勇者補助金詐欺
「ついに追い詰めたぞ、魔王!」
青年の声が大広間に響いた。
魔王城の大広間にて、勇者は玉座に座る魔王を仰ぎ見る。
これから始まる戦いに、彼は闘志をみなぎらせる。
捻じくれた二本の角を持つ魔王はニヤつきながら、勇者に話しかけた。
「遅かったではないか、勇者よ。しかし、お主の仲間の姿が見えぬなぁ。戦士は、魔女は、聖女はどこにいった」
「……っ、その口を閉じろ!」
勇者が魔王を睨みつける。
長剣を握る両手はは固く締められ、震えている。
さて、どういたぶってやろうか。
魔王がその強靭な肉体を用い、勇者に飛びかかろうとしたその時──
「魔王よ、今日が貴様の命日だ!」
大広間の入口の扉が開かれ、ボロボロの鎧に身を包んだ戦士が飛び込んできた。
「ほう、生きておったのか。ならば勇者ともども……」
「魔王、今日があなたの命日よ!」
再び大広間の扉が開かれ、とんがり帽子を被った魔女がゆっくりと歩いて入室する。
「今日私は世界を救います。魔王、あなたを倒して!」
三度扉が開かれ、白い修道服に身を包んだ聖女が現れる。
……なんだ、こいつら。
「お主ら、なぜいちいち一人ずつ入ってくるのだ? 冒険者パーティーなら常にまとまって行動するものであろう」
勇者が吠える。
「黙れ! 我々はパーティーでも、ましてや仲間でもない。」
斧を肩にかつぎながら、戦士がつぶやく。
「そうだ、俺達はたまたま同じ相手と戦う、無関係な冒険者だ」
聖女が苦々しい表情で告白する。
「そうしないと、冒険者ギルドの単独冒険者向け救済金が受け取れないのです」
魔女が聖女をたしなめる。
「ばか、どこにギルドの目と耳があるか分かんないんだから、余計なこと言わないで!」
お互い無関係だと主張する勇者、戦士、魔女、聖女の、魔王との最後の戦いが始まる。