ー8ー
私達、下っ端の天使には寮のようなものが与えられているけれど、そんなところに帰っているヒマは毎日どこにもなかった。
来る日も来る日も、期限が間近に迫った書類にハンコを押してもらうために、どこかへ行ってしまった上司を探す日々だ。
「どこにもいない…いったいどこへ行ってしまったの?」
一度、自分の部署に帰ってきた。
今日もソルトさんはパソコンに向かっている。
「すいません…また、上司を見失ってしまいまして、心当たりのある場所など教えていただけないでしょうか?」
「うーん…サボっている場所がアソコだとすると、パスがあっても入れないんです」
ソルトさんには、思い当たる場所があるみたいだ。そもそも、このパスがあれば行けない場所はない。わけではないのかしら。
「たぶん、またエデンの園です」
「そういえば、こないだソコで上司に会いました」
たしか、天使が立ち入り禁止区域とされている場所だ。
「あの人、アソコに想い人がいるんですよ」
「上司の好きな人?ですか?」
もしかして、こないだ聞いた声の主?だろうか。
「ま、天使に好きもなにも理解しようもないのですが、気になる人がいるみたいですね」
「そうなんですね」
立ち入り禁止区域だとすると、呼び戻す事は出来ないってことなんだろうか。
私は、入ることができなくても、そのエデンの園の前で待ってみることにした。
エデンの園の扉の前に座ること何時間だろうか。キィィっという古い扉が開く音がして、見上げると上司と目が合った。
「よくココが分かったね」
「……あの」
上司に聞いてもいいことなのか、どうかは分からないけれど、私は質問してしまった。
「上官が好きな人って、どんな人ですか?」
「え?いきなりどうしたの?」
上司の隣を歩きながら、上司の顔をうかがった。純粋に気になっただけだ。そんなに毎日、足を運ぶほどの美人なんだろうか?
「俺の事を好きにはならない人…かな」
「え?」
意外な答えでびっくりしてしまう。
自分に懐いているから気になるとか、そういうことではないんだ。
「だから、りーにゃんみたいに『憧れはベアリエル様です!』とか、言われたら俺なら戸惑ってしまうかもなぁって思った」
気持ちを真っ直ぐに伝えられる事が苦手なんだろうか。普通は嬉しいと思うけど、そうじゃないのかな。
「でも、本当のことなので」
本当の事を口にするのが悪いことだとは思わない。
「………………そっか」
何故か上官は、私の意見に悲しそうな顔を見せた。




