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空を飛んでみたら思いのほか、歩くよりも早くてビックリしてしまった。
当たり前かもしれないけれど、今度から飛んで移動するってことを考えるのもいいかもしれない。と、思っているところに、下のエリアからいきなり突風が吹き、私の体がよろめいた。
体が傾いた衝撃で、鞄の中身の書類をばら撒いてしまいそうになり、羽を動かすことよりも鞄の中身が散らばらないようにするために鞄を必死に抱きしめると、ものすごいスピードで急降下してしまった。
そのまま落ちれば、受け身を取ることが出来ずに地面にぶつかってしまう!と、怖くて目をギュッとつぶってしまった。
林檎の木にひっかかりながら、バサバサバサ!!っという大きな音を立てて、私の体が落ちる。
「わっ……」
地面に落ちる前に誰かにぶつかったような気がするけれど、木の枝に誰がいたというのだろうか。
いろんな事を考えていたけれど、打ち身は免れないだろうと目を開けた。
「いってぇ…」
私の目の前には上司がいて、私の体を受け止めてくれていた。
「え?!」
受け止めたくて受け止めた。という感じではなく、さっきぶつかった相手が上司だったのだろう。
「(なぜ、木の上にいたんですか?」
「羽で飛ぶこと知らない天使もいるんだね」
皮肉にも似た嫌味をぶつけられているようだ。
「す、すいません!!どこからか突風が…」
「まず、俺の上からどいてくれる?」
私は、ササッと上司から離れる。
「何故、こんな所に?(そもそも、ここはどこ?」
「答える義務はないかな」
冷たい上司からの一言に、一瞬で萎縮してしまった。
上司は、尻もちをついてしまった背中の泥を払いながら立ち上がった。
「ここは、天使立ち入り禁止区域だ。もちろん上空もね。もしも、ミカエルあたりに見つかってしまったら始末書ものだろうね」
「…!!も、申し訳ありませんっ」
規則に厳しい天界で、私は始末書を書かなくてはならないほどの大罪を犯していたようだ。
「いいよ。俺と一緒に来たって事にしておくから、出口まで案内するよ。ついて来て」
「あ、はいっ」
上司と2人で木々や花の生えている場所を歩く。雲の上の真っ白いだけの空間な天界からすると、この場所だけとても緑がたくさんあって甘い香りがしている。こんなところが天界にあったなんて知らなかった。
いや、ココが天使が入ってはいけないエリアだとするなら、こんな場所があるということを知ることすら許されてはいない場所なのだろうか…。
『だれ?だれかいるの?』
どこからか声が聞こえた。
私は、声がする方へと視線を動かそうとすると、上司の手が私の目を覆った。
「(マズイな……目を閉じろ。なにがあっても絶対に声を出すなよ?」
なんらかの緊急事態が発生したのだろう、上司のセリフが音を出していないのに、私の頭に直接響き渡る。
私は、確かに上司からの言葉を聞き入れたと合図を出すために目を閉じて頷いた。
その刹那、私は上司に抱きしめられ体を持ち上げれると、ものすごいスピードの速さでこの場所の出口までやってきた。自分の2枚の羽をどんな速さで動かしても、こんな速度に到達することはない気がするほど一瞬の出来事だった。
上司が鍵を使って扉を開けた。扉をくぐった先は見慣れた真っ白い廊下がどこまでも続いている天界らしい天界だった。
「ありがとうございました」
「見つかったのが俺で助かったね。気をつけな」
上司が、その場から立ち去るのを見送って、私はいま閉じられた扉を振り返った。
そこには『立ち入り禁止エリア:エデンの園』と看板が貼られていた。




