024 ダンジョン支払いとバックヤード
三連休、二日目の昼。
今日は店――ダンジョンの支払いの日だ。
魔導学園からは、トルトが来てくれた。ラディルも、二階住居から店に降りてきている。
「それじゃ、準備はいい? 店長さん」
「お、おう……」
セルフレジのモニターには、ネット銀行のような画面が表示され、右下には大きな支払いのアイコン。
なんだか、緊張するなぁ。初めての支払いが強制徴収で、ひどい目にあったから。
今回は念のため、ドロアーには四十万マジカをいれてある。
これで問題は無いと思うけど、セルフレジの画面をタップする指は震えていた。
「頑張ってください、店長!」
「ああ。ありがとう、ラディル」
俺は息を飲んで、支払いボタンをタップ。
モニターの画面が、【お待ちください】という表示に代わる。
≪来月活動分のマジカを受領します≫
音声アナウンスが流れ、自動でレジのドロアーが開く。その上空には前回と同じ、異空間のような穴が開いた。
ドロアーの中に入っていたマジカが、異空間にどんどん吸い込まれていく。
トラウマのせいで、俺の体も小刻みに震えている。
≪マジカの受領完了≫
≪いたりあ食堂ピコピコ 活動を継続します≫
完了の音声が流れると、マジカを吸い上げる穴は何事も無かったかのように消えていった。
レジのドロアーを確認すると四十万マジカから支払った残り、二十万マジカがキッチリ入っている。
これで、終わりなんだな……。
「店長さん、ダンジョンのレベルが3に上がってるみたいだよ」
「お、本当だ」
トルトがレジの画面を切り替えて、状況の確認をしてくれる。
どうやら、新しいスキルも覚えているようだ。
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マスターレベルは、レシピに登録されたメニュー数及び来客数に応じて上昇する。
ダンジョンレベルは、継続年数に応じて上昇する。
→【NEW】ダンジョンレベル上昇により、『バックヤード』を獲得しました。
スキル『バックヤードへの扉』(消費MP1/1分)を獲得しました。
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「バックヤード? 食料とか、保管しておく場所のことか?」
「試しに使ってみたら? 店長さん」
「お……おう……」
急に使えと言われても、出し方とかわからんし……。
でもゴミ捨てたいなぁって思って叫んだら、ゴミ箱の中身が消えるくらいだ。
いっそバックヤードと叫べば、扉が出てくるのかも。
「バックヤードッ!!」
「おおっ! 扉が出ました、店長!!」
本当に出た。
何も無いところに、濃茶の木製の扉だけがドーンっとそびえる。某猫型ロボットの、ピンクのドアのように。
あと、もうちょっと技のネーミングには拘った方が良かっただろうか……。
「店長さん、その扉は開けられるの?」
「さぁ、どうかな。開けてみるか」
扉を開けた先には、別の空間に繋がっていた。
壁や床は、コンクリートのような質感をしている。
部屋の広さは、十畳ぐらいだろうか。
「中、結構広いな。あと、かなり涼しい」
入って左側の壁には、一面スチールラックが設置されている。
入り口と反対側の壁には三段ほどの階段の上に、別の部屋に繋がる出口があった。
「奥の方に灯りが見える。ちょっと行ってみるか」
「気を付けてよ、店長さん」
トルトに見守られながら、奥の出口に向かう。
なんだか見慣れた光景が――左手には階段、正面には店の厨房が見える。
「あれ? ここ、二階住居に上がる階段……?」
「うわわ! 店長がキッチンの奥から出てきました!」
奥から、ラディルの驚く声が聞こえてくる。
どうやらキッチンの奥に、新しくバックヤードの空間が出来たみたいだ。
「これは……すごい魔法じゃないか!」
スキルで出した扉の方から、トルトがバックヤードに入ってくる。
安全とわかったら、研究心の方が優位になったようだ。
「そうだな。買い物したものを、すぐにバックヤードに片付けられる。一度にたくさん買えるし、涼しいから食材も痛まなそう――」
「もう、何言ってるの! 瞬時に店へ、イサナ王国に帰ってこれるんだよ!?」
「――はっ!?」
帰還限定だけど、瞬間移動ができるってこと……!?
そう聞くと、すごいスキルじゃん。
「それに、ここも店のダンジョンの領域なら――ファイアーボール!!」
「うわっ!? 何やってるの!? あつっ! トルト先生?? あつっ――!!」
バックヤードの宙に、大きな火球を作り出すトルト。
だがその火は少しの間だけ燃えると、花火の終わりのようにスッと消えてしまった。
「やっぱり……」
「何が!?」
「今の魔法、僕が消したんじゃない。勝手に消えたんだ」
勝手に魔法をぶっ放しといて、こいつは何を言っているんだ?
呆然とする俺に、呆れたようにトルトは説明する。
「ここも店――ダンジョンの領域だから、危険行為が無効化されたってこと!」
「はっ……」
「危険な時の、逃げ道にもなるね。さすがダンジョンマスター、って感じの魔法だよ」
他にも、新しいスキルの使い方を色々模索していくトルト。
これで俺も護衛必須の一般人から、逃げの瞬間移動ダンマスにランクアップ!?




