ー18ー
「俺は、用心深い奴でさ。自分がこの部屋を離れる時は部屋を荒らされたくなかったから、偽物のハンコを作ってデスクに置いておいたんだよね」
それは、もしかして…今日の昼間に中庭で伐採した木で何か作っていた物のことだろうか?
「なんのために?!」
その行動には、大柄な上官も呆れてしまっている様子だ。
「アンタみたいに無断で自ら作成した書類にハンコを勝手に押す人のためなんじゃない?」
総務に残されたコピーのハンコを確認すれば、上司が手彫りで作ったこの世に唯一のハンコだということが分かり、そのハンコが作られたのが今日で、そしてそれを使ったのも今日だと言うことが判明してしまうだろう。
「でも、その前に天界で働く者にセクハラする上官ってのも…いただけないよね」
「(…どの口が言ってんだろ…」
もしかして、これがソルトさんの言っていた上司は全て分かっていて私達への指示を考えた。ってやつなのかしら……
「経理横領未遂、文書偽造、セクハラ被害……そんな天使が、はたして天界の上官として認められるだろうか?」
「ぐっ……………」
大柄な男が床に膝をついた。
「ミカエルも神様も…アンタみたいな天使を救いはしないだろうなぁ」
床に膝をついた男の肩に手をのせた上司が、その耳元でなにか囁いた。
「……だから、アンタの羽根が無くなるほうが先だって、そう…言ったろ?」
「お前!こないだのガキ!!」
「俺の目の前から消えろ」
大柄な上官が何か言うよりも早く、さきほどの剣がその胸に突き立てられた。
羽根が切り落とされた時と同じように、血もなにも流れることなく光の粒が飛散する。
なにが起こっているのかも理解できない私の目の前にいる上司と目が合った。
「ごめんね。怖かったよね」
「いえ、まさかシャツが破かれるとは思っていなかっただけです」
「りーにゃんなら、あの強烈な回し蹴りがあるから、なんとかなるかな?って勝手に思っちゃってたんだよね」
それは、上司に出会った初日に私が上司にしたことだが、指示があったから仕方なくしただけのことで、まさかそれを他部署の上官にすることなどあってはならない事だろう。
「…無駄なことなんて1つもなかったでしょ?」
上司は、私の胸からこぼれ落ちた本物のハンコを拾い上げながら、そう言った。
不正を行っている人を捕まえるために、偽物のハンコを用意することが、はてして無駄ではない。と言いきれる自信が今の私にはなかった。
「…何故か、いま防犯カメラは直りました」
隣の部屋にいたソルトさんもこの部屋にやってきたみたいだ。
「そう。それは、よかったね」
「(まさか、さっきの犯罪天使を審議会にかける前に自ら殺すために防犯カメラを操作したのって……奴では?!いや、ソレを疑い始めたら僕も殺されるのか?」
「ソルw百面相がやばいよ」
ソルトさんが黙って何か考えている事を、心を読んでいるかのように上司が笑う。
「あと、りーにゃんは新しい制服が届くまで俺のシャツと上着貸すよ」
「え?!いえ、上官の上着はそれだけで権威があるものですから、借りるわけには……」
きっと自分の寮に戻れば予備くらいはあったと思う。でも、早めに制服の申請はしておかなくちゃ。
「二人とも今日は俺の指示に従ってくれてありがとうね」
リ)「ところで、天界六法の件なのですが…」
上司)「あ、それはもうやらなくて大丈夫」
り)「え?!……そ、そうですか(なんだったんだろうか」




