040 祝勝会
神域の守護獣熊式を討伐し、イサナ王国へ帰還してから二週間後。
オシハカ山脈遠征の祝勝会が、いたりあ食堂ピコピコで開催された。
皆の手にはグラスが握られ、狭い店でぎゅうぎゅう詰めになっている。
そんな中、マリカ様がグラスを掲げた。
「皆、よく無事に戻ってくれた。我々の勝利に! 乾杯!!」
「「「「「 乾杯!! 」」」」」
白銀の鷹騎士団の騎士たちに、調査隊に参加した兵士たち。
それに店に入り浸って協力してくれた面々や、ミスティア様と御付きの方々。
三十人近くが集結し、席数十七の店内には到底収まらず……。
店の外にまで折り畳みの椅子やテーブルを並べ、なんとか全員に座ってもらった。
「パーティーの準備、ご苦労だった。店長殿」
乾杯の挨拶の終わったマリカ様が、キッチンに顔を出す。
俺はカウンターキッチンでピザを焼きながら、労いの言葉に応える。
「とんでもない! こちらこそ、こんなに盛大なパーティーを開催してもらって助かります!」
「なに、気にしないでくれ。これは騎士団からの、ささやかな礼だ」
ささやか、と言うが――予算百万マジカで、料理はおまかせ。
どんなに豪華な料理をお腹いっぱい食べてもらっても、三十人前の料理でそんな金額にはならない。
これは今回の調査に――神域の守護獣熊式の討伐に、協力した報酬ということなのだろう。
「ちょっと~、早くピザ出してよー!」
「パテルテ……前菜とか煮込みとか、先に色々出してあるだろ?」
「それはそれ、ピザはピザよ!」
カウンター席で顔を膨らませながら、ピザを催促するパテルテ。
相変わらずのマイペースなわがままに、マリカ様も苦笑いをする。
「今回の協力、感謝する。本当に助かったよ、パテルテ」
「ふふん、当然ね」
「グラトニー殿も、とても熱い戦いでした」
「そりゃどーも」
マリカ様にお礼を言われ、まんざらでもない顔のグラトニーさん。
それにしても、ゲーム内最強クラスの二人がいてくれて、本当に助かったよ。
「はい、おまたせ。クワトロフォルマッジと、こっちは新作の明太ガーリックピッツァね」
カウンターに並んで座るパテルテとグラトニーさんに、大きめに作ったピザを出す。
二人は待ってましたとばかりに、ピザを食べ始めた。
「これよこれー! やっぱりピコピコといったらピッツァよね。帰ったら絶対ピザパするって、決めてたんだから!」
「こっちの新作も、酒のつまみにピッタリだぜ!」
満足そうにピザを頬張る、最強の二人組。
次のピザに取り掛かろうとすると、料理を運んでいたラディルがキッチンに戻ってくる。
「店長! オレ、ピザ作り代わりますよ」
「ありがとう。じゃぁ俺は、パスタを作るか」
ピザ場をラディルと交代し、俺は奥のコンロでパスタを作りはじめた。
今日はニルギさんの、朝摘みバジルで作ったジェノベーゼ。
ボイルしたパスタと合わせると、爽やかな香りが広がって行く。
出来上がったパスタを、特大シャコ貝の皿に盛り付ける。
「よし、これはポセさんの分! うぐっ……重っ……」
シャコ貝の器は重いのに、ポセさんの分だからと大盛にし過ぎてしまった。
あまりの重さに、俺は腰を落としてガニ股になって運ぶ。
「店長殿、大丈夫か? これは、ポセ殿の分か」
「は……はひぃ……!」
「わかった」
見かねたマリカ様がキッチンに入って来て、俺の持っていた皿をスッと持ち上げる。
そしてスタスタと歩き、ポセさんの座るカウンター席へ皿を運んでくれた。
さすが騎士団長様だ……俺も、もっと鍛えないと……!!
「どうぞ、ポセ殿」
「おお……騎士団長様に運んでもらうとは、恐れ多い……」
「本日は皆への、感謝の会でもあります。どうぞ、お気になさらず」
「では、ありがたくいただこう」
専用のシャコ貝の大皿で、ジェノベーゼを食べるポセさん。
相変わらず、豪快な食べっぷりだな。
「この香り……目箒か! これはクセになる味だな、店主」
「ありがとうございます。 海鮮とも相性がいいので、これからもたくさん売りに来てくださいね」
「うむ、もちろんだ。こちらこそ、よろしく頼む」
ポセさんと話していると、マリカ様がキッチンに戻って来た。
残りのお皿――ミスティア様たちの分のジェノベーゼを、持ちあげる。
「こっちはミア達の分だな? 私が運ぼう」
「お手伝い、ありがとうございます」
「なに、どうということはない」
マリカ様はジェノベーゼの貝皿を持って、ミスティア様の座るテーブル席へと向かう。
ミスティア様はユリンさんと共に、白銀の鷹騎士団の女性陣に囲まれている。
「うわー! すごい、貝のお皿に乗ってる!」
「遠征中も素敵だと思ってたけど、本当にオシャレねぇ」
「でしょでしょ!」
料理の見栄えに、テンションが上がるジェマさんとリサさん。
それをセシェルは、自分のことのように自慢する。
「ありがとうございます、お姉様」
「私も、ミアに助けられた。せっかくだし、今日は楽しんでいきなさい」
「はい!」
嬉しそうに談笑する、マリカ様とミスティア様。
セシェルが適当に取り分けたパスタを、彼女たちはワイワイと食べ始める。
みんなが明るい笑顔で食べている様子が、とても嬉しい。
「店長! ピザが焼きあがったので、外の兵士さんたちに持っていきますね!」
「ああ、よろしく」
ピザの乗った木皿を三枚持って、ラディルは店の外へと向かう。
入れ違えでキッチンに戻ってきたマリカ様が、ラディルに声をかけた。
「そうだ、ラディル」
忙しいところすまないがと、マリカ様は手短に用件を伝える。
「今回の活躍、素晴らしかった。正式な発表はまだだが、来年を待たずに騎士団への入団が認められるだろう」
「えっ……」
突然の知らせに、動きの止まるラディル。
視線だけがキョロキョロと、俺とマリカ様を交互に見ている。
「おめでとう、ラディル」
「!! ありがとうございます! マリカ様! 店長!」
ラディルは嬉しそうに、お辞儀をする。
そして軽快なスキップで、外へとピザを運んでいった。
カウンターキッチンに立つ俺の横に、マリカ様も並ぶ。
「店長殿も、ありがとう」
「あ、いえ。これぐらい、お安い御用ですよ。料理を作るのが、俺の仕事なので」
カウンターのキッチンから、店内を見渡す。
少し仕事が落ち着いた時に、ここから見えるお客さんの笑顔が、俺は好きだ。
「そういうことでは――ふふ……」
少し困ったように、マリカ様が笑う。
俺の受け答え、何か間違っていたかな?
「可笑しな事と思うかもしれないが――私は店長殿に、本当の意味で命を救ってもらったのだと思う」
「え……あ……えーっと……」
ただの飲食店の店長が遠征に同行して、未知の魔物と死闘を繰り広げたのだ。
もしかして、魔物が出るのを予見してたって思われてるんじゃ!?
内心すごく焦りながら、彼女の話に耳を傾けた。
「貴方がこの店を営み、多くの人との縁を繋いでいたからこそ、我々は未知なる強敵に打ち勝てたのだと」
「マリカ様……」
確かに……ゲーム内最強のキャラクターが、店にたむろしてたり。
まだ騎士になっていない主人公のラディルが、色んなスキルを覚えてくれたり。
トルトや他のみんなが、駆け回って協力してくれたり。
改めて言われてみると、結構すごいことなのかも。
「このイサナ王国に、店長殿が――いたりあ食堂ピコピコがあることを、誇りに思う」
「――っ! ありがとうございます!!」
懐かしいと思った、ゲームの世界。
ここはみんなの笑顔と、マリカ様の生きるイサナ王国。
そして俺の店――いたりあ食堂ピコピコが営んでいく物語。
[第一章 完]
これにて第一章完結です!
ここまで読んでくださった皆様、ありがとうございました!
6月に勢いで書き始め、一ヶ月半で約十万文字の第一章書き終えました。
たくさんの読者の方に応援していただけたおかげです。
ありがとうございます。
いたりあ食堂ピコピコを気に入ってもらえましたら
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