表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/87

038 総力戦

「俺が、あの白いクマの動きを止める」

「えぇ!? そんなこと言って、どうやるってのさ!?」


 俺の計画に、トルトが驚きの声をあげる。

 先ほどから何度もバックヤードの扉も攻撃を受けているが、一つも破損した様子がない。

 おそらくバックヤードの扉は店と同等に、絶対壊せない仕様なのだ。


「大量の扉を出して、魔物の動きを封じる」

「え……ええぇぇっ!?」


 スマホを出して、俺の残りMPを確認する。

 200……あの巨大な神域の守護獣熊式(ガーディアンベアル)の動きを封じるには、三十枚は扉が必要になるだろう。

 帰りの扉の分も考えると、もって五分といったところか。


「バックヤード!」

「あ、店長さん……」


 魔物が見える向きでバックヤードの扉を出し、俺とラディルは一先ず店に戻る。

 そしてパテルテとラディルに、作戦と指示を伝えていく。


「あの魔物のそばに、扉を出す。ラディルは騎士団の方たちと、パテルテの魔法が発動するまで、魔物への攻撃を続けてくれ」

「わかりました!」

「パテルテは、俺が魔物の動きを止めたら、外に出て大魔法の詠唱を始めて」

「了解よ」

「俺の残りの魔力だと、魔物を止められるのは長くても五分程度なんだが……」

「十分よ。任せなさい!」


 作戦を伝え終え、扉の外――神域の守護獣熊式(ガーディアンベアル)が暴れ回る戦場を向く。


「よし、いくぞ! バックヤード!!」


 神域の守護獣熊式(ガーディアンベアル)から少し離れた高台に、新たなバックヤードの扉を出す。

 ラディルは騎士団たちの元へ走り出し、俺は扉から一歩出て魔物に向かって構える。


「囲い込みバックヤードの扉ッ!!」

「ルケア ガルイ デラハラビ トノセミ――」


 三十枚ほどのバックヤードの扉で、巨大なクマの体を抑え込む。

 間髪入れずにパテルテは外に飛び出し、大魔法の詠唱を始めた。


「皆さん! もうすぐパテルテさんが大魔法を放ちます! それまでなるべく攻撃を重ねてください!!」

「!? 了解した!! 白銀の鷹騎士団(プラチナ・ファルコ)、総攻撃ッ!!」


 マリカ様の号令が響き渡り、騎士たちが総攻撃にかかる。


「行くよ、姉さん!! シールドバッシュッ!!」

「シールドストライクッ!! ジェマ、今よ!!」

「――サンダージャベリンッ!!」


 騎士たちは連携し、連続で技を畳みかける。

 動きを封じられた上での、強力な技の直撃。

 これなら、かなりダメージが入ったんじゃ――


「グルガアァァァァッ!!」


 魔物の右足が扉の囲いをすり抜け、地団駄を踏む。

 その衝撃で、無数の岩が周囲に飛び散っていく。


「ぐっ」

「きゃぁっ」

「ひぃっ!? 追加バックヤード!!」


 咄嗟に自分とパテルテを守る盾用の扉と、魔物の右足を抑え込む扉を五枚、新たに追加。

 近くで攻撃をしていた騎士たちは、岩が直撃して吹っ飛ばされている。

 あれ、大丈夫なのか……?


「みなさん、大丈夫ですか!? ヒールッ!!」

「ヒールサークル!!」

「怯むなっ! 相手はまともに動けない! セシェルッ! 店長殿とパテルテの援護を頼むっ!」

「了解です!!」


 リサさんとラディルの回復魔法で、なんとか体勢を整えられたみたいだ。

 でも予想以上に、使う扉が増えてしまった。MPの消費が激しくて、キツイ。


「うぐっ……ごめん、四分しかもたないかも……」

「グナツオ オガエガ リウヨリイ シイ オノウ ヨチン テ――」

「店長さんしっかり! 守りは任せてください!!」


 セシェルが駆け寄って来て、俺とパテルテを守るように盾を構えた。

 これで一枚だけだけど、盾にしてる扉が消せる。


「アイシクルエッジ!!」

「風牙一閃!!」


 前線の猛攻が続くなか、パテルテの上空には巨大な魔力の光が集まっていく。


「ノルス オパザ ピテッド モニジ ブデ ナンミ――食らいなさい!!」


 高らかに宣言するパテルテの声に、ラディルと騎士団は魔物から離れる。


「セイプリズムッ!!」


 大魔法の強大な魔力の光が、扉ごと神域の守護獣熊式(ガーディアンベアル)を包み込む。

 なんとか彼女の魔力が続く限り、魔物を抑え込んでおきたいが――


「すまない……魔力が、もう……」


 MPの低下で、魔物を囲う扉が徐々に消えていくのを感じる。

 そして重い足音が、こちらに向かって動き出すのが聞こえてきた。 


「グルルル……ガガガァ……」


 確実に、俺たちを仕留めようとしている。

 強い怒りを持って。

 俺はすぐ後ろに、バックヤードの扉を開いた。


「パテルテ、危ないから……もう戻ってくれ」

「あと少し……あと少しで倒せるんだからっ!!」


 神域の守護獣熊式(ガーディアンベアル)の接近を察しながらも、大魔法を放ち続けるパテルテ。

 すると退路として開いたバックヤードから、巨大な剣を担いだ影が現れた。


「もしかして、俺の出番も残ってるのか?」

「グラトニーさん!?」


 ブンブンと剣を振り回しながら、前へ出るグラトニーさん。

 後ろからはちょこちょことトルトが出てきて、パテルテを引っ張っていく。


「ほら、パテルテ! 後は任せて店に戻るんだ!」

「うぅぅ……仕留めそこなったら、許さないんだからね!」


 パテルテ達が店に戻るのを確認すると、俺はバックヤードの扉を閉じた。

 準備運動の終わったグラトニーさんが、こちらを見てニヤッと笑って見せる。


「あとは任せな! 店長さんよ!」

「お、お願いしまぁす!!」


 騎士団の元へ、グラトニーさんは駆け出していく。


「ほらほらぁ!! クマさんこっちだー!!」

「グガ!? グルガアァァァァッ!!」


 魔物を挑発し、グラトニーさんは自分に注意を引きつける。

 俺の安全を、確保してくれているのか。


「おいおい、ずいぶんなケガしてるじゃねぇか」

「くっ……かたじけない……」

「後は俺に任せなっ!!」


 マリカ様達と合流したグラトニーさんは、神域の守護獣熊式(ガーディアンベアル)へ大剣を向ける。

 そして天高く飛び上がった。


「燃えろ! 俺の熱血! 闘魂切りっ!!」

「グオオオッ!」

「滾る! 俺の闘魂! 熱血切りっ!!」

「ギョアァァァッ!」


 ああ、こんな感じ!

 グラトニーさんの技名、ちょっと昭和っぽいスポコン系だった!

 懐かしい技名から繰り出される猛攻に、神域の守護獣熊式(ガーディアンベアル)が圧されてるじゃないか。


「すごい……強い……!!」

「でも、一人じゃ決め手が……くっ!」

「ひゃっ!?」


 戦闘の余波で、かなり大きい石がガンガン飛んでくる。

 セシェルが守ってくれなかったら、直撃してたよ……。


「ワンホリー!! キサマ、何をしている!!」

「いやいや、これは聖女様のためなんだって~」


 なにやら、バックヤードの方が騒がしい。

 魔物とグラトニーさんの戦いを見守りながら、トルトに声をかける。


「トルト、何かあったのか?」

「店長さん! それが――」

「お姉様は!? お姉様は無事なのですか!?」


 この声は、ミスティア様!?

 どうしてバックヤードに彼女が……。


「ワンホリーが、教会から聖女様を連れ出したみたいで……」

「この不埒者めっ!! 今すぐミスティア様をお返しいただ――」


 じゃぁ、この怒ってる男性はケルベス?

 なんか急に静かになったんだけど!?


「なになに!? どうなったの!?」

「ワンホリーを殴ろうとしたケルベスさんが、店の外に強制退去されたみたい……」

「おう……」


 ごめん、ケルベス。暴力の強制退去は、俺の意志と関係なく発動しちゃうんだ……。

 でもミスティア様が店に来てるのは、とてもありがたい!


「ミスティア様、聞こえますか?」

「この声は……店長さん?」


 すがるような声で、ミスティア様が返事をする。

 俺は端的に、こちらの状況を伝えていく。


「マリカ様たちは今、負傷しながら戦っています」

「そんな……」

「今から騎士団の近くに扉を繋ぎます。どうかミスティア様の癒しの力を、貸してほしいのです」

「そのようなことが、出来るのですね……承知しました。どうぞお願いします、店長さん」


 最強の回復魔法を使えるミスティア様がいれば、この戦況を覆せる!

 俺とセシェルは、顔を見合わせた。


「セシェル、俺をみんなの見える場所まで連れてってくれ」

「了解! しっかり着いてきて下さいよ!」


 セシェルの盾に守られながら、俺は前線で戦うみんなの元へ走る。

 きっと、これが最後の正念場だ。

 走りながら俺は、ミスティア様に声をかけた。


「ミスティア様! 安全のため、扉からは出ないようにお願いします。癒しの魔法なら、店の中でも使えるはずです!」

「はいっ!」


 岩や石の飛んでくる砂埃の中、斬撃とみんなの声を頼りに、走り続ける。

 そしてようやく、マリカ様の白銀の煌めきをとらえた。


「見えた! ミスティア様、扉を開きます!!」

「っ……お姉様――!!」


 こちらが声をかけると、呪文の詠唱を開始するミスティア様。

 天使の羽根のようになびくマリカ様のマントを目印に、俺はバックヤードの扉を開いた。


「――ミアッ!?」

「セイクリッドヒールッ!!」


 扉が開くと同時に、ミスティア様の回復魔法が戦場一帯に広がる。

 なんか回復魔法のおかげか、俺の体も良い感じに軽い。


「お姉様! 今ですっ!!」

「ああ! 白銀の鷹騎士団(プラチナ・ファルコ)、総攻撃だッ!!」

「「「 はいっ!! 」」」


 全快した騎士団が、神域の守護獣熊式(ガーディアンベアル)に一気に攻撃を仕掛ける。

 これまで一人で戦っていたグラトニーさんが、更に闘志を燃やす。


「俺たちも負けてらんねぇ! 行くぞ、ラディル!!」

「はい!! グラトニーさん!!」

「燃えよ熱血ッ!!」

「震えろ闘魂ッ!!」

「「 熱血合体闘魂切りッッッ!! 」」


 ラディルとグラトニーさんに、そんな息ぴったりの協力技が!?

 二人の熱い斬撃が、神域の守護獣熊式(ガーディアンベアル)を深く切り裂いた。

 刹那、血飛沫を上げ、白き魔物は大地に平伏す。


「た……倒した……のか?」


 神域の守護獣熊式(ガーディアンベアル)は、動き出す様子は無い。

 砂煙と轟音はおさまり、オシハカ山脈に静寂が戻る。

 そしてマリカ様が、高らかに宣言した。


「我々の勝利だ!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
他の作品もよろしくお願いします


【 魔王イザベルの東京さんぽ 】
何も無いと思っていた町が、楽しくなる――
女魔王とオタ女が、東京のまち歩きをするお話です。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ