~第九十八話~人形と旅立つ事になってしまったのでした~
俺がこの世界にやって来て、約一ヵ月半
ついに……念願のマイホームを入手する事に成功。しかも、三人の女と共同生活となりそうなので、これってハーレム生活じゃね? と思ってしまった。
朝になって、シグルンの町の宿屋「ルーンライト」に泊まった俺達は、この宿で朝食を取った後、自分の家になる豪邸へと行く事に決めた。
宿の従業員のエリーに宿代を支払った後、レイン達と合流して、目的の家に向かう事にした。
シグルンの町の中を歩いて数分後、俺の我が家になった豪邸に辿り着く。
「コウ……ここがお前の家になったのか?」
「ああ、そう言う事だな」
「はあ……何というか……大きい家ですね? 中はどうなっているのかが、ちょっと気になりますよ」
「それもそうだな、じゃあ、さっさと中に入るか」
「了解した」
レインがそう言うので、俺達はお屋敷の中に入る事にした。
お屋敷の中に入る為には、玄関口に扉があったのだが、鍵がかかっていなく、簡単に開き、中にすんなりと入る事に成功。
これは……俺の家になったんだから、玄関の扉に鍵を取り付けないといけないよな……と思いながら、部屋の中を見渡してみる。
部屋の中は真っ暗闇で何も見えなかった。
扉が開いた状態だと、外からの光で内部の状態が解ったのだが……扉を完全に閉めてしまうと、真っ暗になるので、とりあえず玄関口は開いた常態にして、部屋の中を見てみる。
中を見てみて思った事を一言で言うと……散かった塵屋敷のようだった。
「コウ……使えそうな家具とか壊れてる常態じゃないか? テーブルも割れてるしな?」
「それに埃が凄いですよ……この空間……ちょっと息苦しく感じます……」
「うむ……とりあえず……各部屋の状況を確認してから、今後の事を考えた方が良いかも知れないな? 私は、他の部屋を調べてくる、 ユーリはどうする?」
「あ、じゃあ私もレインさんと一緒について行きます」
「そうか……じゃあ、コウ? 私達はこの家の調査をする事にするよ、 それではな」
レインがそう言うと、ユーリと一緒に奥に行ってしまった。
二人が行ってしまったので、俺はどうしようかな……と思っていると
「コウ」
ず~っと黙っていたリムが、話しかけて来た。
「何だ?」
「私の家を手に入れたみたいだけど……本当にこの家に住むつもりなのかしら?」
「私の家……? と言う事は……お前もしかして……レイナか?」
「そうよ、今の私はレイナ・オリオンハートよ」
そうだった。
リムに憑依してるのは、この家の元々の持ち主、オリオンハート家の御令嬢、レイナ・オリオンハートだったな……そう言えば……だがな……? ここはもう俺の家になったから、俺はこう言ってやる。
「レイナ、ここはもう俺の家になったんだ、お前はどうしたいんだ?」
「勿論決まっているわ、私の元の体よ、ず~っとこの子の体の中にいるのもね……やっぱり、自分の体が欲しいわよ」
「そう言ってもなあ……お前の体の候補が何所にあるのか、さっぱりと解らんぞ」
「だからね……私は決めたのよ」
「は?」
「ちょっと待ってなさい」
リム(レイナ)がそう言うと、部屋の中の奥に行き、数分後
一体の大きめの人形を持ったリムがやって来て
「コウ、私はこの人形に乗り移る事にしたわ、で、行って欲しい場所があるのよ」
「行って欲しい場所?」
「行って欲しい場所はね、ベゼルバード王国よ、あの王国には色々とありそうだから、きっと私の新しい体を見つける事が出来ると思うのよ、で、いつまでもリムの体の中にいるのは、リムに悪い気がしてきたから、この人形の中に憑依する事にしたわ」
「そ、そうか」
本当に人形に憑依出来るのか、ちょっと疑問なんだが……
リム(レイナ)がそう言っているので、黙って見ている事にした。
「じゃあ、行くわよ」
リム(レイナ)がそう言うと、リムの体から霊体みたいなのが抜け出して、リムの持っていた女物の人形の中に吸い込まれていく。
霊体が吸い込まれたのを確認した後、糸が切れたようにリムが派手にぶっ倒れて、人形がリムに押しつぶされた。
「お、重……! ちょっとコウ、見てないで助けなさいよ!」
倒れているリムから聞こえてきて、リムを起こすと
地面に落ちている人形が、生気が宿ったように目を開き
「憑依完了ね、ちょっと動かすのに苦労するけど……どう? コウ」
「俺に意見を求めるのか?」
見た目、喋って動く怪奇な人形にしか見えないんだが
「可愛いでしょ? この人形、ま、大事にしてたしね」
「はっきり言うとな? 不気味な人形にしか見えないんだが?」
「不気味な人形って失礼ね、まあ人形が動いて話せば、そう見えるのかも知れないわね……」
「ところで……何て呼べばいいんだ? その人形」
「レイナで良いわよ、人形だけどね」
レイナがそう言うと、目を覚ましたのか、リムが
「なんか……頭が痛いんだけど、と言うか……何で私、こんな所で倒れてるのかしら?」
リムがそう言ったので、レイナが「コウ、美味く誤魔化すのよ」とか言って来やがったので、俺は仕方がなく誤魔化す事にした。
「寝ぼけてたんだろ? ちなみにここは、元オリオンハート家で、現俺の家の中だぞ」
「……そう、なんか負に落ちないけど……それでコウの家になったのよね? 今日からここに住むの?」
「そりゃそうだろ、今はレインとユーリが家具の状況を調べてる最中だぞ」
俺がそう話すと、レインとユーリが、俺達の所に戻って来た。
「コウ、報告があるぞ」
「報告?」
「ああ、この家なんだが……汚れが酷いのと、家具が滅茶苦茶で、とてもじゃないが使える状態の物がほとんど無いぞ」
「それにですね? 食料がほぼ腐ってましたし、とても使える状態では無かったですよ? 寝る場所も散らかっていましたし」
「そうか……じゃあ、どうしたら良いと思う?」
「まず家具の修理に、掃除だな? あとは……食料の買い込みだな」
「ここに住むのでしたら、そうした方がいいですよ?」
レインとユーリがそう言って来るので、俺は考える。
ここに住む場合、家具の修理、掃除に食料の貯蓄をしなきゃいけないと言う事、となると……結構な金額が必要になるんじゃね?って感じに思えてくる。あと、人形に憑依したレイナが無言の訴えで「私の体もよ」とかそんな感じの視線を俺に浴びせて来やがった。
なので俺は、こう言う事にした。
「じゃあ役割分担を決めようぜ? 家具の修理と食料の買い込みだが……」
「それは私が引き受けよう、いい家具を売っている店を知っているからな、ユーリはどうする?」
「私はレインさんに従います、リムさんはどうしますか?」
「そうね……私は食料の買い込みを希望するわ、コウはどうするのよ」
「俺はやる事が出来たんだ、この人形のな」
そう言って俺は、人形を持ち上げて、皆に見せる。
「人形の……? それは一体何なんだ?」
「あ、ちょっと可愛いですね? この人形」
「ほら、自分の口から言えよ」
「私はレイナ・オリオンハート、この家に住んでいたのよ、今はこんな体だけどね」
「に、人形が喋ったぞ……」
「最近の人形は凄いですね……」
「何所で売ってたのよ? その人形」
「ちょっと! 私の話を真面目に聞きなさいよ! この家に住んでいたって言ってるでしょ!」
「だそうだ、今は人形だが、このレイナが新しい体を欲しいらしくてな? ベゼルバード王国に行きたいんだと、で……このレイナに頼まれたから、ベゼルバード王国に行こうと思うんだが……それでいいか?」
俺がそう言うと
「私は別に構わないわよ? じゃあ……この家の補修は私達でやりましょうか?」
「そうだな、ユーリもそれでいいよな?」
「はい、コウさん、その人形を持ってベゼルバード王国に行くんですよね?」
「まあ……そう言う事になるのか?」
「じゃあ、その人形、隠し持ってた方がいいですよ? 絶対に変な目で見られますし」
「確かに」
「変な目って何よ……って、ちょ」
俺は人形を掴むと、自分のバッグの中に無理矢理押し込んで、チャックを閉じる。
バッグの中から「何するのよ、開けなさいよ? 狭いのよ!」とかぐぐもった声が聞こえるが、無視する事にした。
「なんか……大変な事になりそうな感じなんだが……この家の事は私達に任せてくれ」
レインがそう言うので
「解った、じゃあ……ベゼルバード王国に行くとするぞ」
こうして俺は、人形のレイナと、ベゼルバード王国に行く事になったのであった。
一体何の情報があるのか、さっぱりと不明なんだがな……?




