40 湾岸都市オーシャン・パーク 3
出発時刻まで10分を切り各隊長達が名簿を持ち帰ってくる。その結果、遅刻者はジルコー以外確認されず、ウォーレンは参加者達を汽車に乗らせる事にした。
「みんな! そろそろ時間だ電車の中に入ってくれ」
ウォーレンの指示が聞こえた参加者達は続々と5日分の着替えなどを詰め込んだバックを持ち汽車の中に乗り込む。
汽車は10両、先頭車にウォーレン、アイリスが乗りそのあと各号車に各部隊別に乗り込む手筈となっている。
ウォーレンも全員乗り込んだのを確認して汽車に乗るがやはりジルコーの姿はどこにもない。
♢ ♢ ♢
汽車の出発がもう目前となり駅員達の手によって客車の扉が閉められた。
機関車に投入される石炭の量が増え、煙突からもくもくと黒煙を上げる。
汽車の存在を知らなければまるで魔物のように見えるだろう。
先ほど各隊長達もジルコー以外の全員が乗車したと報告に来た。あとはジルコーを待つだけである。
「来ませんね」
アイリスは窓から首を出し改札の方を見てジルコーの姿を探しているがその姿はない。
左腕に付けられている愛用の腕時計は汽車の出発まであと3分ほどを示している。
すでにドアも閉まり出発間際、もしかしたらこのままジルコー不在の前という事態も現実味が帯びてきた。
ウォーレンも同じように窓から顔を出して探してみるがアイリスと同じようにジルコーの姿は見つからない。
「はぁ、汽車の時間はずらさないからな」
窓から首を戻したウォーレンは駅の売店で買ってきたコーヒーを啜る。だが口に合わな買ったのか不味そうな顔をしたが捨てるのは忍びなく仕方なくちびちび飲む。
その時、先頭の機関車から出発の合図と思われる汽笛が数秒間に渡って駅構内に響き渡る。
それと同時にゆっくりと汽車は前進を始める。
レールとレールの継ぎ目に電車がなるとガダン、ゴトン、ガタン、ゴトンと規則性のあるどこか心地良い音色を鳴らし徐々にスピードを上げる。
最後にジルコーが来ていないかウォーレンが窓の外に首を出すと子供達がみんなウォーレンと同じように窓から首を出して騒いでいた。
♢ ♢ ♢
「おーーーーーいーーーー!!!!!! 待ってくれ!! 団ーーーーー長」
汽車がホームの中心を過ぎ去ったその時、大量の荷物を抱えて改札を強引に乗り越え、大慌てで走ってくる1人の男がいた。
ジルコーだ。
ウォーレンは慌ててその声がした方を見ると手に抱えた荷物をパラパラと落としながら、まるで魔物に遭遇した村人のような顔でジルコーが走ってきた。
「ジルコー!! 急げ! あははは、あははは」
やっと来たと言わんばかりにウォーレンは声を張り上げる。だがその後に笑い声が続く。
「もう間に合いませんよ」
それに対してアイリスは冷ややかな言葉を浴びせる。
すでに汽車はスピードを上げジルコーの走力より速い。どう足掻いても間に合わない。
荷物を全部投げ捨てジルコーは走るが距離が離れる一方だ。
「頑張れ!! もし間に合わなくても、次の汽車があるぞ!」
「ーーそれ明日! ですよぉぉ!!」
ウォーレンの冗談になんと返答が返ってきた。
まだジルコーには余裕がありそうだ。
ジルコーは最後の力を振り絞り少しだけ加速する。
だが、ホーム上の僅かな段差に躓き盛大に転倒した。
「ジルコーッ!!!!」
ウォーレンが懸命に叫ぶが汽車が止まることはなくジルコーは置き去りとなった。
「うぉぉぉぉおーーーーーレン!!!! このクソやろう!! 待ちやがれられ!!!」
また一つ改札の方から罵声に近い叫び声が飛んできた。
馬に乗った男が駅員の静止を無視して馬ごと改札を飛び越え駆けてくる。
レイだ。
「説明ーーーいしろぉぉ!!!!!」
「バレたか」
えへへ、舌を出して笑うウォーレンに2度目の冷たい眼差しが向けられた。
「何したんですか?」
「あぁ、昨日の夜、酒に酔わせて、今日の休暇の話をしたんだ。その後睡眠薬でぐっすりしてもらってたが思ったより効き目が早く切れたな」
人間の脚力よりもさらに早い馬を使いレイが猛スピードで追いかけてくる。途中地面に横たわるジルコーの背中を飛び越え、鬼の形相でウォーレンが乗る汽車を追いかける。
馬は早く、すでに汽車の1番後ろの客車に追いつきタイミングを見計らい飛び移ろうとするが突如、馬がブレーキをかけレイはどうにか手綱を掴み落下を阻止した。
馬はそのまま減速しホーム先端の柵の前で止まる。
「ウォーーーーレンぇぇ!!!」
「お土産は期待していいぞ!!」
声を枯らしながら叫ぶレイに火に油を注ぐような能天気な返答を返した。
「覚えてろぉぉ!!!」
「団長!! 置いていかないでくださいぃぃ!!」
そこへようやく顔面を血で真っ赤に染めたジルコーが追いつき並んで叫ぶ。
「迷惑だからそれ以上叫ぶな!!」
と1番迷惑なウォーレンが叫んだ。
「団長ぅぉぉ!!!!」
その言葉を最後にジルコーはこの世の終わりだと言うように倒れた。
ウォーレンが最後に見たのは倒れたジルコーをレイが介抱する事だった。
例えジルコーが汽車に乗れても汽車は目的地オーシャンパークに向かっていたであろう。
騎士団一行を乗せた汽車はオーシャンパークまで続く線路を文句も言わずただひたすら、走る。
先ほどまで窓の外は都会の風景が流れていたが今ではすでに農村へと移り変わり徐々に畑から山へと変化している。
遠くに見えていた山が近づき、王都から離れていることを実感させられる。
最初、見慣れない光景に騒いでいた子供達はすでに飽きたのか静かになった。この汽車の揺れのせいで睡魔が襲ってきたのだろう。
見ている時はワクワクするものだがいざ乗ってしまうとなんだか寂しい。
ジルコーを乗せずに定刻通り出発した汽車はオーシャンパークまで5時間の道のりをひた走る。
初日はオーシャンパーク到着時間が午後2時を過ぎる為、訓練を行う暇も無いので保養所に荷物を置き自由行動にした。
新人団員には一切言っていないが2日目3日目は地獄の訓練を行い4日目は自由行動そして5日目、10時の汽車に乗り王都帰る4泊5日の慰安旅行の予定だ。
汽車に揺られること約2時間、オーシャンパークまであと半分ぐらいの距離に来ただろう。
そろそろ昼時ということもありウォーレンの腹の虫が騒ぎ始めた。
しばらくすると後方の扉が開き乗務員が駅弁をカートに乗せて回ってきた。もちろんこれも経費だ。
ウォーレンは1番最後、余った弁当を取り上げて、「いただきます」と手を合わせ昼飯を食べ始める。
「美味いな。やっぱり汽車の旅の弁当は美味い」
普段味わえない美味しさになんとも言えない感想を抱いたウォーレンの手は止まらない。
「ですね、美味しいです」
こちらもウォーレン同様残り物を選び食べていたアイリスが同じような反応を見せる。
動く汽車流れる車窓、揺れる客車。その全てがこの弁当とマッチし最高の美味しさを引き出す。
ここでしか味わえない逸品である。
弁当を食べ終わりしばらくすると後方の客車で騒いでいた子供達の声が一切聞こえなくなる。
腹一杯弁当を食べて満足してまた眠りに入ったのだろう。
ウォーレンにも睡魔がジワリジワリと歩み寄ってきた。首をコクコクさせ、僅かに目を開けアイリスを見ると、アイリスはすでに夢の世界に居た。それを見るとウォーレンもこれ以上の抵抗は出来なかった。
♢ ♢ ♢
汽車の警笛が鳴り響きウォーレンが目を覚ますとどこかの駅のホームに止まろうと減速を始めていた。
ホーム上の駅名が書かれた看板を見るとオーシャン・パークと柔らかい文字で書かれ、その下には「ようこそ!安らぎの海へ」と言うキャッチコピーが書かれていた。




