ー37ー
「………あ」
当然、腕を引っ張られて部署を出てきてしまったので、いろんな場所への入館パスを置いてきてしまった。
「休業とは言われたけど、部署に戻るな。とは、言われなかったよね??」
部署の扉には、『本日休業』という看板がぶら下がっていた。
私は、ゆっくり音を立てないように扉を開いてなかに入った。
やはり、デスクには上司の姿はない。ふと、パソコンの向こうの応接用のソファーに近づいてみると、上司と水のエレメント神が折り重なるように眠っていた。
「(なんなんだろう?この気持ち」
こないだのキスを覗き見してしまった時のような、驚きとも悲しいとも違う感情は…。
そういえば、控室に毛布とかあったような気がする。と、思い二人の上に毛布をかぶせて退室するつもりだった。
二人に背を向けた瞬間に、私は誰かに右手首を掴まれた。
振り返ると、眠そうな上司と目が合った。
「なにか言いたいことがあったわけじゃないの?」
「(言いたいこと?…エレメント神の睡眠にアナタの睡眠は関係ないのでは?」
と、思わなくもないのだけど…というくらいだろうか?
「ああ、うん。なるほど、でもこんな時でないと俺もキッチリ睡眠取ってるヒマないかなって、いつも思っちゃうんだよな」
私の掴んでいる手から、まるで勝手に心を盗み見たかのような回答をされる。
「人の心を読むの止めてください」
「最後まで口にしそうになかったから、ついね」
そういうと上司は、私から手を離した。
なんで、この人は女の人にされるがままなんだろう。
「上官は………人でなしなのに、お人好し…ですか?」
「笑)………そうかも」
上司が私の言葉に思わず苦笑する。そして、眠っている水のエレメント神の頭をそっと撫でる。
普段はあんなに人に意地悪なくせに、なんて優しい顔するんだろう…ズルいなぁ。
「俺は、『無価値』な存在として生み出されて、過酷な仕事に何の文句も言わず働いているが…こうして誰かに求められる瞬間をシアワセだと勘違いしたいのかもしれないね…」
「なんですか、それ」
それじゃ、まるで私達が上司を頼りにしてないみたいじゃないですか…。
『……………ん』
私達が会話していたからか、エレメント神が起きてしまったみたいだ。
上司の体の上から、上半身を起こすとソファーから降りて私にペコリと頭を下げる。
『お仕事の邪魔をしてしまって、スイマセン』
「あ、いえ。こちらこそ起こしてしまって、すいません」
お互いが頭を下げ合う。横目に見ていると上司はあくびをしている。
「あ、あの!ハーブティーを入れます!ので、お待ちください」
私が急いで控室に消える。ソルトさんから、二人の邪魔をしないように言われていたのに…起こしてしまった。
ポットのお湯をティーカップに移して、この部署にあるあらゆる茶葉を持って応接用のソファーに戻ってきた。
「お好きなものをどうぞ!」
『では、カモミールティーを…』
たしかにソルトさんが言っていた通り、優しい印象で人に意見とか言えなそうな雰囲気だ。
「あ、俺も。砂糖2つで」
「…仕方ないですね。今日だけ特別ですよ」
私は、控室にティーカップを取りに戻る。
『優しい人が部下に入ったんですね』
「優しいのは、今日だけらしいのに?」
私が戻ってくると、上司がソファーに座り直していて、二人にカモミールティーをお出しした。




