決着、そして変人
【佐伯千優】
藤堂さんは案の定攻めてきた。
(やっぱり…藤堂さんは焦ってる)
それ故に何も気づかず、まんまと私の間合いに入ってきたのだ。
今私が見せた隙は、確かに攻めたくなる隙――でも藤堂さん程の達人であれば、私の足が既に踏み込む準備をしていることに気づけただろうに…。
私は踏み込み、私に向かって降り下ろされる木刀の根本を思いきり払った。
『バキッ!』
二つの木刀が、ぶつかった衝撃で木の折れるような音をたてる。
彼の木刀がふっ飛んでいくのが見えた。
ゴロゴロと木刀が転がる音が広間に響きわたり、私は丸腰になった藤堂さんの眉間に木刀の先を向ける。
私の勝利が決まった。
「試合終了!」
土方さんがそう叫ぶと、今まで気づかなかった疲れがどっと出るのを感じる。
冷えていた感情も徐々に温かみを取り戻してゆく。
私は刀を下ろし、まだ何が起こったのか分からないという様な表情をしている藤堂さんに頭を下げた。
「ありがとうございましたっ!!」
「え!?いやぁ…その…こちらこそ」
藤堂さんはまだ困惑しているようだ。
(どうしたんだろう?)
皆のいる方を振り向くと、土方さん以外ポカーンとしている。
(……あれ、…何でみんな動かないの?)
「え?あ…あのぉ…?」
遠慮がちに声をかけた瞬間、原田さんが大声を上げた。
「おおおぉぉぉぉ!!!」
「っ!?!?」
(な…何!?)
びっくりして飛び上がりそうになる私に、原田さんは立ち上がって大股で近づいてくる。
(き…きゃーー!!)
私は声にならない叫び声を上げる。
ムキムキの人が突然奇声を上げたかと思ったら、鼻息荒く急接近してくるのだ。
怖くないわけがない。
(逃げたいけど…腰が抜けて動けない!)
原田さんは私の前でピタリと止まった。
「え?」
「ちっ…ちっ、ひろひろ…おっ」
「…」
(…この人、何言ってるの?)
「げっすっ…な、」
「ぇ…下衆?」
私の言葉にぶんぶんと首を横に振り、彼は懸命に何かを伝えようとする。
…しかし…全く理解不能。
「ごっ、すごっ…、おま……ああああぁぁぁ!!!」
「!?!?」
(また雄叫び!?)
とその時原田さんが手を上げた。
(たっ、叩かれる!)
思わず目を固く瞑り 首をすくめる。
次の瞬間、私は髪をわしゃわしゃと勢いよく掻き乱されていた。
(!?…な…撫でてるつもりなの?)
困惑して見上げると、何故か彼は感慨深げにうんうん、としきりに頷いている。
(なんなのこの人!?)
「『千優、お前すげーな』って言ってるみたいだぜ」
声の方を見ると、いつの間にか土方さんが横に来ていた。
私と目が合うと彼はニコリと笑う。
「そうなんですか?」
「ああ。左之助は興奮すれと呂律が回らなくなるんだ」
土方さんが肩を窄めた。
「じゃあ突然の雄叫びは!?」
「感動したんじゃねーか?あと、うまく伝えられない自分がもどかしくなったんだろ。なっ?」
原田さんは土方さんの言葉に満足そうに頷き・・・そのまま元の場所へ帰っていった・・・。
(ホントなんなのこの人!!)
「腕試しが終わったところで…次に色々考えなくちゃな。ま、座れ座れ」
土方さんに言われて、近藤さんを基準に皆が円になって座る。
どうやら、皆さんには定位置があるようだ。
どこに座ればいいか困っていると、土方さんが笑顔で手招きをして一人分空けてくれる。
その空いた空間――土方さんと沖田さんの間に私は座った。
(回りは男の人ばっかり…。まぁ、当たり前だけど。
何か緊張するっ!!)
小さい頃から近所の男子とずっと遊んでいて、男の子と一緒にいるのは普通の女の子よりも慣れているはずだけど、、、
しかし今回は勝手が違う。
回りに居るのはみんな成人男性だ(恐らく)。
同い年のやんちゃ坊主達と違って、みな大人独特の落ち着きがある。
(落ち着きがあるといえば、沖田さんだなぁ)
沖田さんは若そうだけど、この中の誰よりも落ち着きがあるように見える。
何気なく隣の沖田さんを見上げた。
「っ!?」
(ち…近い!!)
あまりの近さに驚く。
二人分の所に、三人がつめて座っているのだから近いに決まっているのだが…。
(それにしてもっ!!沖田さんの顎におでこが当たっちゃいそうだよ!!)
沖田さんが私の方を見る。
目が合うと 彼はふんわりと微笑んだ。
どんどん頬が染まっていくのが分かる。
私は両手で頬を包みこみ俯いた。
(熱い…)