第一話
◆珠鈴~蒼国王宮にて~
バタバタと、扉の向こうからこちらへ走ってくる音がする。
(うるさいな。まだ朝だというのに・・・)
一体誰の足音だろう、と考え込んでいたとき、爆音とともに勢いよく自室の扉が開いた。
(や、やっぱりか・・・)
案の定、扉を開けたのは侍女の亜瑠だった。息切れがものすごく、顔が赤い。
「珠鈴様!火急の用でございます!・・・父王様がお呼びです!」
すぐさまに顔が凍りついた。今なんと!?
(・・・それはないでしょう!?)
「とにかくお急ぎ下さい!時間があまりありません!・・・良いですね?いきますよ!」
亜瑠が珠鈴の手をにぎり、獣かと思えるぐらいの速さで父王の部屋へとむかった。
(・・・あぁ、地獄だ!どうしよう・・・)
策が思い付く分けでもなく、父王の部屋はもう目前だった。
ー数分後ー
「遅かったではないか。どうかしたのか?」
玉座に座っているだろう父の声はひどく冷たく、怖くて身動き一つできない。
「申し訳ございません、父上様。亜瑠が迷ってしまいまして・・・。」
亜瑠を盾に使うのはもう何度目だろう・・・。
「まぁ、いい。お前に言うことがある。」
父の前にひざまついている珠鈴はただずっと床の目を見つめていた。
「・・・滅ぼしてこい。あの国を。」
幻聴だろうか。だけどその声が耳の中でこだまする。
「今、なんと?」
信じられなくて、不安が声を震えさせる。
「お前の手で、晃国を滅ぼしてこい。・・・あの国はもはや不要。お前が持っている水妖の力でなんとかなるはずだ。」
(信じられない。こんな人がいるなんて・・・!)
世界王だからといって、こんなことができるのだろうか。
「明日出発せよ。・・・仮に、だが、もしこの命令に逆らったり、達成できなかったらもちろんお前の命はない。・・・お前の侍女、亜瑠の命もだ。」
(・・・・・・・・・・・!?)
衝撃が走った。嘘だとおもいたい。足の感覚がなくて、ふわりと倒れそうだ。父という人が、一人娘にこんなことを言えるだろうか。・・・死、だなんて。
「話はそれだけだ。・・・下がってよい。」
声がでない。しかし、ここで惑っては・・・!
「はっ。」
珠鈴は足早に部屋をあとにした。
~部屋の前にて~
「珠鈴様~!珠鈴様~?」
遠くから、亜瑠の声がする。珠鈴は自室の扉の前でうずくまっていた。
悲しみと怒りが入り交じってこの感情がよくわからない。
昔から父はあまり好きではなかった。嫌いというより、苦手だった。・・・あの冷たい性格が理解できない。
「ここにいましたか。・・・お話は伺っております。」
(え・・・・・・?)
「知っていたの・・・!?」
「はい。言うなと口止めされていました。・・・珠鈴様、どうか父王様を恨まないでください。」
微笑む亜瑠に死が怖いという感情が一切みえない。
「亜瑠は死、が怖くないの?」
「・・・もともと死は覚悟して生きてまいりました。あなた様と出会った、あの日も・・・。」
珠鈴に頑張れと、亜瑠は言う。
「それより、珠鈴様になにかあっては・・・。旅にはわたしもご同行いたします。そう重く考えなくてもよろしいことですよ!」
「・・・ありがとう。」
少し勇気がでた。いつまでもくよくよしてられない。
「そうと決まれば旅の準備をいたしましょう。」
そういって珠鈴の手を引いた亜瑠の顔には迷いはない。
そのあと、夜まで忙しく侍女たちが廊下を走り歩いた。
~翌日~
予定どうり、準備を終え、外にはたくさんの侍女やら臣らがいた。
「では、お乗り下さい。」
外に出るのは、何ヵ月ぶりだろうか。みごとな晴天だった。
「出発~!」
御者が高らかに言ったあと、ギシギシと音をたてながら、馬車が動きだした。
絶対にもどってくる、この城に。
~馬車にて~
・・・しばらく寝ていたようだ。隣を見ると亜瑠も寝ている。
(もう昼か・・・・・・・・・。)
ここら辺で止まって昼食を食べたほうがいいだろうか。今日、亜瑠がわざわざつくってくれたのだ。
すると、ガタンッと大きな音がして、馬車が横に揺らめいた。
(・・・・・・!?)
亜瑠もびっくりして、起きたようだ。
すると、がしゃんと音をたてて、馬車が落ちていった。
「あ、亜瑠・・・!!!!」
次の瞬間、馬車の扉が開いて、珠鈴と亜瑠は二人共、別々のところへとばされた。
~???~
体が動かない。ここはどこで、どうなって・・・。
どんどん意識が遠のいていく。
・・・上からなにか声がするような・・・。
(もう、げんか・・・・い。)
手にはしっかりと、父王からの命令書が握られていた。