保土ヶ谷ゾンビ
翌日の夕食はハンバーグだった。
チーズの載ったハンバーグだった。
載せられたチーズを丁寧にハンバーグの横にずらし、ゾンビは嫌な予想をしながら恐る恐るトレイの上のハンバーグを割った。
ゾンビはおもむろに立ち上がり、トレイを持ちつつ壁の受話器の横に移動した。
受話器を取り話しかけた。
「このハンバーグを作ったのは誰ですか?」
普段の「もしもし」と違う問いに受話器の向こうの相手は「はい」と答えてしまった。
「このハンバーグを作った方は誰ですか?」
「この施設内で調理しています」
欲しい回答でない事に少しイラつき、再度問いかける。
「このハンバーグを作った方は施設内に今、いますか?」
「はい、います」
「作った方を呼んでもらえますか?」
「少々お待ちください。」
今思うと、ここが受話器の向こうの相手の災難の始まりだった。
「お待たせいたしました。」
少し緊張した声だった。
「申し訳ございません、規則で担当を呼ぶことはできませんでした。」
「そうですか、規則ですか」
「では、伝言を願います。」
そこからは酷かった。
TVなら放送できない様な、罵詈雑言だった。
要約すれば夕食で出されたハンバーグが生焼けだが、細々としたところを責め立てる。
最初は「はい、はい」と応対していた受話器の向こうの相手が無言になり
その後、泣き始めたところで強制的に通話が切られた。
溜まっていた不満が解消されたのか、ゾンビは受話器を戻しスタスタを元の場所に戻った。
以降、監禁生活は続いたがハンバーグが食事に出されることは一度も無かった。




