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騎士団のお仕事  作者: 雄太
湾岸都市・オーシャン・パーク
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42 湾岸都市オーシャン・パーク 5

 

 3日目の地獄も終え4日目、天国になるはずだった………。今朝までは。



 今度こそオーシャン・パークを満喫しようと水着に着替え出てきた新人団員の前にアイリスが立ちはだかった。そしてアイリスは言った。


「砂浜は貸切だ。だがお前達が望むような光景はない。残念だったな。男共は砂浜の1番右を使え、家族連れは真ん中。1番左は女性陣だ、いいか不用意にこっちに入ってきたら生きて帰れないと思っておけ」


 この2日、女性にナンパする事を希望に地獄の訓練に耐えてきた男達は膝から崩れ落ち「もう海なんていい」と力無く呟く。


 女性陣のお尻や胸をのためだけにこの2日生き残った彼らは、絶望という言葉がよく似合う死にそうな表情でトボトボと頑張って膨らませた浮き輪を手に海に向かっていく。もしかしたらそのまま深みに向かい帰ってこないかもしれない。


 死んだ顔の男達が外へ向かうと、砂浜には杭が打たれロープが張られご丁寧に男子禁制と書かれていた。

 昨日遅くアイリスとウォーレンそして巻き込まれ

 たウィリアムの3人で制作した。


 もちろん砂浜は貸切のためナンパできる女性もおらず男達はビーチボールの出ている部分をおっぱいに見立て吸うのではなく空気を入れていた。


「吸うじゃなくて、入れるだってさ、入れるって言ってもこれじゃない……」


 また別の奴は。


「なぁ、これ上手く出来たとは思わないか?」


 砂で遊んでいた1人が悲しげな目をしながら自信作を見つめていたが突如叫び出した。

 一部の者達は未だ現実を直視出来ず、女性の形をした砂山を作りそれに抱きつき悲痛な叫び声を上げていたが砂で作った城などすぐに波にさらわれ溶けていく。


「おい! あそこの岩場に女子がいるぞ!」

「本当だ! 邪魔だ! 退け! あそこは俺のものだ!!」


 海の向こうを見ると岩場がありそこには水着を着けていない女性がわんさかいた。それを見つけた男達は海に入り、女の子を捕まえようとするが泳いでも泳いでもその岩場に近づけず、さらに遠くなり知らず知らずのうちに足が地面につかないぐらい深いところまで来ていた。



 唯一の希望さえ失われて死にかけていた団員達の前に、ウォーレンとバレーボールを左手に抱えたジルコーがやってきた。


「なんですか団長? 俺たちを笑いにきたんですか?」


 砂浜で死んでいた1人の団員が体を起こして死んだ魚のような目でヤケクソ気味に言葉を吐き捨てた。


「お前らに勝負を挑みたい」

「勝負? なんですか?」


 そう聞かれウォーレンはジルコーからビーチボールを奪い取ると何故か設置されているネットの前に立ち「ビーチバレーだ!」と言い奪い合ったボールをその団員の前に転がす。


「どうせ団長達の勝ちでしょ」


 団長が意気揚々と出てきたという事は負ける理由がないという事だ。

 ここまでやっても乗ってこない部下に失望をあらわにするがウォーレンはめげずにもう一つルールを追加する。


「もし、お前らが勝ったら団長権限でこんな柵ぶっ壊してやる、どうだ?」


 団長権限。その一言に死にながらも聞き耳を立てていた他の団員の表情があからさまに明るくなるが今話をしている若手団員が待て、騙されるなと言ってから聞いた。


「団長権限?」

「そうだ。団長の命令は絶対。口答えは許されない」


 と言っているがここ最近はアイリスやジルコーを筆頭に口答えもするし拒否もする事が多い。

 それでも2人が在籍できるのは実力があるからである。それとたまにはちゃんと話を守ってくれるからである。それもなかったらとっくの昔に解雇にされていたであろう。


「男に二言はないですか?」

「ない」


 ウォーレンはキッパリと断言して「どうだ?」と再度問いかける。


「お前達が勝てば。天国に行ける。負けても罰はない、やってみるだけやってみないか?」


 団員は悩む。後ろにいる仲間達がざわめき立ち、挑戦するという流れができ始めその団員は仕方なく首を縦に振る。


「わかりました、やります」


 と渋々返答をしボールを持ちコートへ向かう。


「ルールは簡単、20点マッチ、1ゲームのみ以上だ」


 早速コート左側を陣取ったウォーレンは後ろで構えるジルコーに指でサインを送る。


「なんですか? そのサイン」


 だがウォーレンが思っているようには一切行かなかった。


「気にするな、いつでもいい、打て!」


 反対側のコートに立つ先ほどの若い団員と細身の団員。


 若い団員がコート端からサーブを打つとジルコーの右側に飛んでいく、右腕とないジルコーは無理やら左手でボールをリターンしすでにネット下に走り込んでいたウォーレンのジャンプの最高到達点付近にボールを落とし、それをウォーレンが強烈なスパイクで団員の顔を撃ち込み、1人を倒した。


「団長!」


 細身の団員がコート後方に吹き飛ばされ意識を失う。


「いいぞ、ジルコー」

「団長もお見事です」


 そう言い2人は楽しそうにハイタッチを交わすとギロッという視線を向けた。

 その視線を向けられた者は海にいるというのに鳥肌が立った。


「次は、誰だ?」



 その声に応えるものはなく、このままでは試合続行は不可能なので指名制に変え、ウォーレンジルコーペアは身内の死体を量産した。


 ゲームが終わる頃には立っているものは誰もいなくなり試合は成立せず終えた。



 ♢ ♢ ♢


 うるさかった団員達も静かになりジルコーは1人座椅子に座り日焼けをしていたがそこはサーフボードを抱えたウォーレンがやってきた。


「お前もやるか?」

「結構です」

「残念、2枚借りてきた」


 ボードの裏からもう一枚ボードを取り出すと起き上がったジルコーに押し付ける。


「俺、腕ないんですけど」

「大丈夫だろ」


 無責任な発言に言葉を失ったジルコーの背中を無理やり押して海に引き摺り込んだ。


「俺は先に行く」


 ウォーレンはそういうと波を探しに沖に向かった。




 楽しい慰安旅行もあとわずか、楽しい思い出を作れることを祈りたい。




 ♢ ♢ ♢



「辞めるんですか?」


 アイリスが思わず声を漏らす。

 慰安旅行を終え、帰りの汽車の中でウォーレンはジルコー、アイリス、ウィリアム、まさにウォーレンの右腕と言ってもいいほど信頼してる3人を呼び引退を打ち明けた。


 他の団員達は皆この慰安旅行の疲れもあり夢の世界へ旅立ち、ウィリアムとアイリスの2人も寝ていたがウォーレンに起こされて集められた。


「ジルコー、俺と一緒に軍学校の教官にならないか?」

「俺みたいな片腕のない奴なんて誰も信用しない……」


 ジルコーは膝から先がなくなった右手に視線を送り重い首を振った。


「でも、俺も潮時ですね。このままここにいてもみんなの迷惑になる」


 ジルコーは仲間達が訓練に励んでいる間も腕の怪我が原因でドクターストップがかかり訓練に参加できず酒を飲みずっと時間を潰していた。

 皆と同じ時間を共有出来なかった。

 若手達は口には出していなかったがやはり色々あったようだ。


「わかりました。俺も団長にお供させてください」

「ありがとうなジルコー」


 一つ言いたいことを片付けたウォーレンは残った2人と目を合わせた。


「一部の若手団員が、団長レースだとか言ってるのは知ってる。だが、俺の後任が誰になるかまだ決めてない。俺の後任を決めるためにお前達には対決してほしいんだ」


「「対決、ですか」」


 2人の声が重なる。そして2人は全く同じことを考えていた。


「殺し合いですか?」


 ウィリアムが恐る恐る問いかける。


「おい、俺がいつからそんなキャラになった?」

「ですよね」


 想像はしたが口には出さなかったアイリスが私はそんなこと考えてませんでしたよと言った感じに言う。


「では、何をしろと」


「軍から毎年恒例フォレストウルフの討伐以来が来ている。そこでお前達は隊長ではなく団長してフォレストウルフの討伐に挑んでもらいたい。

 そこでの指揮や戦法、部下に対するケアなど様々な面から判断して団長を決めたいと思う」


「それで、決めると」

「あぁ、そこで俺の後任が決まる。どっちが勝っても負けても恨みだか無しだ」


 ウォーレンは窓の外の車窓を眺めると「2人とも、疲れただろ、ゆっくりしてろ」


 ウォーレンは暗に帰れと言い家族がいるウィリアムは二号車に向かい、最初からここにいたアイリスは「後で戻ってきます」と言いその後ろをついていった。


 残されたジルコーは用意しておいた冷えてない酒とコップを取り出すとそれに酒を注ぎ、ウォーレンの前に置いた。


「久しぶりだな、こうして2人で酒を飲むのは」

「引退するんですから、毎日のように飲めますよ」


 お互いの顔を見つめ合い、未来の団長のために乾杯」といいコップを叩きつけ一口で飲み干した。


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