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私は、天使として生まれ、天国という場所で仕事をしている。
毎日、毎日、書類をいろいろな場所に届けたりして、誰に感謝されるわけでもないのに、いろんな部署を飛び回っていた。なんで、自分がこんなことをしなければならないのか?と思ったことはない。けれど、
「(羽根があるのに、なんで廊下を走っているんだろう」
と、思うときはたまにある。天国から出る仕事のない私にとって、背中の羽根はあるようでないものと同じだった。
いまは2枚だけの私の背中にある羽根が、いつかあの方のような6枚になるために、頑張らなくちゃ。と、思っていた矢先にそれは起こった。
「リリナくん。…いまの部署から、第三地区の彼の元へ行ってくれないか?」
いきなり、上司に呼び出された。
「…それは………いいえ、なんでもありません」
疑問を抱いてはならない。たとえ、これが左遷であったとしても、私なんかが文句など言える立場にはないのだから…。
「よりにもよって、なんでココなの?」
私が向かうように言われた場所は、天国の中で一緒に働きたくないNO.1の上司がいるところだった。
「…………はぁ」
大きなため息がでた。けれども、私はどうにか自分を奮い立たせると、新しく働く部署の扉を叩いた。
なんの返答もない。出動していて、誰もいないのだろうか?
少しおかしく思った私は、自ら扉を開けることにした。
扉を開けると、目の前には書類の山が天井まで届きそうなくらい積み上がっていた。
「………………え」
どこの部署を覗いてみても、こんなに書類が積まれているところを見たことがない。
キョロキョロと周りを見渡すと、1人の社員がパソコンをカタカタと叩いていた。
「あ、あの、今日からコチラで」
「……………。」
それは、無機質なパソコンを叩くだけの人形なのかというほど、ピクリともしない。
「新しく新任したリリナです。私の仕事を」
自分の話が終わる前に、パソコンを打っていた人が手を止め、その右手を書類の方へと向けた。
「あの人、起こして聞いてください」
「はい」
あの人?と思いながら、デスクへと近づいた。たくさんの書類が積まれた机で昼寝をしている上司の姿があった。
「あの!」
大きな声を出しても全然起きる気配がなかった。なので、体を揺すってみることにした。…けれども、やはり上司は起きそうになかった。
仕方なくさっきの人にもう一度聞いてみようと振り返ると、その人からさらに追加注文がやってきた。
「蹴り飛ばして、床に叩きつけてください」
「え…」
「早く!」
冗談なのかな?と、思ったんだけど、その人の本気度に「大丈夫かな」と思いながらも、デスクで眠っている上司の脇腹を蹴り飛ばした。
ドスッという鈍い音と共に上司は体のバランスを崩して椅子から落ち、床に勢いよく転がった。
「いってぇ…………アンタ誰?」
「すいません。説明が遅れました。今日からコチラで働くことになったリリナです」
上司は、私を視界に入れると、ようやく立ち上がった。
「いいね。その蹴り、採用」
「えっと」
そんなことをどこの部署でも言われたことがなくて唖然としてしまう。
そもそも左遷先なのに不採用な事もあるのだろうか??
「アンタの得意分野は、何?」
「はい。前職では、配達を担当してました」
「ふーん。なるほど。足は丈夫な方?」
質問の意図として、何を聞かれているのか分からず、曖昧な答えを返した。
「おそらくは…」
「いまから書類さばくから、今日中に全部回ってもらえるかな?」
上司からの質問にNoと答えられる部下なんているわけもないとおもうのだけれど……まさか、この人はこの天井まで伸びた書類を今日中に処理するとでもいうのだろうか?




