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緑の夢、光の目覚め  作者: 月本星夢
夢の始まり
10/126

神々の精霊騎士達2

 両目を開けたオーガは、好奇心と心配の視線を送ってくる風の精霊に視線を合わせる。視線の合った精霊は微笑み、彼に話し掛けた。

「君が噂の剣士見習いだね。私はエアレア、風の精霊騎士って言えば判るかな?

それより君、体は大丈夫なの?」

「初めまして、風の騎士様。僕は、剣士見習いのオーガって言います。

体の方は…何ともないです。強いて言えば、力が満ち足りているって感じです。」

オーガの返答に、エアレアは更に驚き、

「力が有り過ぎって、感じじゃあないの?本当に大丈夫なのかい?」

と念を押して聞いて来る。彼の言葉を受けて、自らの力の溜まり具合を確かめた。力は多過ぎず、まだ余裕がある位だった。

まあ、御昼前だからって事も起因であった。

「昼食前なのと先程アレスト様に手合わせをさせて頂いたので、力もかなり減っていました。だから、大丈夫です。」

尤もらしい理由を告げて彼等を安心させた。しかしオーガ自身、自分の事なのに判らない事だらけだった。

何故光の力を受け取れたのか、何故それが自身の力と馴染んだのか。

幾ら考えても判らないので、一番確信のある返答をしたのだ。


 納得したエアレアは、先程オーガが自分の事を剣士見習いと言った事を尋ねた。彼もまたオーガの持つ剣に気付き、疑問に思ったのだ。

帰って来た答えは、まだ修行の旅に出ていないという事。オーガの年齢を考えれば、それは致し方無い事だった。

精霊の13歳は幼子の歳。

目の前の子は成長が早いとはいえ、彼等精霊にとって幼子に過ぎない。

その為、危険な修行の旅に出れないのは尤もだったが、この幼子の剣の腕は人間の大人は勿論、精霊の大人よりも上の物。十分、修行の旅に耐えうる物である事は明白であった。

過保護…と言えばそれまでだが、納得出来無い物もある。

だが、エアレアは、それを口に出さなかった。

好奇心旺盛な風の精霊にあるまじき行動であったが、知る必要無しと判断した。

それよりも眼前の幼子の、剣の腕前の方が気に掛る。剣士として、騎士としての本能の方が、それに勝ったのだ。


アレストがここまで消耗するのは、相手に興味を持ち尚且つ、本気で剣を合わせた事が明白で、滅多に見れない微笑付きとあっては好奇心が(くすぐ)られない筈か無い。

然も、好奇心が一番旺盛な風の精霊なら尚の事。

この理由でついエアレアも、オーガの剣の相手として名乗りを上げる。

「ラン、この子の相手をしても良いかな?」

「良いですけど…あまり幼子に無理をさせないで下さいね。

オーガ君は、大丈夫ですか?お昼寝とか必要ですか?」

普通の小さな子相手の言葉に苦笑しながら、オーガも返答した。

「大丈夫です。お昼寝とかも必要ありませんし、他の……この身体の姿の歳頃の精霊達と同じです。

同い年の子達とは、全く違うようです。何故かは…判りませんが…。

だから、姿のままの扱いで構いません。」

きっぱりと断言するオーガに、彼等も承諾の頷きをする。ランシェとランナは、先程行われたアレストとの剣の打ち合いで幼子には見えなかった様で、エアレアの方は、アレストに寄りかかられて平然と歩いている姿で納得していた。

「じゃあ、休憩が終ったら始めようか。」

楽しそうに宣言するエアレアにランシェは、何時もの悪い癖が始まったと思った。

事、剣に関してエアレアは、貪欲とも言える向上心の持ち主で強い相手を求める志向が強い。風の精霊ならでは…と言っても過言で無い。

闇のアレストが珍しく、本気を出した相手を目の前に黙っている筈も無かった。それ程アレストの剣は、精霊騎士の中でも強いと有名である。

そのアレストと対等に剣を打ち合えた幼子…人間とランシェは聞いていたが、人間にあるまじき強さであり、本当は精霊ではないのかと疑った。

纏う気は精霊そのもの。姿もまた同じ。只、成長速度だけは人間そのもの。早々に失われる事が悔やまれる腕の為、ランシェは残念だと思った。

精霊騎士としても神に仕える事の出来うる技量…普通の人間は、騎士として神に仕える事が出来ても寿命と言う枷が付いて回る。

時の流れの遅いまたは、時が止まってしまう精霊騎士達と共に彼が、永い歳月に渡って騎士として神々に仕える事は到底無理な話だった。



 休憩が終わった彼等は、再び訓練場に向かった。アレストも興味あったらしく陰で休む事をせず、彼等と共に訓練場に行く。

他の者は、時間帯を心配したが彼曰く、

「光、入り、過ぎたら、オーガに、あげる。」

との事だった。昼食前のあの出来事で、譲渡可能と判った故の言動である。これから力を使うオーガにとって、願っても無い事だったので断る気は無い。

周りは心配そうに見ていたが、本人が良いと言うのならと渋々承諾した。オーガと言えば、思う存分剣を扱える事に歓喜していた。

レナムに勝って以来、自分の力を制御して剣を振るわなければならなかった現状が今、力を制御しなくて良い状況になっていたのだ。

アレストとの経験上、エアレアとの手合わせは利き腕の左で始める事にした。

「アレィと打ち合えたって聞いたから、手加減はしないよ。」

「宜しく、お願いします。エアレア様もアレスト様と同じ精霊騎士様との事ですので、こちらも手加減をしません。」

早速宣言された言葉に、オーガは嬉しそうに返答する。心底嬉しそうな笑顔にエアレアも利き腕の右手に剣を持ち、微笑を返している。

手練れと相対する事の喜びは、剣士としての彼等が一番理解出来る物であり、一番欲する物である。然も、剣の高みを目指す者なら尚更の事。

本能からそれを欲しているオーガにとって、この状況は願っても無い事だった。制限しなくても剣が振るえる。沸き起こる歓喜にオーガは、己の身を任せていた。


始まった打ち合いにランナを始め、ランシェ、アレストまでもがそれを見入っていた。

嬉しそうに打ち合う両者からは、剣に魅せられた者の本質が現れている。風のエアレアは元より、リューレライから来た木々の精霊のオーガまでもがその本性を持っていたのだ。

然も一人は見習い、成長の速い幼子…。だが、精霊騎士と対等に打ち合っている事実にランシェは震撼した。

まだまだ上達の兆しのある幼子・オーガに対して、ある種の恐れを抱いたのだ。


もし、この子があの事実…自分を育てた者達があの場所から失われている事を知ったなら、その剣の矛先は如何なるのだろうか。

人間か、世界か…神々か…。

そうなると、彼と自分達が敵対しなければならない。避けたい事実であり、その場合は…止められる者がいるとしたら…自分達では無理。

神々の中で剣が最も強い神…光の神・ジェスク神か、空の神・クリフラールとなる。

眼の前の手合いを見て過った嫌な予感を、ランシェは心の奥に留めた。この子が道を逸れない様、導くのが自分達シェンナの森の精霊の役目。

リューレライの森の精霊に託された役目だと思った。このいと稀なる才能を持つ人間の子の行く末を、真っ当な物にしたいと願った。


一方、打ち合ってる当の本人達は…と言うと、勝負の付かない手合いに勝敗を決めようとしたエアレアが奥の手を使った。

風の精霊ならではの剣技、振り下ろす剣に自らの風の力を乗せ、相手を吹き飛ばす物を放ったのだ。

だが、それをオーガは難無く受け止め、風の圧力を消し去ったのだ。無意識の、オーガの内なる力の発現と駆使に本人は気付いていない。

相手からの力を受け止めて無力化した途端、もう一つの力…瞬間移動を発動し、エアレアの後方へと飛んだのだ。

エアレアの方も直ぐに気付き、後ろからのオーガの攻撃を受け止める。止められたオーガは、その場から飛躍し、一旦エアレアとの距離を置く。

止められると判っていた攻撃だったが、エアレアの即座の判断力の良さにオーガは、何時しか微笑を浮かべていた。

『そう、来なくちゃ…。まだまだ足りない。もっと、もっと、知りたい…。

どの位力を出せば、この人を倒せるか…。』

内から湧き出る力と、想い。もっと、剣の腕が欲しい、これでは足りない。何処まで自分の限界を弾き出せるか…。

そう考えながらオーガは、次の攻撃を放つ。それは先程、エアレアが放った力と同じ…風の精霊でなければ使えない力であり、ほんの一握りの人間が使える物であった。

だが、その威力はエアレア以上であった為、彼は止めるのが精一杯だった。

一方、放った本人は…と言うとキョトンとしていた。見様見真似で自分が放った攻撃が、これ程まで威力を持つとは思っていなかったのだ。

不思議そうな顔をしているオーガに、エアレアは驚いていた。

風の精霊ならいざ知らず、木々の精霊が使える力では無い。しかし、眼の前の幼子…いや、姿だけは少年の子がその力を放った。

自分より強い力を以てして…。


この遣り取りでオーガ達は周りの注目を集めていたが、当の本人はそれを気にせず、まだ手合わせをしたそうにしていた。

「…えっと、もう終わりですか?」

掛けられた言葉と周りの注目でエアレアは苦笑し、

「ちょっと休憩。オーガ君も力を使い過ぎたでしょう?」

と、余裕の顔で返答した。エアレア自身もまだ物足りなかったが、これ以上周りの注目を集めるのは得策で無いと判断したのだ。

一瞬、不服そうな顔をしたオーガだったが、他の興味津々の視線の多さを感じた為、しまったと思って彼の言葉に承諾した。

剣を収め、近寄るオーガにアレストの手が伸びて来る。

「御免。また、お願い。」

「ちょっ、アレィ!またなの?…無理しないでって、何時も言ってるでしょう。」

グッタリしてオーガにしがみ付く闇の騎士へ風の騎士は突込みを入れるが、それに弁明するようにランシェから声が掛った。

「エアレア、アレィの行動は、仕方無い事だと思いますよ。あれだけの剣技を見ないなんて…勿体無いですから。

それにしても…オーガ君の剣技も大したものですね。流石、レナム殿を負かす程の腕前ですね。

「ほんと、凄いよ。…ギルド騎士にならない?」

二人から掛けられた言葉にオーガは、謙遜と断りを入れる。剣士にとってギルド騎士は魅力的な職種だが、自分の望む物では無いと本能が告げている。

何故、自分がそんな事を思うのか不思議に感じたが、心の奥底に眠る何かが訴えている様な気もする。

自分のすべき事は他にある。

それが何か、オーガには未だ判らなかった。

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