039 帰還
「店長! やりました! オレたち、あの魔物に勝てたんですね!!」
「ラディル!」
マリカ様の勝利宣言を聞き、俺に駆け寄ってきたラディル。
後から、グラトニーさんも歩いてくる。
「熱い戦いだったぜ」
「はい。グラトニーさん、カッコよかったですよ!」
「だろぉ? やっぱ店長は、わかる人だな!」
がっはっはと大きく笑いながら、グラトニーさんは俺の背中を叩く。
疲れた体には衝撃が大きかったのか、俺はよろけてしまった。
「うわっと……」
「店長!? 大丈夫ですか?」
「はは……魔力不足で、ふらついちゃって……」
「もう……はい、オレにつかまってください」
ラディルが肩を貸してくれて、何とか体勢を整える。
次第に、騎士団の方たちも集まってきた。
「店長殿!? どうかされたのか!?」
「マリカ様……大丈夫、魔力が切れかかってるだけです」
一人で立てない俺を見て、マリカ様が心配して駆け寄る。
余計な心配をかけてしまい、我ながら情けない。
「大事ないならよいが……」
「あ、でも……店への扉は、あと一回しか出せないと思います」
これはちゃんと、説明しておかないと。
さっきの戦いで、尋常じゃない量の扉を出したからな。
たぶん俺の残りのMPは一桁ぐらいしか、残ってないはずだ。
「兵士にも甚大な被害が出てしまって、調査の継続は不可能かと……」
「今回は帰還して、新たに調査隊を派遣しましょう」
「そうか……あの魔物について調べたかったが、やむを得まい」
ジェマさんとリサさんが、帰還を進言する。
神域の守護獣熊式を倒したとは言え、ここに残るのは危険なことに変わりはない。
二人の言葉を受け入れ、マリカ様は帰還を指示した。
「これより、イサナ王国に帰還する! 店長殿、よろしく頼む」
「はい。バックヤード!」
最後の力を振り絞って、バックヤードへの扉を開く。
するとマリカ様が、俺たちから中に入るように促す。
「ラディル、店長殿を先に店の中へ」
「わかりました!」
俺はラディルに、ほぼ担がれた状態で店に運び込まれる。
最後まで締まりがなくて、恥ずかしい!
「おかえりなさい! 店長さん!」
「良い奮闘だったわ。褒めてあげる!」
バックヤードではトルトとパテルテ、常連や兵士たちが出迎えてくれた。
どうやら、みんな無事なようだな。
「ふ~、良い運動になったぜ。こりゃ、今夜はメシがウマいぞ」
すぐ後ろから、グラトニーさんが入ってくる。
そのメシって、やっぱり俺が作るんだよな?
「私もお腹空いた~! 美味しい物食べた~い!」
「ちょっと姉さん! はしたないよ!」
店に飛び込んでくるセシェルと、それを追うパーシェル。
そんな二人の様子を見ながら、ジェマさんとリサさんが続く。
あと外に残っているのは、マリカ様だけだな。
「マリカ様も、お入りください」
ラディルに支えられたまま、俺は扉の外を覗く。
そこには、マリカ様の後ろ姿――
「マリカ様?」
何を見ているのだろう?
視線を追った先には、血まみれの獣が立ち上がる姿が。
次の瞬間――マリカ様は後ろ手で、俺の体を店の中へと押し倒す。
「マリカ様――!!」
支えてくれていたラディルと一緒に、俺は床に倒れこむ。
そして扉は閉じられ、消えていった――
■■■
「不覚……まだ生きていたとは……」
ゆっくりと起き上がろうとする、血まみれの神域の守護獣熊式。
たった一人で対峙する、白銀の騎士団長。
「貴様を行かせるわけにはいかない。イサナ王国の民は、私が守る――」
剣を掲げ、その名に誓う。
「マリカ・イサナ!! この命に代えてもっ!!」
「グガガガ……」
生き残るためか、運命の強制か。
起き上がった魔物もまた、最後の命をかける。
そんな一人と一匹に、近づいていく彼の姿――
「そんな水臭いこと、させません!」
「――っ!? ラディル!? どうしてここに――」
予想外の出来事に、驚くマリカ様。
終わった、守れなかったって、俺だって思ったよ。
でもラディルは俺と一緒に倒れ込む瞬間、外に店とつながる扉を出現させたんだ。
「まさか、こんなスキルを覚えてたなんてな」
店の入り口に立つ俺は、スマホでラディルのスキルを確認する。
スキル【いたりあ食堂ピコピコの入口】――横には、俺の顔アイコン。
これは俺の専用スキル【バックヤード】が、ラディル用に変更されたものだな。
「一緒に帰りましょう、ピコピコへ!」
マリカ様の隣に立ち、剣を構えるラディル。
「ふっ……ラディル、協力を頼む!! 一気に決めるぞっ!!」
「はいっ!」
血塗れの神域の守護獣熊式は、その巨体で二人を押し潰そうと突進する。
迫る魔物に、マリカ様とラディルは鏡のような動きで技を重ねた。
「「 風牙一閃ッ!! 」」
二柱の疾風が、巨大な神域の守護獣熊式を貫く。
貫かれた魔物の体躯は、光の塵となって宙を舞う。
光となって消える神域の守護獣熊式に、俺は確信する。
「変わったんだ……イサ国の、物語が……」
もうマリカ様は、大丈夫。
ぼんやりと店の入り口に佇んでしまった俺の元へ、マリカ様とラディルが戻ってきた。
「店長殿……遅くなってしまい、申し訳ない」
「とんでもない! お待ちしておりました!」
俺は二人を、店の中へと迎え入れる。
やっぱりお客さんには、入り口でお迎えしてこそだな。
「いたりあ食堂ピコピコへ、おかえりなさい!」




