036 マリカといたりあ食堂ピコピコ
出発式から三日後、俺たちはオシハカ山脈の麓の集落に到着する。
入山前の最後の集落となるため、四日目は丸一日休息日になっていた。
そしてこの三日の間に、店――いたりあ食堂ピコピコはというと……
「どうしてこんなに、人がいるんだ……」
夕食のカレーを温めに店へ戻ると、パテルテ以外にも何人か店に入り浸ってる人物がいた。
「すまない。早めに引き上げた方が、よかったか……」
「あ、いえ。ポセさんは好きなだけ、ゆっくりしてって下さい」
お茶を飲んで、くつろいでいたポセさん。
ポセさんは俺が騎士団の遠征に同行中、売りに来た魚介類の下処理を店でやってくれていたのだ。
そんな彼が店で休んでいるのは、何の異論もない。
問題なのは――
「ワンホリー、お前はなんでいるんだ?」
「そりゃぁ……メシを食いに? ここ食堂だしぃ」
酒まで持ち込んで、食事が出てくるのを待つワンホリー。
トルトが店にいるのをいいことに、半ば強引に居座っているようだ。
そしてもう一人――
「それで、グラトニーさんは、どうしてこちらに?」
「依頼が無くてヒマしててなぁ。そしたらワンホリーが店に入って行くから、やってるのかと思って」
「臨時休業中です!!」
思わず突っ込みを入れるも、グラトニーさんは気にする様子もない。
二人とも、好きなように店でくつろいでいる。
それも、一昨日から……。
「二人ともちゃんとお金払うし、残り物で良いって言うから……」
「うぐ……トルトが接客大変じゃなきゃ、いいけど……」
まぁ、ワンホリーはともかく、グラトニーさんが店に居るのは心強いかも。
そんなことを考えているうちに、カレーがグツグツと煮立ってくる。
「お、今日カレー? 俺、黒にチーズトッピングで頼むわ~」
「そんな注文ができるのか!? 店主、俺にもワンホリーと同じものを!!」
「私もチーズ山盛りでカレー食べるわ!」
「俺も、大盛りでたのむ」
「騎士団の方々に、先にお出ししてからだよ」
カレーの寸胴を持ち、俺はバックヤードから遠征地に戻る。
折り畳みのテーブルにカレーとライスを並べ、配膳の準備を進めていく。
「お、いよいよカレーの登場か?」
「ああ、お待たせ。ザック」
「しかも赤と黒、両方あるんだな」
「ヒューまで……休息日だと聞いていたから、特別だよ」
休息日と言っても、何もない集落での野営である。
まだ時間には少し早いのに、配膳台にはあっという間に兵士たちが集まってきた。
「それでは、料理を配ります。順番に台から持って行って下さい」
兵士たちは移動の隊列以上にビシッと並び、素早く料理を持っていく。
料理に対する敬意が、素晴らしい。
「いつもの店の味だ……うめぇ……!」
「今回の遠征、本当に食事が良いよな。明日はどんな料理だろう?」
食事を始めた兵士たちから、嬉しい言葉が聞こえてくる。
全ての兵士たちが食事を始めると、騎士の方たちも料理を取りに来た。
「お疲れ様、店長殿」
「マリカ様!」
一番最後に受け取りに来たのは、騎士団長のマリカ様。
他の人達の様子を見ながら、俺に労いの言葉をかける。
「今回のケータリング、とても好評だよ」
「それは良かったです」
本当は今回の遠征に同行するための、口実だったけど。
こんなにも料理を喜んでもらえて、とても嬉しく思っている自分がいる。
「店長殿がイサナ王国で店を開いて、僅か二・三ヶ月だというのに……すっかり皆の馴染みの店になっていたのだな」
「はい……おかげさまで」
それも最初にマリカ様が、色々と計らってくれたからだ。
護衛としてラディルが傍にいて、店を手伝ってくれて。
魔導学園の先生方を紹介してくれて、トルト達が色んなサポートをしてくれる。
俺一人だったら、最初のマジカ徴収で詰んでたかもしれない。
「それに……ふふふ。店の方にも、何人かお客がいるようで」
「すみません。お見苦しいところを……」
トイレとか水道を貸し出してるから、マリカ様もワンホリー達を見てるんだよな。
だいぶ店も散らかっていて、なんだか恥ずかしいやら申し訳ないやら……。
「いや、いいんだ。むしろ嬉しかった」
「え……?」
「いたりあ食堂ピコピコ――王国の片隅に、これほどまでに人々に愛されている店があるのだと。それがとても、素晴らしいことだと思えるんだ」
俺の恥ずかしい思いとは裏腹に、マリカ様は誇らしげに微笑む。
「これも店長殿の人柄と、料理に対する誠意によるものだな。ありがとう」
「マリカ様……!!」
自分の店を、そんな風に思ってくれる人がいるなんて。
ただ料理が好きだという気持ちを詰めていた心に、誇らしい気持ちが満たされていく。
「遠征も、あとわずかで終わる。最後までよろしくたのむ、店長殿」
「――はいっ!」
必ず、連れて帰る。
みんなを、笑顔で――【いたりあ食堂ピコピコ】へ




