ー31ー
ジャングルのような森の中を歩いていくと、何かを祀るような祭壇が出てきて、そこに部署から逃げ出した上司と1人の女の子がいた。
「〜♪」
さっきの歌みたいな声は、女の子のものではなかった。
私の上司って歌も上手いんだ。そうか、今は若い青年の体を乗っ取てるから、いつもより声が高いし歌声がソプラノみたいな感じに聞こえていたんだわ。
「(わっ!!!」
思わず、声がでてしまいそうになって口を押さえた。
上司が女の子とキスする瞬間を目撃してしまった。
私は、木の影に隠れるように身を潜めた。声はなんとか出ないように出来たはずなのに、上司はエデンからさっさと退室してしまった。
その表情がとても曇っていて、好きな人に会えたはずなのに、なんでそんなに苦しそうなんだろう?と思った。
『………あなたは、誰?』
いつの間に私の真横へ来ていたのか、上目遣いで女の子が私に話しかけていた。
「ひゃあ!!…………………ぁ」
せっかく声を我慢できたというのに、声をあげてしまった…。
『大丈夫。ココには私しかいないから、ね?』
私をなだめるように女の子が安心感を与えようとしている。
『あなたは、今の人が好きなの?』
「え??」
今の人って上司の事?
「ま、まさか、そんなわけありません」
声を出したらダメなのに、思わず反応してしまった。
『じゃーなんで、そんなにドキドキしているの?』
「え?!」
それは、まさか上司がイチャイチャしてるところを見ると思ってなかったからで。
『ずっとドキドキしてたよね?』
少女は、私がこのエデンに入ってきたときから、知っているかのように今だけではなく「ずっと」と言ってきた。
「そ、それは、この場所は本来なら私みたいな者が入ってはいけない場所で……だから、です」
『そうなの?』
どうにか上司にドキドキしていたわけではない。という理由を提示した。
『せっかく会えたのに、お話はできないの?』
「そうですね」
私が、来た道を戻ろうとした時、私の腕をガシッと掴まれた。
『……あなたが来た事、言っちゃうよ?』
「え……」
上司の好きな人は、上司と同じくらい性格が悪かった。
「そ、それは…困ります」
『じゃーお話しましょう☆』
にっこりと微笑んだ少女に強制的に私は祭壇の前に連行される。
もしかして、私…偉い人にバレなくても殺される?運命にあるのかしら…と、少し身震いをした。
『今来た人、なんでいつもと見た目が違ったの?』
「それが私達にもよくわかってないんですけど、誰かと入れ替わってしまったみたいで」
そもそも機密情報の漏洩にならないように喋るようにつとめる。
『私ね。この世界しか知らないんだけど、貴女と入れ替わったら別の場所に行けたりしないかなーなんて?』
少女は、可愛い顔で恐ろしいことを口にした。
「えぇ?!そもそもどうやって入れ替わったのか分からないので、無理です」
『そっかぁ(殘念、私がココを脱走することは難しいか……』
少女がとても悲しそうな顔を見せる。
そもそも、この場所はなんのためにあるんだろうか。
『私ね。いつも、この場所に一人だから寂しいんだ』
「入れ替わったとして、どこへ行きたいと言うのです?」
自分の話はできないから、極力相手からの会話を引き出そうとした。
『好きな人……の所、とか?』
少し悩みながら口にした答えは、なんだか本当の答えではなさそうだった。
『貴女に好きな人はいないの?』
「私には、好きという感情がよく…わからないので」
『ん〜……いつもその人の事を考えてて、毎日追いかけて、ずっとドキドキしてる感じじゃない?』
それが、私の上司への感情に似てるってことなの?たしかに、毎日上司の事を考えて追いかけて、日々イライラドキドキしているけれど、やっぱりなにか違うような気がする。
「それは、憧れとはどう違うのでしょうか?」
『憧れは…その人にとって代わりたい自分がいるってことだよね?それは好きじゃなくて野心じゃない?』
「!!」
私は、まさかのベアリエル様に野心を向けて生きていたというのか?!
私は、好きがイコール憧れなんだろうと思っていただけに、現実を突きつけられて愕然とした。
『憧れの人なら居るんだ』
「はい。ベアリエル様に憧れていて」
『ん?』
私の憧れの人を口にすると、少女はハテナ?という顔を見せた。
『それは、天使の名前なの?』
「はい」
何に疑問を感じたのか、聞き返されたので頷いた。
『この天界に、そんな名前の人は居なくない?』
「え?」
『(もしかして、最近産まれた天使か何かなのかな』
もしかしなくても、この部屋から出たことがないから、いろんな天使様の事を知らないのかしら?
ベアリエル様は、一番初めに創られた天使様だから、知らない人はいないと思っていた。
気がつくと数時間が経ってしまっていた。
「あ、私は会議があるから行かないと」




