聖獣、何故、其れを持っている。」

「これは、オルガ…いえ、リシェアオーガ様の剣です。

私は、リシェアオーガ様…神龍の王に仕える龍馬、アルフィートです。」

必死の思いで、言葉を綴るアルフィートに、神龍達は驚いた。

龍馬が主を決め、剣が主を求めた。

その主は、自分達を集めた眼の前の年若き神…。

この真実に、彼等は歓喜した。

何も悩む事は無い、王は自分達を必要とし、選んでくれたのだから。

喜びの中、黄龍が、リシェアオーガに進言した。彼が龍王である事を、確かめる為でもあったが、この場の緇龍の不在は悲しいものであった。

「リシェア様。その名、神龍の王の名で、緇龍を呼んで下さい。

王の名で命令すれば、必ずここに来ますから。」

言われたリシェアオーガは、素直に黄龍に従った。

『我、ルシム・ラムザ・シュアエリエの名に於いて、

神龍・緇龍よ、此処に来る事を命じる。』

次の瞬間、闇の神龍である緇龍が、何も無い空中から現れ、神龍達が集まっている場所へと落ちる。その背にある黒い比翼の羽を畳んだ状態で、文字通り落ちて来た彼は、着地に失敗して、あらぬ場所を打ったらしく、痛がりながら周りを見て驚く。

「痛って~、って、あれ?黄龍?碧龍?みんな??

あああああああ、あんたが呼んだのか!!!あれれれ??何で、呼べるんだ?」

「緇龍…、我等を、強制的に呼べるのは、御一人だ。」

碧龍の簡素な突込みに緇龍は、更に激怒した。

「…我等の…王の名を騙ったのか!!」

「お馬鹿さんね、緇龍。騙れる訳がないじゃないの。

リシェアオーガ様が、本当の我等の王だったのよ。」

緋龍(ひりゅう)の小馬鹿にした言動で、緇龍の怒りは止まり、その代わりに驚愕の表情へと変化する。その様子を怒るでも無く、楽しそうに忍び笑いをしているリシェアオーガに、他の神龍達は釘付けになった。

初めて見る、少年神の楽しそうな笑い…。

視線が集まった事に、気付いた彼は、笑うのを止め、真相を明かした。

「黒き髪の王に負わされた傷で、眠っている間、大いなる神の声を聞いた。

かの神から告げられた、真の姿とは、これの事だと思う。」

そう言い終るとリシェアオーガは、暗緑色の髪と瞳を、先程の色に戻した。

輝ける金色の髪と、空を映す青い瞳…。

この色合いは神龍王の姿であり、リルナリーナの双神の証、そして、ジェスク神とリュース神の神子である証であった。

纏う気は、神龍の王の気と共に、神の気…。

そう、リシェアオーガの本来の気は、この両方が併さった物。

精霊の気は、偽りの気…その気までも、自由に纏えるのが、神龍の王であり、成長した神子であり、神々でもあった。

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