転校生
秋。
俺の日常はたった一人の転校生によって非日常へと変えられた。
しかも、テンプレ通りの美少女ではなく男。
さらには、イケメンという名のオプション付きときたもんだ。
うん、取り敢えず爆発しようか爆発。
まあ、それはさておき。
これは、そんな俺の平凡極まる日常が、奴と出会う少し前から語られていくそんなお話し。
* * *
未だその日差しが脅威と感じる九月の始め。
特に、美少女の幼馴染や無駄にラブコメチックな出会いを果たした女の子のいない俺は、戦友である阿部と共に学校を目指していた。
今を謳歌する高校二年生。
しかし、隣に佇むは男、そう男。
さらには、ソイツはまごうことなき中二病患者だと言うのだから、悲しくなるなと言われても無理な話なのである。
「と、言う訳なのだよポッター」
「いつから、俺は眼鏡キャラにシフトチェンジしたんだよ」
「突っ込む所はそこかね」
そんな阿部との何気ない会話。
何でお前はそんな坊ちゃんみたいな髪型をしてるんだよ。お前はマルフォイか。
いや、だからポッターなのかと俺は心中で納得しながらも阿部に相槌を返す。
そして点滅する信号によって動き出す群衆の波。
その見慣れた光景を見て、俺は毎度こう思うのだ。
ああー、今日も平和だなー、と。
* * *
クラスの違う俺達は、廊下で別れを済まし、おのおの自分達の教室へと向かっていく。
そして、教室についた俺に、仲の良い友人数人が話し掛けて来た。
俺にだって友達はいるのだ。
彼女はいないが。
自分でそう思考し、悲しくなった俺が頭を抱えていると、担任である女教師が教室の中へと入ってきた。
そして教卓の前まで移動し、徐に口を開き始める。
「めんどくさいですが、今から二学期の始業式が体育館にて行われます。皆、適当に体育館に集まる事。では、解散」
なんてやる気のない教師なんだよアイツは……。
何故、学校側は奴を雇ったのだろうか。
と、俺は本気でこの学校の在り方について不安を覚えながらも、その足を体育館へと向け歩き出した。
そして、体育館に辿り着くクラス一同。
そこにあったのは、綺麗に整列して並ぶ生徒達の姿だった。
あの女子、スカート短いなーっと感心しつつ定位置に腰を下ろす俺。
運良くばラッキースケベと視線を泳がせていると、二クラス離れた場所から阿部がドヤ顔で此方へと近付いてくるではないか。
いや、来るなよ……。つか、帰れ……。
そんな俺の願いも叶わず、阿部は俺の目の前で馬鹿デカイ声で叫び出す。
「ポッター!!!」
「だから、俺はポッターじゃねーよ!!!」
頼む、阿部よ今すぐライオンと20ラウンド(R)素手で戦ってきてくれ。
その後も、無駄に中二病全開な阿部。
屈強な教師陣によって連れ去られた事はいうまでもないだろう。
つか、何でアイツ連れ去られる時上半身裸だったんだよ……。
俺が改めて奴はアブノーマル過ぎると判断した時、ステージ壇上にて現れる校長。
そして、響き渡るテノールボイス。
意外と声高いのなオッサン。
「えー皆さん、約30日間という長期休暇、有意義に過ごせましたでしょうかーー」
相変わらず色のない声音。
どうして、この学校はやる気のない教育者共で溢れているのであろうか。
そこから、十分程続く上辺だけの言葉の羅列。
だが、その口から学期始まりという憂鬱な気分を払拭させてくれる、そんな単語が飛び出した。
「では、長くなりましたが最後に転校生を紹介したいと思います」
その校長の言葉に男女問わず盛り上がる生徒達。
無論、俺も例外じゃない。
まだ見ぬ美少女に心ときめいていたのだ。
「では、歩君こちらに」
「はい」
紹介と共に現れたのは、見た目だけでは性別の判断が下せぬ程、中世的な顔立ちをした美少女。
映える長い手足。
180はあろう高い背丈。
そして、モデル顔負けなそのお顔。
だが、俺はあきらかに不自然な点に気が付いてしまう。
それは単純明快。
“彼女”はズボンを履いていたのだ。