29 軍・騎士団合同入団試験 2
謎のフード男に縛り上げあげられた3人はそのまま姿を消し、もう2度とアイリスの前に現れることはなかった。
そんなこともありアイリスの周囲20m圏内は人1人としておらず、少し離れたところからチラチラと時々視線を感じるぐらいだ。
だがそこへ先ほどの騒動を見ていないのかアイリスと同じぐらい、背中まで伸びだ金髪を肩甲骨の辺りで一つに纏めた長身の若い男がゆっくりと歩いてきた。
先ほどのフード男よりわずかに低いがそれでも長身と言って良い部類だ。
見た感じアイリスとほぼ同年代と思われる金髪の男はアイリスの前に来ると他にも空いているところはたくさんあるのに「隣、いいですか?」と聞いてきた。アイリスは周囲を見渡し暗に『他にも空いてるでし』という目で見たがその男はアイリスの返答を聞く前に少し離れたところに腰を下ろした。
いつでも抜けるように左側に置いてある剣に手を掛け視線だけをその男に向けた。
「貴女がアイリスですか?」
「まずは自分から名乗るべきでしょ」
アイリスの冷たい反応にめげることなく、そのどこか胡散臭いと感じさせる笑みを崩さない。
何故、男は自分の名前を知っているのか疑問点はどんどん沸き続けるが考えても答えが出ることは無い。
「ありゃ、これは手厳しい。失礼しました」
相手を不快にさせたならばまず真っ先に謝り、自分の非を認めるウィリアム。
その視線はアイリスではなく向こうの茂みをじっと見ている。
「私はウィリアム。ウィリアム・ディレンダーと言います、ではもう一度、貴女がアイリスですか?」
そう問われどう答えようか表情には出さないが悩むアイリス。
偽名を答えても良いがいつかバレるのは明白だ。だが本名は答えたくない。どちらがこの先不利にならないかを考えた時、本名を名乗る方がマシと判断した。
「………そうよ」
名前を知っている時点で名前を尋ねる理由はない。
ウィリアムが知りたいのは苗字の方だと今の言葉の中で見えた正解と口にした。
そしてウィリアムにこれ以上口を挟ませないようにするために先手を取る。
「貴方も私が女だからって馬鹿にしにきたの? ならいつでも切り刻むわ」
アイリスは手を掛けてあった剣をわずかに抜き銀色の刀身をわざと『私は躊躇なく切る』という意味合いを込めてウィリアムに見せた。
遠くを見ていたウィリアムの目にもピカピカと光る刀身は見えたがそれに視線を向けることは無い。
「私は先ほどの外道とは違いますよ、見に来たんですよ、貴女を」
「気持ち悪い……」
思わず本音がポロリと漏れるとダイレクトに喰らったウィリアムは少し表情が強張る。
これだけの高スペックだ、今まで気持ち悪いという言葉とは縁もゆかりも無かったのだろう。もしかしたらそういう言葉をかけられたのはこれが初めてなのかもしれない。
それだけに心のダメージは大きい。
「………失礼、言葉の綾というものですね」
少しばかりダメージを貰ってしまったウィリアムはどうにか言葉を絞り出した。
「正確に言えば、私よりも強い人を見にきたんですよ。うーん、言うならば敵情視察という具合でしょうか」
「私にそんな価値ないと思うけど」
「さぁ、どうでしょう。少なくとも私は貴方にその価値を感じました。先ほどの剣捌き見させてもらいました。軍学校出身者ではない方が何故、あそこまでの卓越した剣技を持っているのか、私には分かりませんでした。私はわからないものをわからないまま放って置くのが大っ嫌いなんですよ。だからこうやって質問しにきたわけです」
だがアイリスはそういう質問にまともに取り合う気など一切ない。
答えは努力したからと言うほかないからだ。
朝、起きてすぐにランニング10キロを行い、息も整ってない中、型の練習をさせられた。
息が整わないつまり体がどうしても呼吸でブレる。
短時間で呼吸を落ち着かせるための練習を祖父と暮らし始めてから毎日行った。最初は整うはずもない。だが半年が過ぎるとブレが少なくなり始め二年が経つ頃にはランニングを終えわずか休憩時間には呼吸が整うようになった。
型の練習を終えたら、即祖父との打ち合いが始まる。何度も足や手に木刀を打たれ紫に腫れることはもちろんアザに擦り傷、毎日新たな傷を作る日々。
元騎士団1番隊隊長の剣術に剣を習い始め二年も経たない少女が勝てるはずもない。老いたとはいえ子供に負けるほど弱くなったわけではない。
アイリスはやめたくなるほどきつい過酷な訓練を18歳になるまでずっと続けたのだ。
温室でわいわい友達と訓練をしていた奴らと同じと言うこと自体が間違っている。
「努力。それ以外何があるの?」
「努力ですか……私も努力を怠ったことはありませんが、私よりも強い人を見たのは初めてです」
「それって見ただけでわかるものなの?」
「見る人が見ればですよ」
ウィリアムは特に足回りを見ていたが言葉を濁した。
実際のところアイリスの勘が脚を見られていると反応していたが自分も相手の脚を見て敵の強さを判断する事が多く文句を言えなかった。
やはり基本は脚なのだ。『脚は相手の戦術を教えてくれる』毎日口酸っぱく祖父が言っていた。
『足の筋肉のつき方で相手が普段どう動いているのか大まかなことは把握できる、まぁそれは脚だけの話だがな。だが腕も同様、どこに筋肉が付いてるかで普段どう言う攻撃をしているのかこっちも大体把握できる』
「別に良いですよ、脚見たって、私も脚を見て判断しろと師匠に言われてますから」
師匠など一回も呼んだことは無いが祖父やジェイムズなど固有名称を出して相手に情報を与えないように言葉を少しだけ変えた。
「師匠ですか、いえ、その前に、ジロジロ見たのは失礼しました、私もアイリス殿と同じような事を教わったもので」
「アイリスでいいわよ、殿なんてむず痒いだけだし」
「では私もウィリアムとお呼びください」
「それは結構」
「手厳しい……」
下心というよりも自分より強いものの近くに居たかったがアイリスはそれを明確に拒否した。
「やはり、相手の力量を見極めるためには『脚を見る』と言うことが重要なんですね」
「貴方から見て私の足はどう見える?」
ニヤッと楽しそうな笑みを浮かべたアイリスはそう問いかけた。
実際ズボンに阻まれ生脚自体は見えないだが動いた時に浮き上がる筋肉は僅かに確認できる。
それから推測するにーーー
「うーん、全部見たわけではありませんが、スピード重視という感じがします。得物も片手剣に盾。
力でねじ伏せるというタイプではないです。脚で動いて撹乱しながら盾で相手の攻撃を捌き、体勢を崩させて確実に首を刎ねる、隙がなく私が1番嫌いな相手ですね」
ウィリアムは見解はまるで実際に戦ったことがあると言っても信用されるほど正確なものだった。
アイリスの戦い方はウィリアムが言った通り、盾で相手の攻撃を捌きながら自分のタイミングで剣を振る、堅守の戦いを好む。首を狙える時は確実に狙うが狙えなければどこでもいいから身体を損傷させる戦法だ。
男のように剣を振り回すだけで敵を押し潰すほどの筋力はアイリスにはない。
無駄に力で捩じ伏せる戦い方を教えても意味はないと今の戦い方を祖父から教えられた。
祖父は『一対一の時は相手のミスを促すようなこう戦い方が1番敵は嫌がる』とも言っていた。
それと同時に『乱戦になればこう言う戦い方は全くもって無意味だ』とも指導された。




