058 再編と見送り
炎の扉事件の翌日――
バックヤードには、再編された騎士団の遠征部隊が集結していた。
いたりあ食堂ピコピコはランチを臨時休業にして、騎士団の準備に協力している。
「キーリウまで、あともう少しです! 魔物たちも凶悪になっていますが、気を引き締めてまいりましょう!」
「「「 おおお!! 」」」
先日までの少数部隊と違って、今回は倍以上の人数で部隊が編成された。
人でぎゅうぎゅう詰めのバックヤードを、俺はキッチン側の入り口から見守る。
白銀の鷹騎士団のジェマさんとリサさんも参加するようで、マリカ様が見送りにきていた。
「それじゃ、ちょっと行ってきますか」
「行ってまいります、マリカ様」
「ああ、二人とも気をつけてな。よろしく頼む」
狭いバックヤードに騎士たちがすし詰め状態の中、イヴァンさんが出発の演説が始まる。
演説の最中、ラディルがひょっこり抜け出して近づいて来た。
ラディルの後と当然のように追ってくるアリエスが、まるで雛鳥のよう。
よほど信頼されているのだな。
「店長さん!」
「ああ、ラディル。こんなところで話してて大丈夫なのか?」
「うん、ちょっとだけなら――」
俺の隣に立ち、ラディル達は演説をするイヴァンさんの方へ体を向ける。
そしてラディルは演説を聞くふりをしながら、こっそりと話しかけてきた。
「キーリウに着いて休みをもらったら、アリエスと一緒に食事に行くね」
「……ああ」
「この前の、ポルケッタみたいなスゴイの作ってよ!」
「大丈夫だから、気を付けて行ってくるんだぞ」
「はい!」
約束を取り付けて、満面の笑みを浮かべるラディル。
これから何が起きるとも、知らずに――
「そろそろお話終わりそうだ。行こう、アリエス」
「うん」
アリエスを連れ立ち、ラディルは集団の前の方へ戻っていった。
ほどなくしてイヴァンさんの演説が終わり、遠征部隊が動き始める。
「外部の安全を確認。これより、出発する!」
「「「 はっ!! 」」」
先頭の騎士がバックヤードの扉を開き、チーブ丘陵へと出発していく。
列の中から、ラディルが手を振るのが見えた。
それに気づいたアリエスがこちらを振り向き、軽くお辞儀をする。
これから起きることを知らなければ、二人ともただただ良い子たちなのに――
「無事に出発できたな。よいしょっと……」
遠征部隊の背中を見送り、俺はバックヤードの扉を閉じる。
扉の魔法を消すと、なんだか少しホッとした。
そんな俺を気遣って、マリカ様が労いの言葉をかける。
「おつかれさまです。ご協力感謝いたします、店長殿」
「いえいえ、このぐらいお安い御用です! ……はぁ」
気が張っていたのか、見送りが終わって思わずため息が漏れた。
「――気になりますか? ラディルのこと」
「えっ!?」
核心と突かれたようで、ドキリとする。
するとマリカ様は、優しく微笑みながら言葉を続けた。
「このままあの少女と、どこかへ旅立ってしまいそう――だと、思いまして」
「マリカ様……」
これから何が起きるのか――ゲームのストーリーを、マリカ様は知らないのに。
他の人の目から見ても、ラディルとアリエスはそういう関係に見えるのだろうか?
「なんで……そう思われるのですか?」
「勘というか、経験というか……集団の長をやっていると、多くの騎士や兵士を見送ることになりますから」
「そう……ですか……。そう、ですよね」
確かにそういう、職業柄的な勘ってあるよな。
いつも騎士団や王国民をよく見ているマリカ様なら、もっと分かることも多いのかもしれない。
「あの、もしラディルが騎士を辞めることになったら……何か罰など、あるのでしょうか?」
我ながら、なんだか歯切れの悪い質問になってしまった。
マリカ様は俺の質問を、真摯に受け考え込む。
そして穏やかに、答える。
「正規の退団手続きが行われれば、何の問題もない。人には、それぞれの人生があるのだから」
「それぞれの人生、ですか?」
「ああ。王国や騎士団は、個々の人生を縛ることも、否定することもない」
真っすぐで、優しい目でマリカ様は俺を見て言う。
彼女が愛する、王国民へ向ける瞳。
迷いのない慈しみに、矛盾を抱えた心が痛む。
「答えに、なっただろうか?」
「……はい、ありがとうございます」
この先、おそらくラディルはアリエスと旅に出るだろう。
俺はラディルの決断を、否定することはできない。
だけど俺自身は――王国の人々と一緒に生き延びて、この国を守りたいと思う。
「さて……遠征部隊がキーリウに到着したら、お店に来る者も増えるでしょう。騎士たちや異郷の方々を、ぜひ美味しい料理でもてなしてほしい」
「もちろんです。ラディルとも、約束しましたから」
話が終わると、マリカ様も城へと帰って行った。
たとえ何が起きようとも、俺に出来ることはここで料理を作る事だけ。
王国のみんなに、そしてラディル達に――
この日より数週間後、ラディルたちの遠征部隊がキーリウに到着。
ドワーフたちとの会談の調整などで、多くの要人が店を出入りする日が続いた。
ご愛読ありがとうございます。
参加していた第12回ネット小説大賞にて、【いたりあ食堂ピコピコ】が受賞の打診をいただくことができました。
しかし、出版に関する諸条件の折り合いが付かず、受賞辞退いたしました。
今回は残念な結果となってしまいましたが、これからも執筆をがんばっていきます。
今後とも、本作品をよろしくお願いします。
『ブックマーク』や『いいね』や『レビュー』での応援をいただけると嬉しいです。
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よろしくお願いいたします。




