41 湾岸都市オーシャン・パーク 4
2日目からは地獄の訓練が始まった。
「死ぬぅぅぅーー!!!」
新人団員の1人が海に倒れ込みボコボコと泡を吹き出す。だが誰も助けに行こうとはしない。
しかし1人の女性が手を差し伸べる。アイリスだ。
フルフェイスのマスクを被り表情は見えないがきっと心配しているのだろう。
「ふ、副団長……」
その団員は涙を流し砂塗れの手でアイリスの手を掴む。
手を掴み立ち上がった瞬間、アイリスはその団員の背中を押し出し無理やり走り出させる。
「ほら、走れ! 休んでも終わりじゃ無いぞ!!」
「ヒィ!!」
動かない膝を無理やり動かして後ろを追いかけてくるアイリスから逃げる逃げる。
まるで大型の魚に追われる小魚のようだ。
青い海、雲ひとつない快晴の空、白い砂浜。
後ろから追いかけてくる美女。
だがそれは幻だ。
現実は、眩しいぐらいに晴れた空、照り返しがキツく足を取られる砂浜、止まろうとするたびに尻を蹴り上げるフルフェイスの副団長、そして観光客からの冷たい視線。
新人達には何も教えられてなかった。この慰安旅行の本来の目的を。この4泊5日の地獄を……。
女性陣の水着が見れるとワクワクドキドキで昨日1日を過ごし、今朝ウキウキで水着に着替えて起きてきた新人団員を待っていたのは普段の訓練で着用しているフル装備の鎧であった。
この鎧は昨日の汽車に一緒に乗せられ昨日のうちに保養所の職員達がここに運び込んだ。
朝、ワクワクで寝れなかった団員達は朝起きて初めてそれの存在を知って。
その直後アイリスが言ったのだ。
「ただの慰安旅行だと思ったか? 残念だな。これは慰安旅行では無い、れっきとした訓練だ」
副団長の脅しに負けた新人達は水着のまま鎧を身につける、今こうして砂浜を延々と走らされている。
そしてこの地獄は今日だけではなく明日も続くのであった。
♢ ♢ ♢
昨日、汽車に乗り遅れ置いてきぼりを喰らったジルコーも今朝の汽車で到着したが、腕の怪我のため訓練は不参加となり今はのんびり部下達が走る姿を眺めながら、海の家でビールを浴びていた。
その隣にはまた子供だからと訓練を免除されたサクラがかき氷に頭をやられ、蹲っている。
「焦って食べるからだ」
「うるさい」
「お前、アイリスに似てきたな。その言い方、アイリスそっくりだ」
部下達が目の前を走っていくと羨ましそうな視線がビュンビュン飛び交いその度にジルコーが嫌味を込めてニコッとこれ以上ない、いい笑顔を差し向け、部下達のイライラを増やしている。
若い女の子達が楽しくビーチバレーをしている横をフルフェイスの不審な集団が「死ぬ! 死ぬ!」と叫びながら駆け抜けると何も不埒な事はしていないのに悲鳴が上がる。
すでに2時間走りっぱなし、マラソンであればゴール前のデットヒートが演じられている頃であると思うが、ここではそんなことはなくずっと同じペースで熱い砂浜の上を走り続けている。
流石にアイリスやウォーレン、ウィリアムと言ったベテラン勢も疲れの色が見えてきたがまだまだ余裕があるのが笑顔を見せた。
「ほら! お前ら声が出てないぞ!」
「お、おぉぉぉーー……」
すでに声を出す気力もなく団員の多くは早く終わってくれ、もう無理だ、という悲壮感が表情にまで現れたている。
ウォーレンもそいつらの気持ちはよくわかるがまだもう少し走ってもらわなければ困る。
だからこう言った。
「走れ! 戦場じゃ敵は待ってくれない! 止まったら死だ。それでもいいのか?」
団長の発破にも返答はほとんどない。
仕方なくアイリスとウィリアムの2人を最後方に送り脱落しそうな者を木刀で叩かせる事にした。
そうしたらすぐに走り出しウォーレンを抜き去った。
「やればできるじゃないーーっ!痛って! おい!アイリス!」
「脱落者は叩けと」
いつのまにかウォーレンも追う側から追われる側へ追いやられた。
「なんで俺まで!!」
一際大きい叫び声を上げながら、先に逃げた部下の背中を追いかけるウォーレン。
集団に追いつく間、溜まりに溜まったイライラ解消ができ、嬉しそうに笑みをこぼしながら、追いかけてくるアイリスから全速力で逃げ回る団員達であった。




