28 軍・騎士団合同入団試験
『軍・騎士団合同入団試験』は王都郊外の軍演習場を会場にして行われる。
普段は軍演習場として使われており、森や林、手彫りの川に加え小山というには標高のある山や堀などあり起伏に富んだ場所だ。
練習ではなく実戦を意識させるために自然に近い環境を作り込み、そのおかけで魔物も生息している。なので演習中は魔物を狩り食糧にすることも可能だ。
その他にも砦や小さな城まで完備され実戦さながらの演習を可能としている。
設備だけ見るのであれば世界最高峰の軍事施設といって過言ではないと断言できる。
まだ集合時間の二時間ほど前だと言うのに演習場には入団試験参加者が続々と到着している、それぞれ瞑想していたり、ウォーミングアップをしていたり、素振りをしていたり、各々自由に時間を使っている。
ここからの見える限りでは既に500人以上が来ているようだ。
今年の参加者は暫定数ではあるが921名(前年比56人減)そのうち軍学校卒業者は120名。
卒業者のうち115人は軍又は騎士団に入団することが決まっている。
つまりこの合同試験は一般にも門戸が開かれているとアピールするためだけのヤラセに過ぎなかったが、ここ最近では一般参加者からも有望な人材が時より現れることから、過去のように目に見えてのヤラセではなくなったが、今現在も批判を交わす目的で一般参加を認めている節がある。
薄々ヤラセがあると勘付いている参加者も多いが合同入団試験に参加したと言う名誉が欲しいのかヤラセとわかっていながらも人は集まる。
だがアイリスのように本当に何も知らない参加者も相当数存在している。
軍学校出身の参加者を除けば参加者数約800人、皆、それぞれの時間を過ごしていた。
今年の参加者の99%は男。つまり女性の参加者はアイリスただ1人(去年は3人だが誰も合格できず)ということもあり絡んでくる馬鹿は少なからず居たが、声をかけられても全て無視していたこともあり直接手を出してくる輩は居なかったが、ここに来て初めて手を出して来た奴が現れた
切り株の上に座るアイリスの前にスキンヘッドのいかにもチンピラ、何故参加できたのか謎とも思えるような風貌をした男が、ニヤッと吐き気がする笑みを浮かべアイリスにちょっかいをかけて来た。
「おい姉ちゃん、ここは女が来るところじゃねぇぜ、もっと良い所案内してあげようか?」
その男はアイリスの身体を下半身から順に舐めるように見定め舌をじゅるりと言わせた。
そのスキンヘッドの後ろには仲間なのか細身というよりガリに近い、いかにも子分と思われる男が2人「もっと言ってやれ兄貴!」「おい! 兄貴が話しかけてんだろ! 愛想よく返事しろや!」と離れた距離から大声で喚いている。
そしてそのまた周りにはハイエナのような速さで騒ぎを嗅ぎつけた野次馬が続々と集まり、アイリスに汚い視線を向けている。
誰もアイリスの味方をしようとする者はいない。
「おい! 俺様が話しかけてやってるんだよ! なんか喋れよ!」
気持ち悪い求愛を無視されたスキンヘッドは逆上し、持っていた短剣をアイリスに向けながらズカズカと歩み寄る。
初めてその男を視界に入れたアイリスは左側に置いてあった自らの長剣よりも20センチほど短い剣の鞘を抜き立ち上がる。
「な、なんだ姉ちゃん、やる気か?」
ハイライトのないアイリスの目がスキンヘッドを捉えるとスキンヘッドは怯えたように声が震えた。
「おい、け、怪我させてみろ、お前は失格だ! それでも良いのか!」
アイリスはそんな安っぽい脅迫を真に受けることはない。
別に失格になろうがアイリスには一切関係ない、目の前のこの気持ち悪い男を消し去るだけでいい。
「兄貴! 逃げてください、この女やばいですよ!」
そこに子分の2人が明らかに火力の低そうな短刀を構えてスキンヘッドの前に出るがその瞬間にアイリスは剣で子分2人の両手の健を切り、もう二度と物を持たない身体にした。
「ぁぁぁぁああああ!!!!」
子分Aは痛みに耐えきれず惨めな叫び声をあげ地面を転がる。
「お、俺の手が!!」
子分Bは一生涯で感じるのことはないであろう想像を絶する痛みにどうにか耐え切り、落とした短刀を拾おうとするが手が動くことはなく無惨にも落とした短刀を叩く事しかできない。
この怒りは全てアイリスに向き、視線を上げ睨むが、それよりも先に手のひらに剣の形をした穴ができたことに気づいた。
「ぎぃぃぃぃぁぁぁああ!あ!」
1度目の激痛は耐えきれたが2度目の激痛には耐えきれず男とは思えないほどの哀しい悲鳴をあげ、子分Aと同じように耐えきれない腕の痛みに耐えようと身体をクネクネ転がす。
それを見た野次馬達はここに居ては自分も同じ目に合うと思ったのかゾロゾロと逃げ出しこの場には
スキンヘッド男とその子分達、そしてアイリスの4人が残った。
スキンヘッド男は子分2人があっさりやられ、初めての恐怖心を抱いたのか腰が抜け、「た、助けてくれ!」と股間を濡らしながら後退りする。
祖父の教えに反する形となるが。流石に殺しは不味いと思ったのか、逃げる意志をなくした子分2人は捨て置き、逃げようとしているスキンヘッドに視線を向ける。
「ヒィぃ!」
アイリスの気迫籠る視線を向けられスキンヘッドは情けない悲鳴を上げる。
「死ね」
アイリスは一言呟くと剣を振り上げ男の首目掛けて振り下ろした直後「待て!」と言う声が横から響いたが既にトップスピードに乗った剣を止めることはできず、そのまま振り下ろされスキンヘッドの首を切ろうとしたその時、別方向から来た剣がアイリスの剣を弾いた。
「ふぅ、間に合った。殺しはダメだ」
フードを被り顔は見えないが男は安心した様子で一息ついた。
「殺したら失格になるぞ、こいつは俺が連れて行く、まぁ他人に危害加えようとした奴も失格だがな」
スキンヘッドは首を切り落とされたとでも思ったのかドテだと言う音を立て横に倒れた。
フード男は倒れたスキンヘッドと子分2人の腕と脚を固く簡単には解けないように縛り上げ、ついでと言わんばかりに口元はテープを巻きつけそいつらを引きずりながらどこかに歩いて行った。
「うう!ううう!ゆゆうう!」
「無駄な抵抗はよせ」
芋虫のようにぴょんぴょん飛び跳ねる子分達を一声で黙らせた。
もう1人の方は懲りずに反抗を続けてたが口にそこら辺の土を詰め込まれむせていた。
「良いかお前ら、静かにしろ、別に騎士団やら軍に引き渡すつもりはない」
フード男のその一言に2人は何故か安心したような表情を見せたが刹那その安堵の表情は地獄に落とされることが決まった人のような顔となる。
「確かこの演習場は自然を意識し過ぎて魔物も住んでるだよな……」
フードの下でその男がニヤッと面白そうだという笑みを浮かべ、ヒィヒィヒィ、と悪魔のような声を漏らす。
「や、やめてくれ! 頼むから!」
「あ、い、命だけは……っ!」
「大丈夫だ。運が良ければ生きて帰れる」
その後3人を見た者はいないーーーー
彼らが無事、五体満足で生還したことを祈る。




