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街角ビュー。


 360度パノラマ写真で見られる地図アプリがある。


 矢印の方向へタップすればそこへ進むし、ドラッグすれば周りを見渡せる。


 行ったこともない外国の風景も、旅するように楽しめる。


 さらに日付を選択すれば、その場所の過去の風景も知ることができる。


 見慣れた風景ですら、自分が知らない過去の景色を見せてくれる。


 家の中に居ながらにして、遠くを、あるいは過去を訪れることができる。


 とても便利で、なかなかに夢のあるアプリだ。




 外に出るのは億劫だ。暑いし、金もかかる。


 夏休みの彼の楽しみは、もっぱらゲームかネットサーフィンだ。


 今どきは家の中に1日居ても退屈することはない。


 親はふたりとも仕事に行ってるし、うるさく言われることもない。


 日がな一日閉じこもって、パソコンと向き合っている。


 わざわざ暑い中お金をかけてまで遠くに旅行に行かなくても、パノラマの地図のサイトで外国へも行ける。飛行機に乗らなくても、国から国へ瞬間移動。パスポートもいらない。わずらわしい行列に並ばなくてもいい。こんなに気軽で楽な旅行はない。


 地図に使われるパノラマ写真は、誰かがカメラを背負って歩き回って撮っているものだと聞いたことがある。


 ふと彼は自宅の近くにも来たのだろうかと検索をかける。


 彼の家は最近山を切り開いた新興住宅街にある。


 こんな一般の家ばかりのところにカメラが来たとは思えなかったが、探してみると驚いたことに、あった。


 家の前の道路にしっかりと矢印があり、ドラッグして横を見上げると自宅の外壁が見える。


 お隣も、そのお隣も。道の向かいも見知った家がある。


 ぐるりとドラッグすれば、上も下も横も、見慣れた風景が映る。


 へ~っと彼は少し嬉しくなる。ちなみにどこまで映っているんだろうと矢印の進むままにタップしていくと、突き当りの細い道でパノラマ映像は進まなくなった。


 そこから先はまだ開発されてない林だし、上も下もありきたりの住宅街なので仕方ないのかなと彼は納得した。


 ドラッグして振り返り、元の道を自宅へと戻ろうとして思う。


 そういや何年前までの写真があるのかな、と。


 彼の家はここに建ってまだ3年。この辺りが開発されてもまだ5年ほどしか経ってないはずだ。


 その前はただの山だったはずだし、いったいいつ頃からパノラマ写真として残っているのだろう。


 画面を下へスクロールすると、6年前の写真からあった。


 6年前は赤茶色の土の斜面が映っているだけで、何故こんな景色をパノラマ写真に残そうとしたのかまったく意味が分からない。


 5年前は区画整理がなされていて、それぞれ住宅ごとにコンクリートで仕切りがなされている。


 今でこそ家がそれぞれ建っているが、家が無いとこんなにも広いもんなんだなあと彼は驚く。


 4年前はぽつぽつと家が建ち始めた頃らしい。彼の家の2軒隣も、左斜め後ろの家も建っている。道を挟んで向かいの家も建っている。



「あれ?」


 この時はまだここに家を建てる予定はなかったと思う。


 その、今、自分の家が建っている土地に、なにか変なものが生えている。


 生えているというか、突き出ている。


「?」


 彼はドラッグして近づく。


「……手……?……腕……?」


 土地の奥側で、はっきりとは見えない。


 泥だらけだし、細いし、なんとなく腕を突き上げたような形に見えるから先っぽが手っぽく見えるだけで、まさかそんなはずはない。


 でなきゃ、本当に人の腕なら、あんなにはっきり地面から突き出ていたら、この時家が建っている2軒隣の人も左斜め後ろの家の人もお向かいの人も通報しているはずだ。


「……まっさか~……」


 恐る恐る画面を拡大してみる。


「……」


 なんとなく、やっぱり、手に見える。


 でもなにかこの辺りで事件があったとか、ここの土地が事故物件なので安かったとかいう話も親から聞いたことはない。はたして土地も事故物件というのかどうか知らないが。


「ええ~……」


 彼は画面をもとに戻す。


 なんとなく寒気を感じて首をすくめる。両腕を抱いて擦る。慌てて後ろを振り返り、誰もいないことを確認する。


 椅子を立って部屋のドアを開け、耳を澄ませて階下にも誰もいないことを確かめてから椅子に戻る。


 とりあえず、両親が帰って来てからこの家を買った経緯を聞いてみようと思いつつ、後ろへドラッグすると。


「!?」


 彼は椅子から転げ落ちた。




 画面には、道にゆらりと立つ、泥だらけの青白い女がこっちを向いて映っていた。




           おしまい







  

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