051 ステータスと親愛度
「疲れたー! お疲れさま、俺!」
風呂から戻り、自室のベッドに寝っ転がる。
今日のディナーは、結構たくさんお客さんが来た。
あの特大ポルケッタが、完売しちゃったんだもんなぁ。
「ラディル、元気そうだったな……」
店を出てから数か月程度のはずなのに、とても成長しているように感じる。
騎士になって、新たに色々なことを学んでいるのだろう。
会えたことの嬉しさと、なんだか少し寂しい気もしてしまった。
「遠征の話は後日、正式に依頼が来る……っと。まぁ、俺は同行しないみたいだけど」
てっきり一緒に遠征に行くのかと思ったら、そうではないらしい。
遠方からピコピコ――イサナ王国に戻るだけなら、ラディルのスキル【いたりあ食堂ピコピコの入口】で可能だからだ。
そのため遠征は騎士団だけで行い、店には移動拠点としての協力を依頼したいんだとか。
「ドワーフの里に着くまでよりも、着いた後の方が忙しそうだな……」
わざわざ遠征していくということは、相手との交渉事があるわけで。
交流や話し合いの場としてピコピコを使いたいって、イヴァンさんは言ってた。
食事を出せるのはもちろんだけど、暴力行為が無効化されるので安全というのもあるんだろうな。
「まぁ、この世界のドワーフって、戦いが苦手なんだけどね」
他のゲームや漫画だと、戦士系で強いイメージのドワーフ。
でもイサ国のドワーフは、機械――マギメイを作ったり操作する、職人タイプなのだ。
しかも自分が作ったマギメイ以外は、基本的に使うことすら渋る頑固者。
そのため戦闘に特化したマギメイを作るドワーフ以外、あまり戦闘が得意ではない。
「そういえば、酒飲んで肉焼いてるドワーフ多かったな……店に食事に来たら、何作ろうかな……おっと」
ベッドでゴロゴロしながらスマホでレシピを見ようとしたら、間違えてステータスのアプリをタップしてしまった。
アプリが起動して、NEWのアイコンがついたヒューのステータスが表示される。
「あっ……ヒューのステータス画面が増えてる……店で働き始めたからか?」
ステータス画面、久々に見たなぁ。
自分のステータスは店のレジで見てるから、全然確認してなかった。
「元兵士だけあって、ヒューは戦士タイプって感じだな。スキルは……体当たりと、武具メンテナンス……」
初めて見るスキルだな、武具メンテナンス。
効果は……武器や防具の、性能や耐久度を向上。
ゲームと違って、現実では武器や防具も壊れたり劣化するから必要になるのか。
ヒューは騎士や魔法使いに比べて戦闘力はやや見劣りするけど、サポートスキルが優秀なんだな。
「もしかしてフェルミス君も……あった! 剣技に魔法、交渉系のスキルに……ステータスも優秀……!!」
フェルミス君は剣の攻撃スキルと、風魔法が少々。
エアスラッシュとヒールウィンド……って、攻撃も回復もできちゃうのか。
会話術や交渉といったサポートスキルも、さすが大きな商会の御曹司って感じだ。
それに――
「スキル合成……?」
複数のスキルを組み合わせて、技を発動するスキルみたいだけど……。
実際のゲームには、無かったスキルだな。
まぁ、ウエスフィルド商会そのものが、ゲームには登場してなかったし。
「なんかラディルが覚えたら、すごいことになりそうだな、スキル合成。でも、フェルミス君……」
ラディルがスキル合成を覚えるためには、フェルミス君が一緒に食事ができなきゃいけないのか。
さすがにフェルミス君に、無理強いするわけにもいかない。
「本人も人前で食事が出来るようにと努力してるんだし、ちゃんと見守らないとな」
そんなことを考えながら、ぼんやりとステータスを眺め続ける。
するとラディルのステータスページに、見慣れないアイコンが増えているのに気づく。
「なんだ? このハートのアイコン……」
ハートのアイコンをタップすると、ずらっと顔アイコンが並んだページに変わった。
顔アイコンの横には、ハートマークと横棒のゲージが表示されている。
キャラクターによって、ピンクのゲージの長さが違う。
「親愛度ページ……そういえば、あったな! デートイベント!」
物語の中盤に、ヒロインとお祭りに行くデートイベントがあるのだ。
このピンクの親愛度ゲージをMAXまで貯めたキャラクターから、一人を選んでデートに誘える。
基本的に女性キャラクターなんだけど、一人男性キャラクターも混ざってたっけ。
もうゲージがMAXになってる相手がいるじゃん。
えっ!? セシェルと!? それにパテルテも……ミスティア様まで――
「……もしかしてコレ、見ちゃいけないやつでは……?」
つい画面をスクロールして見てしまったが、ふと我に返る。
よくよく考えたら、他人の交友関係をのぞき見してるようなものだよな。
それも恋愛関係の。
「すまない、ラディル」
そっとアプリを閉じ、俺はスマホをスリープにする。
ラディルの親愛度のページに関しては、いたずらに見てはいけないな。
俺は何も見なかった、今日はもう寝よう。
……でもあのページを見ちゃったせいで、ラディルが誰をヒロインに選ぶのかすっごい気になるっ!




