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Sympathy For The Devil  作者: 赤穂 雄哉
Stage Bangkok
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04. Connected USA

挿絵(By みてみん)

「オーケー、シナガワ。君は愉快な男だ」

 俺の前に座っているのは米国ビジネスマン。

 ビジネスマンのアバターは平均的なアメリカ白人のそれだった。しっかりとした体格をしており、水色のポロシャツに白のスラックス。フランクな感じを演出したいのだろう。

 ビジネスマンの英語は機関銃のように早く、俺にとっては聞き取り辛い。ノンネイティブの英語に慣れきってしまい、アメリカン・ネイティブ、特にニューヨーカーの英語は取りこぼしてしまう。彼らの言葉はEnglishじゃない、Americanだ。


 いい加減、雑談には飽きた。無駄話が金を生む事はない。

「ビジネスがないなら帰るぜ。俺は忙しい。ビジレス(忙しくない)ではないんだ」

 ここからアウトしようと席を立った俺を、彼は大きな手を広げて制止する。

「ノー、シナガワ。人生は長い。そう急ぐな。会社のデータベースを漁っていたら、君の名前が出てきた。君はマネーロンダリングを生業としてるんだろう? その腕を借りたい」


 脳に映っているのはタヒチの夕日。水上コテージからの景色で、俺達は海上にいる。水色からマリンブルーへと変わるグラデーション。それが赤へと変わってゆく。まるで太陽が溶けているかのようだ。頭の上は紫色の空。心が洗われる。


 VR運営企業が提供する企業用スペースは一般のものに比べ高価だ。商取引ではあらゆる事が考慮されなくてはならない。セキュリティー、それと見栄え。空間容量もゲーム世界のチャット・スペースとは比べ物にならないほど大きい。それだけの視覚情報、聴覚情報が詰め込まれている。


「それを早く言え」

 俺は椅子に座る事にした。背もたれに体重をかけると、ビジネスマンは呆れたような顔をしている。

「君達日本人は性急過ぎる。時間を楽しむという概念はないのか?」

 彼は肩を竦めている。

 人からどう見られようと、どうでもいい。


 だが、おかしい。彼の言葉によると彼は武器商の部長。マネーロンダリングなど当たり前の日常であるはずだ。既存ルートを何故使わない?

「通貨と金額を教えてくれ」

「ユーロからドル。50万ユーロ」

 小口過ぎる。どういう事だ?

「どこのドルだ?」

 ビジネスマンは苦笑いを浮かべた。こんな表情まで用意されているとは驚きだ。金はある所にはある。

「USだ。私達(us)のドルだ」

「USドル。最近多いな。USはケツの穴(US as ass)。糞ばっかりが集まってくる」

「君は酷い事を言うな」

 乾いた笑い声が聞こえてきた。気を悪くしただろうか?

 面白い。弑逆心が煽られる。


「だがな、ビジネスマン。あんたの所にはルートがあるはずだ。BMPEやハワラでも洗浄する方法はあるだろう。どうしてそれを選ばない?」

 BMPEは南米でのマネーロンダリング網。汚れた金を売り捌いて洗浄する為のネットワーク。ハワラはイスラームの地下銀行ネットワーク。彼の取引相手が誰だかわからない。しかし、武器商に属す奴が、既存の洗浄ネットワークを使えない訳がない。

 しばらく待つがビジネスマンは口を開こうとはしない。沈黙が彼の答え。俺の耳には波のさざめく音しか届かない。


 確信した。洗浄するのは会社の金ではない。個人の金だ。

 紫色の空が青を通って藍色に変わってゆく。西側の空には星が瞬き始めている。


 ふっかけてやろう。

 そっけない態度をしてみせる。

「考えさせてもらう。今から二十四時間後の返事で良いか?」

「君の取り分は40%だ。これから毎月ある」

 馬鹿め。食い付いてきたか。

 反応の早さが、余裕の無さを物語っていた。

「50%は欲しい」

「馬鹿を言え、日本人が値切るなど、君は恥をしらないのか?侍魂を見せてみろ」

 腹の底から笑った。まさか、アメリカ人に侍呼ばわりされるなど思いもしなかった。

 散々笑った後に俺は答える。

「そいつならガキの頃にハラキリしたよ」

「42ならどうだ?」

「話にならない。48」

「45。シナガワ、これがマックスプライスだ」

「OK.Done.」


 ビジネスマンは満足そうな表情を浮かべた。取引が成立し。胸を撫で下ろしているかのようだ。脇の甘さが垣間見える。どうやら、アンダーグラウンドには慣れていないらしい。


 用意するのは、今のレートでおおよそ36万USドル。

 とりあえずの手持ち財産は香港の宝石商から得た20万。シュバルツから回収した金をドルに変えて5万。後、11万はどこかからか借り入れ、ビジネスマンから受け取った金はゆっくりと洗浄すれば良い。


「振込口座を教えろ、二十四時間以内に振り込んでおく」

 ビジネスマンは俺に握手を求めたが、拒絶してやった。仲間になるつもりは無い。彼は肩を竦めてみせる。

 タヒチの海に夕日は沈み。漆黒の海には、音も無く発光クラゲが踊っていた。

【Supplement】

 物語中での設定や背景の説明。


【タヒチの夕日】

・物語に出てくるタヒチの夕日:Google Map

https://maps.google.com/maps?q=-17.588721,-149.495087&hl=en&ll=-17.638051,-149.613029&spn=0.594162,1.056747&sll=-17.588721,-149.495087&sspn=0.297163,0.528374&t=m&layer=c&cbll=-17.638051,-149.613029&cbp=12,0,,0,0&photoid=po-4488569&z=11


【BMPE】

ブラック マーケット ペソ エクスチェンジでBMPE。

基本的に麻薬を売った金を洗浄するのに使用される。

要するに汚れた金を割り引いて、輸出入業者に売りつけるという方法。

手数料を差し引いた形で、現行レートよりも割り引いた形で売りつけられる。

http://www.tabisland.ne.jp/acfe/fraud/fraud_024.htm


【ハワラ】

911の時に明らかにされたイスラームの送金システム。

簡単に説明すると地下銀行がアメリカとA国にあったと仮定。

アメリカで出稼ぎの人が送金する場合、アメリカの地下銀行に金を預け、

地下銀行はA国の地下銀行に連絡し、A国の口座に入れるというもの。

アメリカ側の地下銀行に残高が増え、

これをビン・ラディンが引き出し、911の活動資金になっていた。

http://eng.alc.co.jp/newsbiz/hinata/2005/10/post_127.html



【VRについて】

VR運営企業は企業体なので、当然金にならない事はしない。

VR運営企業の事業内容の一つに仮想現実空間で使える容量を

企業体に卸しているというのがある。

このような空間についての造形については著作権が認められており、

実質VR運営企業によって独占状態。

個人のアバターなどもVR運営企業の許可が必要。

肖像権や他人の著作権などの侵害にあたらないか判断する機構で、

世界にある著作権法とは独立したチェック組織が設立されており、それも企業収益の一つ。

(当然、エロ・グロや思想的なものも排除される傾向が強い。)

ブランド企業などもVR空間に進出しており、それらの意匠は一般のものより高価。


企業側としては、VRという新しいマーケットが出来た事で、

かなりの金額を投資、政府に対しての働きかけも協力的である。

脳にダイレクトに働きかけるという事を行っているので、

広告などは仮想空間の共有スペースでは指定された場所のみ、

もしくは企業が借り入れた仮想空間スペースになる。

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