063 トンネル開通
俺が狩りやなんやとドワーフのみなさんと交流すること、一週間ほど――
王国の関係各所で転移トンネルについての話がまとまったと、マリカ様から報告を受けた。
「ではでは……僭越ながら、私がトンネル作成の指導役を務めさせていただきます」
「よろしくお願いします、ドーネルさん」
いたりあ食堂ピコピコのセルフレジの前に、俺とドーネルさんが並び立つ。
俺が狩りやなんやとドワーフのみなさんと交流している間に、王国の関係各所で転移トンネルについての話がまとまったようだ。
王国の騎士や魔導学園の関係者立会いのもと、転移トンネルの設置することになった。
「マリカ様とトルトも、よろしくお願いします」
「承知した」
「はーい!」
一応、王国と外部の里を繋ぐ道になるので、出入り口の警備が必要になるらしい。
それでマリカ様を始め、数名の騎士が店や店の前に待機している。
魔導学園からは、学術的な研究や見学といったところだ。
「さっそくですが、まずは通りとなる空間を設置していきましょう」
「はい」
「すでに室内の拡張を行ったことがあるそうですが、それと基本的に同じです」
ドーネルさんに指示されながら、店の拡張画面を開く。
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→外通路(洞窟)拡張:200万マジカ
フロア拡張に伴う活動必要マジカ:+10万マジカ/月
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維持費が増加するのは覚悟したけど、月10万マジカはでかいな。
一応王国も支援してくれるって話だし、お客さんも増えるだろうけど……。
固定費が増える決断は、何度経験しても胃が痛む。
「洞窟タイプの空間……どうやら設置場所を、選べるようですね」
「キッチン側か客席側かを選ぶのか……とりあえず、キッチン側かな」
通路を設置した側には、壁に窓が設置されるみたいだ。
それならキッチンが見えた方が、通る人も楽しめるだろう。
俺は画面をタップして、通路の設定を決定する。
するとキッチン側の壁が光りだし、ガラス窓が出現した。
「すごい! 窓が出来たよ!」
「ほう……通路はこうなるのか。結構広いな」
出現した窓に、マリカ様とトルトが近づく。
窓の外には、壁に沿って通路が出来上がっている。
通路が出来たのを確認すると、ドーネルさんが次の設定について話す。
「どうやら、洞窟の天井を変更できるようですね」
「ああ、前にちょっと見たやつだ。これは星空にしようって、決めてたんですよ」
なんか星空の下でイタリアンの店に行くって、ちょっとオシャレかなって。
それに天井のビジュアルオプションは、維持費に変更は無いのがありがたい。
セルフレジのモニターに表示された天井のイメージ画像から、星空をタップする。
洞窟通路の窓に、天井の光が差し込む。
「わわっ! 通路の天井が星空に!?」
「まるで本物の空のようだな……」
窓の前に立つマリカ様とトルトが、不思議そうに通路の天井を見上げる。
ああ、俺も直接見に行きたい!
でも今は、通路を設置を終わらせないとな。
「あとは、扉の設置です。まずは、王国側に設置してみましょうか」
「えっと、これですね」
設定画面に戻ると、新たな洞窟のアイコンが表示されている。
アイコンには扉のマークが乗っていて、タップするとイサナ王国とドワーフの里の選択肢が現れた。
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→イサナ王国への扉(消費MP1/30分)設置:20万マジカ
→ドワーフの里への扉(消費MP1/30分)設置:20万マジカ
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扉の維持費は、俺のMPなんだな。
二つ合わせて一日100ポイント弱なら余裕だし、月額マジカの支払いより気がラク。
サクッと扉の設置のアイコンをタップすると、外がガヤガヤと騒がしくなる。
「マリカ様! 店の壁に、扉が現れました!」
外で待機していたセシェルが、店の勝手口から顔を出す。
ちょうど勝手口の前あたりに立っていたマリカ様が、面白そうに指示を出した。
「よし、セシェル。扉から中に入ってみろ」
「はい!」
指示を受けたセシェルは、勝手口から顔を引っ込める。
そしてすぐに、窓の外の通路に姿を現した。
「あれ? ピコピコにこんな窓、あったっけ……わあああ!? 星空ぁぁぁ!!」
「ふふ。騒ぎ過ぎだ」
天井を見上げて目を輝かせるセシェルに、マリカ様が嬉しそうに微笑む。
そんなに良い反応してもらえると、星空を選んだ俺も嬉しい。
「次は、里側の扉ですね。同じように、設置していきましょう」
「わかりました」
ドーネルさんに促され、今度はドワーフの里側の扉のアイコンをタップする。
今度はセシェルが向いている方向が、光り出す。
「洞窟の奥にも、扉が出現しました!」
「よし、セシェル。扉を開けてみろ」
「はい!」
どうやら、無事に扉が出現したようだ。
設置された扉の方に、セシェルが走っていく。
≪パフパフ――!!≫
「ドワーフの里へ、いらっしゃーい!!」
「……らっしゃーぃ」
ラッパの音と共に、フーワさんの元気な声が聞こえてきた。
間違いなくドワーフの里に、扉が設置されたのだと分かるな。
「へぇ~! ここからアンタたちの国に、直接行けるのかい?」
「はい! しばらくは通行制限がありますけどね」
さすがに無制限に王国と里を出入りするというのは、許可が出せないようだ。
しばらく通行できるのは、騎士団と一部の代表者のみ。
ゆくゆくは冒険者や一般民も、行き来できるようにしたいらしいが。
「無事、扉の設置が終わりましたね。あとは騎士団の方々にお任せしましょう」
「そうですね。ドーネルさん、今日はありがとうございました」
「いえいえ、お役に立てて何よりです」
軽くお辞儀をして、ドーネルさんはバックヤードの里への扉へ向かう。
彼とすれ違いながら、マリカ様がこちらに近づいて来た。
「ご苦労だった、店長殿」
「マリカ様! お疲れさまです」
俺に労いの言葉をかけたマリカ様は、洞窟通路の窓の方へ振り向く。
外ではセシェルとフーワさんが、会話を続けていた。
いずれ他のドワーフの方々も、あんな風に通路を往来するようになるんだろう。
「これからはドワーフのお客さんも増えそうですね。楽しみです!」
「ふっ――店長殿らしいな。こんな偉業を成しておいて」
「偉業……」
「これまでは生息域の問題で、亜人とはあまり交流が無かったからな。それがこうして、繋がることができた」
通路一本といえども、交流の機会が増える効果は大きい。
ゲーム『イサナ王国物語』のストーリー分岐も、文明社会を守ろうとした王国と、別の秩序を生み出そうとした亜人たちの対立にあった。
もし共存の未来があったなら――
「――イサナ王国の在り方も、変わるかもしれない」
「えっと……」
マリカ様の力強い視線が、バチリと俺の目を捉える。
彼女はこの先、未来が大きく変化することを察しているのだ。
そして俺が何かを、知っているとも――
「ピコピコの客が、また増えてしまうだろう?」
「……マリカ様、そういう冗談とか言うんですね」
「ふふっ。店長殿の顔が、あまりにも面白くてな」
今のマリカ様の冗談、俺を見逃してくれたのだな。
王国の在り方が変わる、か。
「お客さんなら、どんとこいですよ!」
「ああ、頼りにしている」
イサナ王国のみんなのために、俺も頑張ろう!




