071 イサナ・ドワーフ交流祭
ドワーフの里の広場に人が増え始め、刻一刻と賑わいが増していく。
お祭りが始まるのを、まだかまだかと待ち構える空気。
イベントの朝の雰囲気は、結構好きだ。
「おー! ドワーフたちの屋台は、お酒が多いなぁ」
広場を囲うようにドワーフの里とイサナ王国、両方の屋台が所狭しと並んでいる。
イサナ王国の屋台は様々な料理を売る、見慣れた屋台という感じだ。
それに対してドワーフたちの屋台は、酒瓶に酒樽に酒壺――潔いほどに酒しか置いていない。
「俺も酒が飲めたら、桃源郷に思えたのかなぁ」
思わず見入ってしまうほどに、圧巻の品揃え――酒揃えである。
しかし酒は飲めなくとも、料理の仕事仲間だ。
店の屋台も、しっかり盛り上げていこう!
「よし、今日の役割分担を改めて確認するぞ!」
「「「 はい! 」」」
ドーネルさんが用意してくれた炉の上には、所狭しと料理が並ぶ。
そして炉の前には、トルトにヒューにフェルミス君――ピコピコのスタッフが集結。
お祭り客に対応するための、打ち合わせを始める。
「ヒューはピザの販売。それと追加分の焼成を頼む」
「わかりました!」
やはりお祭りには、手づかみで食べるスナック感覚のフードが欠かせない。
具材やピザ生地の準備はしっかりしてあるし、今のヒューなら遅滞なくピザを焼けるだろう。
それに――
「トルトはオーダーの受付とお会計な。それとヒューがピザ焼きに入ったときに、ピザの販売も一緒に頼む」
「はーい」
臨機応変にヘルプ対応ができる、トルトもいる。
さすがの初期メンバー、安定感が半端ない。
「フェルミス君は、煮込み料理と肉料理の盛り付けを頼む。種類が多くて大変だけど、大丈夫かな?」
「店長さんがしっかり準備して下さってるし、大丈夫ですよ。お任せください」
「くぅぅ……頼もしい!」
そして神がかった仕事捌きの、フェルミス君。
作り置きとはいえ、所作も盛り付けも美しくて惚れ惚れしてしまう。
「トリッパは追加もたくさんあるから、具だくさんで盛り付けてあげて。スープから、お肉が見えるぐらいに」
「わかりました」
大きな寸胴鍋には、鮮やかなトマトソースのトリッパ。
ヒューたちに頑張って洗ってもらったハチノスやセンマイに加え、第一胃や第四胃も入れて具沢山に仕上げた。
肉と野菜の旨味とニンニクのパンチで、お酒に合わないワケが無い。
「それからパンパネッラとポルケッタは、盛り付けた後に肉汁もたっぷりかけてね。バゲットと一緒に食べると、すごく美味しいんだ」
「はい」
「あとカチュッコは……」
「もう! そんなに話してたら、フェル君が疲れちゃうよ。店長さんも自分のパスタの準備して!!」
「お、おう……!」
フェルミス君に盛り付けについて伝えていたら、トルトに怒られパスタのコーナーに追いやられてしまった。
俺は折り畳みテーブルにカセットコンロを置いた簡易ライブキッチンで、パスタを作る担当デス。
「それじゃあ、みんな! 今日は頑張ろうね!」
「ウッス!」
「はい!」
「えぇ……それ、俺のセリフ~」
仕切り役をトルトに乗っ取られ、朝の打ち合わせが終わる。
ほどなくして転移トンネルの扉から、イサナ王国の人々が続々と広場にやってきた。
ドワーフの里の人達も、どんどん広場に集まっていく。
「すごい、ピコピコの屋台だ! 見たこと無い料理もあるよ」
「うわあぁ、辛そう!! でもすごいお肉……ねぇ、一緒に買って半分こしない?」
「うん、いいよ!」
魔導学園の学生さんと思われる子たちが、パンパネッラの前で立ち止まる。
真っ赤な粉を纏った肉の塊は、やはりインパクトがあるのだろう。
道行くお客さんたちが、立ち止まって眺めていく。
そして隣のトリッパの寸胴鍋の方にも、お客さんが並び始めた。
「おや、こいつは溶岩パスタのスープだけのものかい?」
「こちらはトリッパといって、牛の胃袋を煮込んだ料理でございます」
「へぇ、肉料理か。旨そうだ! 一つおくれ」
「かしこまりました」
丁寧に説明をしながら、フェルミス君は料理を盛り付ける。
俺の要望通り、肉がゴロゴロと山のように盛り付けられるトリッパ。
お客さんは少し驚きながら、笑顔で受け取っていく。
「あ、ここでパスタを作ってもらえるんだ。店長さん、スペシャルペペロンチーノを一つください」
「かしこまりました!」
簡易ライブキッチンにも、注文が入る。
フライパンに硬めに茹でたパスタを入れ、パンパネッラの肉と肉汁を加えて火にかけた。
ジリジリとした音と共に、ニンニクと香辛料の香りが広がって行く。
「ええ!? あのお肉と肉汁入るのぉ!? 絶対美味しいじゃん!」
「すいません、次ペペロンチーノ二人前お願いします!」
「俺も食べる!」
「かーしこまりましたー!!」
一つ作り始めると、次から次へと注文が舞い込んでくる。
おかげでピコピコの屋台は、大盛況だ。
みるみるうちに、用意した料理が減っていく。
「すみません、店長さん。そろそろトリッパが無くなりそうです」
「わかった、次のを取ってくるな」
「トルトセンパイ、俺ピザ焼いてきます!」
「オッケー、こっちは任せて!」
売っても売っても、お客さんの列はなかなか途絶えない。
スタッフ総出で休む間もなく、気が付くと数時間が過ぎていた。
「……そろそろ客足も落ち着いてきたかな」
ようやく息をついたのは、広場の真ん中で後夜祭の準備が始まるころ。
なんだか――駆け抜けたって感じだ。
「仕上がってきた、という感じでしょうか」
「え?」
フェルミス君の言葉につられ、彼の視線の方を振り向く。
屋台の裏には敷物が幾重にも広げられ、ドワーフたちの宴会場になっていた。
「いつの間にこんな集団に……!?」
「僕も少し前に気づいたのですが、ちょっとビックリしますよね」
各々の酒瓶を抱え、ピコピコの料理を楽しんでいるドワーフたち。
敷物のあちらこちらに料理を食べ終えた紙皿が、大量に積み重なっている。
「店長! このトリッパってやつ、旨いぞー!!」
「肉もな! とんだ酒どろぼーだぜ!」
「あはは……」
盛大な宴会場に驚きつつも、料理を楽しんでもらえたようで嬉しい。




