ー32ー
《ソルトの目線》
「リリナさんが遅刻なの珍しいですね。今日の案内役には僕も同行します。」
と、式典の当日にリリナさんの居ない部署で、僕はそう言った。
「ありがうございます!」
偽物の上司が、眠れなかったのか真っ赤な目を潤ませながら言った。
「ともすれ、リリナさんがいないと着ていく服の色も分からない…」
クローゼットを開けた前で僕が困っていると、いきなり外側から慌てたリリナさんが走り込んできた。
「はぁはぁ……す、すいません。遅れましたっ!(2時間くらい喋っていたつもりが…半日もたってたなんて!」
「もうすぐ式典の時間ですよ?」
リリナさんはどこに行っていたんだろうか。上司が行きそうな場所が分かった、と言っていたけれど上司を連れて帰ってきたわけではなかった。
「すいません!すいません!白い服を着せてくださいっ」
息を切らせて苦しそうなリリナさんの代わりに僕は上司に白い法衣を着せる。
「完璧です!行きましょう!」
僕とリリナさんととりあえずの上司の3人は、部署を出た。
今日は、めずらしくこの3人が人間界へと向かう。本来、小隊や中隊の3人が人間界に行くこと事態あまりないことすぎて、上手く立ちまわれる自信はない。
日本という土地の東京ドームという広い敷地にやってきた。そこにローマ法王が35年ぶりに来日するのだという。
このローマ法王は、危険が大好きなのか、牢獄の死刑囚に説法したりと、頭の構造がまともではなかった。
それでも35年前の死刑囚は、彼の話に涙を流したというのだから、偉大な人なのかもしれない。
それに比べれば、今回の集まりは日本の中にいるカトリックの学校や移民の外人が多く参列する会なので、死刑囚相手よりは安全性が高いような気もするのだけれど、天国の上層部の人達がこんなに集まって会議をしていたのだから、反デモな人間が会場内にいれば、大変危険なのかもしれない。
僕達は、まず控室にいるローマ法王との挨拶へ向かった。
コンコンッと控室をノックしてから、扉を開けた。
そこには白い衣装を身にまとったヨボヨボのジジイが椅子に座っていた。
「oh!今日は、ヨろしくお願いシます」
カタコトの日本語を喋ってきたので、こちらも頭を下げた。
「えーと、当日の流れはご存知かと思いますが、まず上官にはローマ法王に扮していただきます。そして、登壇ください」
「声は、本物のローマ法王が控室からスピーカーを使って流しますので、上手いこと口パクをお願いします」
偽物の上司とローマ法王が握手を交わす。
「……えと、ずっと疑問だったんだけど、扮するって、どうしたらいいんでしょうか」
「え?えーと?」
リリナさんが僕の方を見てくる。
「(おい!どーすんだ…」
僕は、昨日の夜に部署にやってきた上司と打ち合わせをしていて、インカムで上司と当日コンタクトが出来るようになっていた。
『まず、偽物くんの肩に手を置いてくれる?』
僕に上司からの声が耳に直接届いている。僕が、指示の通りに肩に手を置くと、相手はしゃべり始めた。
「え?あ、はい!分かりました。ローマ法王を見つめながら、復唱します。
ー我、この良き日に汝の姿を借りる者、
その心を通わせ、心を開きたまえー」
僕が手をかざしている事で、上司の声が偽物の上司の耳に聞こえているのか、いきなり偽物の上司が何やらブツブツと言い始める。
すると、光の粒が折り重なって、上司の見た目はローマ法王へと変わった。
『すごい……』
こういう姿を目の当たりにすると、うちの上司は本当に上級の天使なのではないかと錯覚してしまう。
「それでは、本物のローマ法王の警護をリリナさんはお願いします」
「了解しました」
正直な話、控室の外にも警護はいるから、コチラはそんなに問題が起こることはないだろう。
ローマ法王の姿になった上司に、今日壇上で喋るカンペのようなものを手渡す。
僕達の作戦として、長い1日が始まりを告げた。




