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018 トルト教授の出向

「うーん! 良い朝だなぁ!」


 昨夜グッスリ眠ったおかげか、いつもより体が軽い。

 俺は朝のルーティンである、店先の掃除を始める。

 しばらくすると、ニルギさんがガラガラと台車を引いて通りかかった。


「あぁら、おはよう。店長さん」

「おはようございます、ニルギさん」

「あぁらあぁら、看板、できたぁのね。もう、開店するぅの?」

「えっ?」


 店を見上げるニルギさんに、俺もつられて上を向く。

 すると店の入り口に、テント看板が設置されていた。


「あっ……」


 シャトータイプの看板の布には、『いたりあ食堂ピコピコ』としっかり書かれている。

 ダンジョンのセットアップが、完了した影響だろうか?

 こうして見ると、自分の店だという実感が沸いてきて、なんとも感慨深い。


「そぉだ! 開店祝い、しなきゃぁね」

「えぇ!? そんな、悪いですよ」

「なぁに言ってるの! これは、私の気持ちなんだかぁら! ほぉら、欲しいハーブを選ぁんで!!」

「じゃあ、そのバジルを……」

「バジルね!」


 ニルギさんは白い包み紙を取り出すと、花束のような量のバジルを包んでくれた。

 他にもローズマリーやイタリアンパセリ、ミントも添えられている。


「こ、こんなにたくさん……!?」

「バジルはねぇ、ワッサァってなるんだから! ワッサァって!!」

「ははは」


 なんだか、田舎のおばあちゃんを思い出すなぁ。

 それに実際、すごくありがたい。レジのマジカがほぼ無くなってしまった今、仕入れにも制限がある。

 この量のハーブがあれば、開店から数日分の料理をまかなえるだろう。


「ありがとうございます! 大切に、使わせてもらいます」

「がぁんばってぇね。それじゃぁ、私も市場でがぁんばらなぁいと」

「いってらっしゃい、ニルギさん!」


 市場に向かうニルギさんを見送る。

 彼女と入れ替わるように、ガルガンダ先生とトルト教授が歩いてきた。


「おはようございます、店長殿。体調は、もう大丈夫ですかな?」

「はい! おかげさまでこの通り、元気です。昨日はありがとうございました」

「おお、それはよかったよかった」


 ガルガンダ先生は安堵したように微笑み、自身の髭を撫でる。

 立ち話もなんなので店内に案内しようとしたが、先生はすぐ帰るのでと遠慮された。


「それと、店長殿にご提案なのですが、しばらくトルト教授にお店へ出向してもらおうと考えてまして」

「出向?」


 出向って、子会社や別会社に行って働くことだよな。

 魔導学園じゃなくて、うちの店――いたピコで働くってこと?


「トルト教授には店長殿のサポートをしながら、ダンジョンの研究をしてもらおうかと」

「良いんですか? トルト教授、他のお仕事もあるんじゃ……」

「いえいえ。こんな機会、滅多にありませんから。彼には全力でダンジョン研究に打ち込んで欲しいのです」

「そういうこと。僕にとっても、願ったりかなったりって話なのさ」


 昨日よりもだいぶ軽い雰囲気のトルト教授が、嬉しそうに言う。

 本人も、この話に乗り気なんだな。

 だったら俺にとっても、とても心強い話だ。


「給与につきましては、魔導学園から支給しますので、店長殿はお気になさらず」

「そっ、そんなことまで!?」

「こちらも研究に協力してもらうのですから、当然のことです」


 なんか、意外な流れになったな。

 もしかして昨夜、スマホでトルト教授のステータスが見れたのは、店で働くからってことだったのか?

 そんなことを考えながら、俺はトルト教授に握手を求める。


「では、よろしくお願いします。トルト教授」

「トルトでいいよ。よろしくね、店長さん」


 握り返してくれた小さな手は、とても力強かった。

 この様子を嬉しそうに見ていたガルガンダ先生が、話を付け加える。


「ダンジョン研究だけでなく、料理運びやメニュー取りも手伝わせたらよろしいでしょう」

「ええ……さすがに、そこまでやってもらうのは……」


 ダンジョン研究をしにきてるのに、従業員みたいに使うなんて。

 教授っていうくらいだし、なんか悪いなぁ。

 しかしガルガンダ先生は、さらに面白そうに話し続けた。


「いいのです。マジカ不足で店長殿に何かあっては、研究どころではありませんからな」

「それはそうですけど……そう、なのか? そう、だ……な?」

「ほっほっ。それにトルト教授は、店長殿の店――料理の価値を、よく理解している。きっと、お役に立ちましょう」

「? えっと……」


 なんだか言い包められてるようで、混乱するな。

 そんな俺を見ながら、ガルガンダ先生はニヤリとする。

 対して、トルトは少し目を逸らした。


「なに……彼は先日、こちらで購入したパニーノを学園で販売して、なかなかのお小遣いを稼いでいたのです」

「……ああっ!」


 昨日、なんか雰囲気がおかしいなって思ったのは、そういう隠し事をしてたからなのか。

 なかなかのお小遣いって――


「ちなみに、一個いくらで売れたの?」

「……2000マジカ」

「にっ、2000!?」

「だって学園のみんなに、お店の料理の価値を理解して欲しかったんだもん!」


 キュルンと可愛い顔をする、トルト教授。

 いや、だからって……パニーノ一個で、2000!? 1000ならまだ理解できるけど、2000って……。

 しかもうちでは、しっかり値切って買っていったのに……。


「どうぞ、トルト教授をお役立てください」

「はひ……」


 一通り話が終わると、ガルガンダ先生は魔導学園へ帰って行った。

 先生を見送って、俺とトルトは店に入る。


「じゃあ僕はこのマギメイを調べるから、店長さんは明日から営業できるように料理の準備をしてて」

「えっ……わ、わかった」


 息つく間もなく、トルトは仕事にとりかかった。

 お茶ぐらい出そうかとカップを用意すると、呆れたような顔でトルトがこちらに話しかける。


「あの、大事なことだから先に言っとくよ。たぶん、このダンジョン――店を維持するのに、毎月二十万マジカが必要なんだ」

「そうか。でも、月に二十万なら、割と余裕じゃないか?」

「店長さん!!」


 一段と大きな声で、トルト教授は叫んだ。


「今月は!! もう!! 二週間しかないんだよ!?」

「……はっ!!」


 レジ金ほぼゼロ円開店準備、開幕!!

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