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師匠の師匠

どんなに努力をしても、どんなに痛みを味わっても手に入れられないものもある。

そんな格差を神は平気で作る。

ある少女は力など望んではいなかった。

また、ある少女は力を求めていた。

誰かを守るための力を求めた彼女に与えられた力は

春を吹きぬけるそよ風のように些細なものだった。


 翌日、文字通りクロイツの財布をすっからかんにするほど食べたリフは未だにベッドの中で眠りこけていた。

 クロイツの怒鳴り声でリフが叩き起されるのもいつもの光景だ。

 昨日あったことなど嘘のように、平凡な朝の幕開けだった。リフは今幕というか、瞼が開いたところだったが。

「ふぁ・・・・・・おはよぉクロイツ」

「たまには師匠と呼んだらどうだ?私生活と修行とで使い分けるように言ったはずだが?」

 しかしそれも随分前のことだ。

「でもさぁ、クロイツ」

 いきなり話を聞かないリフを思い切り睨みつける。

 彼女は目を閉じて頭を掻いた。

 その眠そうで、気怠そうな仕草を見てこちらまで眠気に襲われそうになるが気合で振り払う。

「いいから起きろ!さっさと支度して、特訓だ」

「え?でも昨日試験は合格したじゃない」

 素で言っているのかこいつは。

「それは素で言っているのか、それとも冗談なのか、どっちだ?」

「えと・・・・・・『素』?」

 この直後「アホかー!」という叫び声が響いたのは言うまでもない。


「さて、さっきの続きだが」

 リフはいつもの服装に着替えてクロイツの前に座っていた。

 ちなみにこの場所はクロイツの部屋だ。どこも同じようなものだが、彼の部屋は特に片付いていて、物もあまり置かれていない。以前は本もたくさんあったらしいのだが、『持って行かれた』らしい。

「昨日の試験の題名を言ってみろ」

「えっと、魔導師見習い卒業試験?」

「そうだな、そのとおり、それは魔導師見習いを卒業した事を認めるというバッジだ」

「うん」

 クロイツの言葉にリフは頷く。

「どこに俺の弟子を卒業するって書いてあるんだ?」

「え?まだ弟子のままなの?」

 まさに、きょとん、といった表情。不意に頭痛を感じた。だがもう五年程の付き合い、この程度のことには慣れている。

「当たり前だ。まだ魔法の腕だって一人前とは言えないし、もっと色々学ばないといけないことがあるんだよ!」

 別にリフを引き止めておくための言い訳ではない。絶対に。誰がなんと言おうと、万が一、億が一にも無い。

 って誰に言ってるんだ俺は。

 頭を掻いて考えを一旦リセットする。

「というわけで、今日からやることも、以前と特に変わることはない。お前は着々と魔法の実力をつけ、黙々と知識を身につければいい」

「つまりずっと修行か勉強ってこと?」

 「そうだな」とすぐさま肯定してやると、彼女はテーブルにしなだれかかった。

「やれやれ、やる気が無いならやっても無駄だぞ?やめるか?」

「やる気がないわけじゃないよ。でもさぁ、今のあたしがどのくらい魔法を使えてるのかわからないんだもん」

 それを聞いてクロイツはなるほど、と思った。

 そうか、リフには競争相手がいないんだな。境遇もそうだが、きっと俺自身の所為でもあるだろうな。弟子の人数はそれこそ人によりけりだが、二、三人が一般的だ。師匠を名乗ってはいるが、俺はこいつにとっていい師匠をやれているんだろうか?

 心に浮かんだ疑念を解消するために、彼は人を頼ることにした。彼が唯一頼ることのできる人に。

 あの人に話してみるか、最近また弟子を取ったというし、リフの競争相手になってくれれば、問題は解決だ。

「よし、ならば会いに行こう」

「誰に?」

 リフは小首をかしげる。

「俺の師匠だ」


「クロイツの師匠って」

 移動する準備をしながらリフが問いかける。

「どんな人?」と続くのが目に見えていたので、最後まで聞かずに説明を開始した。

「よく言えば自由奔放。悪く言えば適当でずぼら、常に好きなことをしている。修行は鬼のように厳しく、戦闘だけならその人も鬼のように強かったよ」

 リフは言葉の一部に引っ掛かりを覚えて問いかける。

「ずいぶんな言いようだけど、『戦闘だけ』って?」

「その人は俺が知る魔導師の中で最も強く、最も弱い魔導師だった、意味がわかるか?」

「矛盾してるじゃない」

 俺の言うことは確かに矛盾している。しかし、世の中には言いようによっては成り立つ矛盾もある。俺の師匠なんかはその典型なのではないだろうか。


 リネア・カームベルト、それが俺の師匠の名で、今俺の目の前にいる女性がそうだ。

 そこに立っているのは緑色の髪を腰程まで流し、エメラルドグリーンの澄んだ瞳をしている女性。目立つのはその髪も然ることながら、服装も特徴的だ。豊満な胸を隠したいのか、隠したくないのかよくわからない大きく胸部の開いた服は右の肩の部分が切り裂かれたようになっていて、肌が見え隠れしている。スカートはロングスカートなのだが、これまた、太ももの付け根辺りまでスリットが入っていて、やはり隠したいのか隠したくないのかわからない。

 どちらにしろ、クロイツには関係のないことではある。

「お久しぶりです。師匠」

「久しぶりだね、クロイツ、今日は何の用なんだい?」

「ええ、リフがようやく試験に合格しましたのでね」

 それを聞いてリネアは「ほぉ」と息を漏らしながら眉を上げた。驚いているというより、感心している風だった。

「そりゃよかったじゃないか、で、どうだったんだ?すんなり行ったか?」

「まさか、寿命が縮む思いでしたよ。もし俺が早死にしたらこいつの所為で間違いないでしょうね」

 ははは!とリネアは明るくその冗談を笑い、リフの方へ振り返った。

「おめでとう、リフ」

「え、あ、ありがとうございます」

 緊張しているというほどでもないが、接し方に困っているようだ。彼の説明を聞いた影響なのか、それとも、彼女の雰囲気によるものなのかはわからないが。まぁ、その緊張はあと5分も持たないだろう、この人の前では。

「ん~、この子がクロイツの弟子ねぇ・・・・・・」

 リネアはじっくりとリフの顔を眺め、視線を足元からゆっくりと頭の上まで視線を這わせた。文字通り、全身を這うような視線にぞわぞわと鳥肌が立った。

「クロイツ、アンタもようやく女ってのをわかってきたみたいだね!」

 その言葉に、クロイツとリフは同時に噴出した。

「いやいや先輩何を言っているんですか!こんな可愛げもなければ優秀なわけでもないただの大食い娘を女として見ているわけないじゃないですか!」

「クロイツぅ~」

後からリフの声が聞こえる。

「なんだ?」

 いやな予感しかしないがとりあえず返事だけしておく。

「マナを強制送還されたければいつでも言ってね?大丈夫、死にはしないから」

「いや、死ぬから・・・・・・悪かったよ」

「ん、許す」とリフはご機嫌に笑う。

 クロイツは「はぁ」と思い切り方で息をつく。

 その光景を見ながらリネアは思い切りにやにやしていた。

「それで、師匠、少しお話があるのですが」

「師匠なんて固い呼び方よしてくれって言ってるだろ?お・ね・え・さ・ん」

「お断りします」

「なんでぇ?」

「自分で言っていて恥ずかしくはないんですか?」

「あのねぇ、私はまだぴちぴちの・・・・・・はぁ、まぁいいか、話が進まないしね。で、話ってのは?」

 リアネの顔が再び真面目な色になる。

 真面目にしていれば美人なんだがな、と心の中で小言をもらしたが、彼女の眉がそれを聞き取ったかのようにぴくりと動いたので慌てて今日の目的を話す事にした。


「なるほど、ようはこの子に実戦練習をさせたいってことなんだね?」

「そういうことですね」

 ふむ、とリネアは一瞬考えるような動作こそしたものの、ほとんど即答に近い速さで答えた。

「うん、いいよ」

「ありがとうございます。で、相手は師匠のお弟子さんですか?」

「そうなるね、ハイレン~!おいで~」

 その声に答える様に部屋の奥の扉が開いた。

 そこから出てきたのは、赤い髪をした少年、口を結んだまま、綺麗な琥珀色の目で部屋の中に居るクロイツとリフを交互にちらちらと見やった。

「師匠、この人たちは?」

「うん、アンタはクロイツともリフとも面識はないよね、こっちがクロイツ、私の弟子でこっちはリフ、クロイツの弟子だから・・・・・・私の孫弟子になるのかな?んで、クロイツはアンタの兄弟子になるわけだ、ややこしいね」

「なるほど」

 それだけ言って彼は一つ頷いた。

「ハイレン・グリューエンです。お話は聞いていますよ、クロイツさん。僕の師匠の弟子であることも、魔法塔創設以来最年少で魔法指導者の資格を取り、師範になったということも」

「それは光栄だな、まぁ今日は俺の弟子の修行というか、模擬戦に付き合ってもらうわけだが、問題はないか?」

 彼の右眉がきゅっと釣り上がった。

「そっちの子とですか?」

「ん、そうだが?」

「納得いきません」

 想定外の言葉だった。これには師匠であるリネアも少しばかり驚いた様子だった。

「なんで」

 疑問を口にしたのはクロイツだった。

 それに、ハイレンは表情をかえることなく淡々と答えた。

「あなたが師匠の最初の弟子なんですよね?」

「まぁ、俺だけではないが・・・・・・そうだ」

 リネアは弟子を二人取っていた。つまり、クロイツと同じタイミングで弟子になった人間がもう一人いるということだ。

 ハイレンにはその答えで十分だったらしく、また一度頷いた。そしてクロイツを真っ直ぐ見据える。

「僕も師匠の弟子なんですから、模擬戦なら、あなたとやらせてください」

「は?」

「いやいやいや、ちょっとハイレン、あんたの言いたい事もわからなくはないよ、けどね、クロイツとアンタじゃ、立場こそ近いとはいえ、経験の差ってものがね?」

 リネアの言葉にすぐさまハイレンが食って掛かった。

「では師匠は僕ではこいつに勝てないと言っているんですか?」

「ああ、そうだ」

 ハイレンの視線がリネアを刺すが、彼女は飄々とした態度を崩さない。

 なるほど、こういうがっついてくるキャラには彼女の掴みどころがない性格はやり辛いだろうな。

 しかし、態度だけでは彼は納得しないだろう、というか、納得していないのは彼の目をみれば一目瞭然だ。

「アンタではクロイツには勝てないよ。アンタの魔力がどうのとか、技術がどうのとか、そういうんじゃなくて、ただ単に二人の間にあるのは時間の差だよ、経験、という言葉にも置き換えられるね、アンタにはまだ経験が足りない、ただ、経験さえ積めばクロイツとも、いや、あたしとだってやり合えるはずだよ。」

 今度はハイレンが目を丸くする番だ。

「僕が、師匠と・・・・・・!?」

 兄弟子と師匠とでずいぶん反応が違うな、とクロイツは思う。どうやら彼はリネアの事を相当慕っている、というか崇拝しているようだ。

「そうだよ、だからさ、“今は”まだ戦う時ではないと思わないかい?」

「・・・・・・そうですね、兄弟子を倒すのはまた今度にします」

 こいつ・・・・・・倒すことは確定しているのかよ。

 とりあえず笑顔は保ちつつ「楽しみだなぁ」と言うに留まった。

 普通初対面でそんなこと言うか?まぁどうせ師匠があることないこと吹き込んだ所為なんだろうけどな・・・・・・。

 リネアはハイレンの髪を乱暴にかき回しながら笑っていた。

「さて、話が纏まったところで、始めるとするかい?それともまずはお茶にする?」

 くい、と親指で後ろにあるテーブルを示す。

 それをクロイツは首を振る動作で拒否した。

「いえ、後にしましょう」

 まったく仕切りなおしたと思ったらこれだ。

「それもそうだね」

 リネアもすぐにお茶という気分ではなかったのか、すぐに納得して、首を縦に振った。

「では、移動しますか」

 当たり前だが、部屋の中で魔法など使えようはずもなく、実技訓練の時は専用の闘技場を使用することになる。

 「そうだね」とリネアが相槌を打って、一向は移動することになった。


 ただひたすら上に伸びる塔。

 魔法使いたちが力を誇示するために作り上げた。

 魔法を育成し、強化する機関。これがなければここまでの魔法使いの繁栄はなかっただろう。遠い昔、魔法が発現し始めた頃、彼らは悪魔憑きとして蔑まれ、異端者として本人や家族もきつい仕打ちを受けていた。

 それを変えたのが伝承に残る魔法使いオーディン。

 彼は魔法使いの為に塔を立て、迫害される魔法使い達を匿い、その力の正しい使い方を彼らに教えた。それが魔法塔の始まりだと伝えられている。

 今では眼下に民衆を見下ろし、王宮さえも遥か下に見えるその場所で魔法使い達は何を思っているのか。


 ――魔法塔・魔法実技練習兼戦闘訓練場――


 文字通り、魔法使いが魔法の練習や実験、実戦練習を行う運動場のような場所だ。

 魔法塔のほぼ1フロアを丸々使っているため、広さはかなりある。塔は円筒状のため、壁は丸い円を描いている。天井は光を発する特殊な石で作られていて、窓もない石造りの部屋だが、いつも一定の明るさに保たれている。

地面には砂が敷き詰められていて、コケや小さな植物の姿もある。


「さて!思いっきりやってやんな!」

「はい!」

 ハイレンは先ほどの言葉ですっかりやる気に溢れている。

「なぁリフ、お前全然喋ってないけど大丈夫か?」

「う、うん・・・・・・大丈夫。だと思う」

「まぁ、特異魔法だけ使わないように思い切りやれよ・・・・・・?」

 リフの耳元で囁くように言う。その言葉には棘というか、邪念というか、怨念というか、殺意のようなものが込められていた、様な気がしたが、リフは気にしないことにした。

 なんだかんだでクロイツも熱くなってるのね、珍しく。

「ま、なんだ、練習だからな、危なくなったら俺たちも助けに入るし、心配することはない。くれぐれも言っておくが、特異魔法は絶対に使うなよ?」

「うん・・・・・・わかってる」

 あの魔法は、人には使わない・・・・・・絶対に。


 両者が少し距離を取って準備を整えるまでに一分も必要なかった。

 向かい合い、杖を構える。二人とも、身長とほぼ同じくらいの長さの杖を体の前に構えている。

『始め!』

 クロイツとリネアの声が重なった。

 先に仕掛けたのはハイレンのほうだ。合図とほぼ同時に杖の先端を火球が包み込んでいる。

 早い!

 リネアがハイレンに魔法を教えるにあたって注目したのはその瞬発力と魔法を発動する速度だった。威力には多少ばらつきがあるものの、彼の魔力量なら多少の無理も十分今日範囲内だったし、それを限界まで極めない手はない。そういう判断によるものだ。

 杖を振ると火球は杖から離れ、リフに向かって勢いよく発射される。

 リフは杖の柄尻で地面を突く。すると、それを信号に手前の砂が一気に舞い上がった。砂の壁に阻まれた炎はちりじりになって消滅した。

 二人の魔法の押収はまだ終わらない。今度はリフが仕掛けた。砂を舞い上げた隙に次の魔法を発動していたのだ。それも、横に移動しながら、砂煙が晴れたとき、ハイレンは相手の姿がないことに気付く、反射的に準備するのは防御の魔法。いつどんな魔法が来ても対処できる魔法を探す。

 そして彼女の魔法が発動した。

 彼女の背後に数本の氷柱が尖った先端をハイレンに向けて浮かんでいる。

 先ほどリフが使ったような砂の壁では防ぎきれないかもしれない。彼はこの場所からリフの攻撃を『防ぐ』のではなく『無効にする』ことを選択した。

 不意に、リフは強烈な熱風に煽られる。あっという間に氷柱はその姿を細くし、水蒸気と化した。さらにその水蒸気は煙のように彼女の周りを取り巻き、ハイレンの姿を隠した。

「くっ」

 まずい、と脳内で警鐘が鳴り響く。

 とにかく状況を脱すべく、杖に足を掛ける。霧の上に上昇したのを待っていたのはハイレンの追撃だ。

 彼の杖の先ではすでに炎が渦を巻いている。杖の先をリフに向けると炎はリフに向かって蛇のようにうねりながら近付く。

 炎がリフの体を包んだのは一瞬だった。

その姿に目を奪われた所為か、業火の向こうで金属が落ちるような音を聞き取れたものはいなかった。

クロイツが彼女の名を叫ぶ前に、魔法を発動する気配があった。彼女の得意魔法が発動されている。

「やばい!」

 クロイツがそれに気付き、慌ててその場を飛び出す。

 蛇の頭を喰らったリフの特異魔法はじわじわとハイレンの放つ魔法の火をマナへと変換していく。炎はちりじりになるでもなく、まるで『元から無かった』かのように跡形も無く消滅していく。

 初めて見る現象に、ハイレンもリネアも見入っている。しかし、クロイツは今それどころではない事を知っている。

リフの特異魔法は、マナを『伝う』という特製を持っている。接触部があればそこから次のマナを還そうとするのだ。

放たれる炎を食う魔法、その先にはハイレンの持つ杖、さらにその先には・・・・・・!

「ハイレン!杖を捨てろ!」

 魔法がハイレンの杖まで届くのに時間はかからない。

 とにかく、杖とリフの魔法の間に俺の魔法を噛ませて時間を稼ぐ。

 クロイツの魔法が発動してすぐにリフの魔法により、彼の氷壁は虫に食われるように穴が開いていく。だが、時間を稼ぐという目的は達成できた。

 クロイツはハイレンの下へ駆け寄り、彼の杖を自分の杖で叩き落した。

 ハイレンが驚いた表情でクロイツを見た。

 クロイツはハイレンに杖を示す。瑞々しかった木製の杖はあっという間にその生命の輝きを失い。ひび割れ、黒ずんでいった。

 その地獄の情景の一片のような光景にハイレンは絶句し、目を剥いていたが、クロイツが取った行動と、あの魔法のその後の行方を創造して身震いした。

 リフのほうは炎でバランスを崩し、杖から落ちたがどうやらリネアの魔法のおかげで大事は免れたようだった。

 クロイツはハイレンを置いて、すぐさまリフに駆け寄る。

 パンッ と乾いた音がその場に響いた。

 クロイツがリフの頬をぶったのだ。

 ハイレンとリネアは状況が整理できないながらも、二人のもとに歩み寄って来ていた。

「あれほど使うなって言ったろ!!」

「っ・・・・・・ごめん」

 リフは俯いたまま声を絞り出した。表情は伺えないが、きっと、泣いているんだろう。

「お前、約束したよな?俺と」

 今度は、言葉もでず、彼女はこくこくと頷くだけだった。

「・・・・・・どうしても、止められなかったのか?」

 きつい物言いだったクロイツの声が柔らかくなる。

「わからない・・・・・・とにかく何とかしなきゃって思って・・・・・・気付いたらペンダントが無くなってて、それで・・・・・・」

 それを言うと彼女の頬を涙の粒が伝った。

 わざとじゃないのは解ってるよ、リフ。でもな、とっさにそれが出るのはまずい。心苦しくはあるが、最終的には彼女自身がこの特異魔法を自制できるようになって、この死の魔法と決別しなくてはならない。それができたとき・・・・・・お前は一人前だ。

「ちょっといいかい?」

 後からリネアが声を掛ける。

「はい?」

「今のは『特異魔法』だね?」

 クロイツは頷く。

「クロイツ、アンタがあそこまで焦る理由はなんなんだい?あんな魔法、あたしも始めて見たけど、それよりもアンタの慌てように驚いたよ」

 彼女の後ろではハイレンも視線をリフに向けていた。

「・・・・・・リフの、特異魔法は・・・・・・」


 クロイツが二人に話したのは、にわかに信じがたいものだった。

「じゃあ、この子があの『死の町』の唯一の生き残り・・・・・・」

「そして、事故の当事者・・・・・・」

 二人にそれ以上の言葉は無かった。

「念の為に普段その魔法は封印しているが、詰めが甘かった。ハイレンを危険な目にあわせてしまったのは、申し訳ない」

 クロイツが謝罪するが、焼け石に水、といった感じだった。

「申し訳ないですまないだろう!こっちは死に掛けたんだぞ!」

「ごめんなさい・・・・・・そんなつもりはっ、ほんとに無くて・・・・・・っく・・・・・・うぅ・・・・・・」

 あたりを気まずい空気が支配する。まるで、寄ってたかって一人の少女をいじめているような感覚に舌がむず痒くなる。

「気にするな、よく考えれば、魔法使いが戦って死ぬのは常識だ」

 ハイレンはそういい捨てた。

 そうかもしれんが・・・・・・クロイツは納得できなかったが、否定するようなことはしなかった。

「勝負はお預けってことだね・・・・・・残念」

「あの・・・・・・師匠?」

 どこまで勝負好きなんですか?という次の言葉はリネアの言葉に先を越されて出てこなかった。

「よし、じゃあクロイツ、一戦どうだい?」

 その言葉にハイレンが目線をリネアに向け、リフも思わず涙にぬれた目を上げた。しかし一番驚いているのは・・・・・・。

「お、俺と!?どうして!なんで!?」

「弟子たちの勝負がうやむやになっちゃったからに決まってるだろ!」

 リネアはとーぜん!といわんばかりにその胸を張った。

「いえ、リフの反則負けでいいですよ、あれは人に使っていい魔法じゃないですから」

「いや、納得いかんね、そんな言い訳じゃあたしは納得しないよ!さぁ、この勝負受けてもらおうか!断るならいいよ、リフちゃんはあたしが貰っていくから」

「なっ!?全く関係ないだろ、いや、ないでしょうそれは!!」

「さぁ、どうするの!やるの、やらないの、どっちなの!?」

 ずい、ずい、とリネアに詰め寄られながらクロイツは考える。

 何でこんなことを言い出したんだこの人は、あんなことがあった後で魔法なんか見せてどうする・・・・・・いや、だからこそ、か!

 クロイツの表情が変わる。

 いいですよ、師匠。気が変わりました。思い切り『楽しみましょう』

 リフ、魔法は怖いものではないことを俺が教えよう師匠に勝てたことは無いのはお前にも話したことがあるはずだ。

 もし勝てたら、喜んでくれよ?

 お前の為に本気を出そう。

俺は師匠と戦う。

お前の涙が晴れるまで・・・・・・。


前の投稿からずいぶん間が空きました。

久々に投稿できました。

平日は時間も無いですし、休日はやりたいこといっぱいだしで、なかなかかけなかったのですが、

GWという事で、一日使って書きました。

案外何とかなるものですね。

誤字や違和感のある文章を指摘してくだされば修正いたしますので、よろしくお願いいたします。

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