033 通販百円ショップ(百円以外)
マリカ様の会食の日の、翌日――
「ケータリングねぇ……店長さん、本当に大丈夫?」
騎士団の遠征に同行するには、それなりの理由が必要になる。
マリカ様が死亡するような危険が起きるため、などと言えるわけもなく。
ケータリング――スタッフ常駐での食事の提供、という業務委託を申し出たのだ。
無理のある提案かと思ったが、意外にもマリカ様は試験導入ということで同行を認めてくれた。
「バックヤードを通って店には毎日帰ってこれるけど、片道だけでも一週間の同行――野宿になるよ?」
扉を出すためには、俺が現地まで行く必要がある。
オシハカ山脈というからには、当然山登りをすることになるだろう。
それに消費MPの関係から、常時バックヤードの扉を出しておくわけにはいかない。
当然現地の屋外で寝泊まりすることになる。
「それにカーナヤ海岸の方角と違って、オシハカ山脈は魔物も結構出るし」
「そうだな……」
魔物に襲われたとき俺に出来ることといったら、バックヤードで敵の攻撃を止めることぐらい。
あとは、逃げ込むか……こんなんで、マリカ様を助けられるだろうか……?
「オレも護衛で同行しますし。絶対に、店長を守りますよ!」
「――ああ。ありがとう、ラディル」
まだ騎士になっていないとはいえ、ラディルがいるのはとても心強い。
自主訓練でかなりレベルアップしてる上に、かなり有用なスキルも保有している。
使えないスキルもあるものの、回復魔法も攻撃魔法もバランスよく使えるのは、貴重な戦力のはず。
「危険だと思ったら、バックヤードですぐ逃げてくるから大丈夫さ」
「まぁ、そうだけど……」
誰も死なせない、あの日の――会食の日の、笑顔を失わせたくない。
そのために、俺は俺の出来ることをしよう――!
「遠征前に、やることやらないとな。まずは月の支払いか――」
ちょうど月末だし、支払いを済ませておこう。
ダンジョンレベルが上がれば、新しいスキルも覚えるかもしれないし。
俺はセルフレジを月の支払い画面に設定し、支払いアイコンをタップする。
≪来月活動分のマジカを受領します≫
音声アナウンスが流れ、自動でレジのドロアーが開く。
これまでと同様に、ドロアーの中に入っていたマジカが、異空間にどんどん吸い込まれていく。
≪マジカの受領完了≫
≪いたりあ食堂ピコピコ 活動を継続します≫
「よし、無事に終了したな」
「レベルも上がって、新しいスキルも増えてるみたいだね」
横からトルトが、レジのモニターを覗き込んできた。
ダンジョンレベルは、ようやく4か。
今回増えたスキルは――
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マスターレベルは、レシピに登録されたメニュー数及び来客数に応じて上昇する。
ダンジョンレベルは、継続年数に応じて上昇する。
→【NEW】ダンジョンレベル上昇により、通販『100円ショップ(100円以外)』を獲得しました。
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100円ショップ(100円以外)――
あのちょっと高くて、ちょっと性能が良くなってたりするやつか。
どんな商品があるんだろう……スマホの通販画面で、商品のラインナップを確認する。
「1980円の……テント!?」
それは100円ショップとしてどうなんだろう?
とはいえ、作りもサイズもかなりしっかりしている。
ギリギリ二人、並んで寝られそうだ。
「それに折り畳みのアルミシート、分厚いのもあるのか。……しかも500円!?」
これを敷いて毛布でも持ち込めば、簡易テントでもそれなりに寝れそう。
騎士団の人達についていくとは言え、自分たちのことは自前でまかなわなくてはならない。
良いタイミングで、新しい通販スキルが追加されて良かった。
「とりあえず、テントとアルミシートを購入っと」
注文画面で確定をタップし、スマホをテーブルの上に置く。
すぐにテーブルの上に、テントのセットとアルミシートが浮かび上がってきた。
「わぁ!? コレ、テントですか? 不思議な形をしてますね」
テントのケースには、設営時の画像が添付されている。
それを見たラディルが、とても嬉しそうにテントを持ち上げた。
「安物だから、一緒に寝るには狭いかもしれないが……大丈夫そうか?」
「はい! オレ、どこでも寝れるので大丈夫です!」
「じゃ、とりあえずテントはこれで良いとして――」
今度は、マリカ様からもらったメモを読む。
正式な書類は後日持ってきてくれるらしいが、量が多いから内容をまとめておくようにすすめられたのだ。
「全日程の、提供料理表か……」
騎士団や兵士の方たち、約二十名分の食事の提供。
提供料理の内容や、使用する食材の分量などの情報共有をしなくてはならないらしい。
食事の良し悪しは、士気に関わるからな。
面倒ではあるけど、怠るわけにはいかない。
「準備だけでも、かなり時間がかかるよ。少なくとも、三日前から店は休んだ方がいいかも」
「そうだな。お客さん向けの、休業のお知らせも作らないと――」
俺たちは通常の営業をしつつ、調査遠征の準備を進めていった。




