34 軍・騎士団合同入団試験 7
まだ時間までもう少しあるが合否が張り出される掲示板の前には既に参加者達が集まって来た。
だが集まっているのは合格する可能性が低い連中がばかりである。
先ほどの組み分けでA.B.C.D班に分けられた人たちはまだここには来ていない。
アイリスやウィリアムも遠目から彼らを見ているだけだ。
参加者達がより前に行こうと押し合いが繰り広げられ「退け!」「邪魔!」「馬鹿!」など罵声がちらほら聞こえる。
それを暴動が起きないようにサクラの試験官が監視の目を光らせている。
静止するようなそぶりは見せない。流血騒動になれば合否関係なくつまみ出すだけである。
♢ ♢ ♢
それからしばらく。
時間になり先ほどの司会が現れ「これより合否を発表します」と言うと同時に6人の試験官が人の背丈を超える紙を3枚持ってきて掲示板に貼り付けるとすぐさま押し問答を繰り広げていた参加者達が血眼になって自分の名前を探しているが直ぐに自分の名前がない事が理解できた。
最前列で自分の名前を探していた者達は失望し落胆し膝から崩れ落ち、参加者達の中に紛れ込んでいた試験官によって「また来年もあるさ」と慰めにもならない慰めを贈られ、安全な場所へ連れ出された。
しばらくすると1番最初に集まっていた連中はほぼ全員消え、軍学校の卒業生など合格できる可能性が比較的高い参加者が自分の名前を探しにきたが、自分の名前を見つける前にあることに気付く。
「嘘だろ、ウィリアムの名前がない」
「本当だ、ウィリアムが落ちた?」
と複数人の呟きが聞こえたからだ。
その呟きが聞こえ他の参加者達も一斉にウィリアムの名前を探すが軍の合格者にはその名前はなかった。
すぐにウィリアム本人の姿を探すように当たりをキョロキョロ見渡すがどこにもウィリアムは居ない。
「ほら、自分の名前を探せ、気になるなら後で聞け」
不合格者達が暴動を起こさないように監視していた試験官が注意すると渋々自分の名前を探していたがどこにも彼の名前は名前はなかった。
合否を張り出してから30分ほど経過した頃ようやく冷やかしの参加者達が姿を消した。人がいなくなったのを見てからようやくアイリスが掲示板の前に立った。
だが軍の合否には自分の名前は記載されておらず「女だから………」と落胆よりもどうせそんな事だろうと言うふうに声を漏らした。
アイリスの心にはなんの感情も現れなかった。
心のどこかで女だから合格するはずもないと言う認識がずっとあったからだ。
そもそもここには自分の意思ではなく、祖父の勧めで来ただけ。それは都合の良い解釈だと理解出来ているが、それが事実だとアイリスは思う。
自分からやると言い出し参加したわけではない、祖父に勧められただけ。そう心に言い訳しないと今にでもこの何か大切な物が壊れると無意識のうちに思った。
やれる事はやった、もうこれ以上ここにいる理由はないと、この結果を無理やり割り切ったアイリスは荷物を持ち直し、この場を後にしようと顔を上げ、歩き出したがその進路の先にニヤッと人懐っこい笑みを浮かべだウォーレンが居た。その後ろにはウィリアムも居た。
ウォーレンは「少し待っててくれ」とウィリアムに言いもウィリアムは分かりましたと答えその場を離れる。
そしてアイリスに「どこ行くんだ?」と声をかけてきた。
「私は不合格でしたので」
ーー帰りますと少しだけ頭を下げるとウォーレンの脇を抜けその場を立ちさろうとしたが、「まぁ待て」と呼び止められた。
「もう構わないでください」
「どうせ軍しか見てなかったんだろ」
構うなと言ったアイリスを無視してウォーレンはズカズカと踏み込む。
「ちゃんと見てみろ、まだ騎士団があるじゃないか」
「どうせ、同じですよ、私が女だからどこも取ろうとしない」
視線を俯かせアイリスは首を横に振る。そして今度こそ帰ろうと足を出したがまたもウォーレンに止められた。
「軍人失格だな。ちゃんと全部見ろ、重要なことも見逃すぞ」
このままでは帰らせてくれないアイリスはそう思います仕方なく騎士団の合格者の張り紙を見たその瞬間、1番上に『アイリス・ニクマール』と自分の名前が記載されていたが脳の理解が追いつかずそれが自分の名前だと認識できなかった。
「……っ、ぇ」
だがすぐに自分の名前だと理解できたが、これに対してどう反応していいのか分からず感情が混乱し、ただ言葉を失う。
「騎士団はお前みたいな将来有望な人材を歓迎する」
掲示板の前で何もできず固まるアイリスにウォーレンが笑みを浮かべながら言う。
初めて身内以外に認められたアイリスの茶色い瞳に18年間ずっと押し込められ続けた物が堰を切ったように溢れ出した。




