それぞれの主張
「…え?話しかけた?藤堂さんが?」
「お前、ひょっとして物凄く記憶力悪いのか?」
(え!?
いやいや!名前を覚えるのは苦手だけども!いくらなんでも そこまで悪くないハズ!)
私は広間で皆を待っていたときを思い出すけれど…
(超美形の女の人と話した覚えしかないよなー…
聞くの忘れてたけど、あの人誰なんだろう?剣を使う風ではなかったけどなぁ…)
あ、そういえば 、と藤堂さんは何かを思い出したように言った。
次の言葉を待っていると、彼は私を見てニヤリと笑う。
「?」
「なるほどな」
「??」
「お前さ、土方さん達と合う前に美人さんと会わなかったか?」
考えていた人が会話に出てきて驚く。
「…会いましたけど?」
「その美女の目と俺の目、似てない?」
「似てなくも…ないですけど…」
(この話の流れ…まさか…
いや絶対ない)
恐ろしい予感を必死に振り払う私にとどめを刺すように、藤堂さんがしなしなっと微笑んでみせた。
「!!」
(その微笑みはっ…!!)
「へへっ、どうだ!驚いたかっ」
今度は先ほどの女性らしい微笑みから一変して、いたずらっぽく得意気に笑った。
「えぇ~!!!だってっ…おんっなっ…」
びっくりしすぎて上手くしゃべれない。
(だって、さっきの綺麗な女の人がっ!!藤堂さん!!?)
私は藤堂さんの顔をまじまじと見る。
色白で小顔、整った顔つきに線の細い身体――
確かに、女装が似合いそうだ。
(それにしても、あんなに色気のある人が男だなんて…信じられない。
というか、藤堂さんが何で女装するのさ?
服も化粧も随分と凝っていたような)
「とっ、藤堂さんは監察の仕事もするんですか?」
「いや、あれは趣味」
「趣味!?…あの、大変聞きづらいんですが、コレですか?」
「オカマじゃねーよ!!」
「え?そうなんですか?」
「なんだ?千優ちゃん、へー子と会ったのか?」
「へーこ?」
「平助の女版、だからへー子!」
「おい新八つぁん!それ屁こき娘みたいだから止めろっつってんだろ!!あ、千優も何笑ってんだよ!!」
すると原田さんが口を開いた。
「驚くのも無理ねーよなー。まさか男があんなべっぴんさんに化けてるなんて思わねーだろ。それにしても平助!何であんなにしなしなしてんだよ!男たるものはなぁ、もっと筋肉を…!」
袖を捲し上げて腕の筋肉を見せながら熱弁し始める。
(…だれも聞いてないけど…いいなのかな)
「あんな美女なんだしさ、もっと可愛い名前つけろよ!」
「いくら綺麗でも男じゃ意味ねーだろ」
「何で一くんは、すぐそっちの方に行くかな!?もっと、こー、美を感じようよ!!」
「そしてこの胸筋はぁ…」
「オカマの美なんて知るか」
「オカマじゃねーよ!!」
「んでもって ここの背筋を…」
「土方さんは独り言いってるだけじゃないスか」
「そんなことねーよ!?ちゃんと木と会話…」
「でも返事してくれないんッスよね?それ会話成立してないじゃないッスか?」
「そして木刀を振ると、全身の筋肉が喜んでいるのを感じ…」
(何か…皆バラバラ・・・。
すごく変な人たちばっかりだけど...
何だかいい人達みたい。)
自然に笑みがこぼれた。