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騎士団のお仕事  作者: 雄太
アイリスの過去
26/49

25アイリス・ニクマール 2

 

『お母さんと喧嘩した』


 孫の告白にミシェルは言葉を失う。

 そして自分の心をまとめようとアイリスに「何があったの?」と再度問いかけると、アイリスはなるべく自分に都合のいい言葉を選びながらミシェルに今朝の出来事を話した。



 ♢ ♢ ♢


「そう、フローネが口酸っぱく、結婚しろと言って来たの」


 ミシェルはアイリスにもわかるように言葉を選びながら答えた。それにアイリスはうんと僅かに頷いて重い口を開く。


「そう、お母さん、私に嘘ついてた」

「嘘って?」


 ミシェルにはそれ以外の言葉が出てこなかった。

 フローネは嘘をつくような子ではない。

 アイリスはまだ子供だ。だからこそ言葉の捉え方は自己中心的になる。だがフローネが嘘を言う姿が一切思い浮かばない。


「『女の子は結婚以外楽しみなんてないの』って毎日言われた。でもそれ嘘だった。結婚する以外にも楽しいことはいっぱいあった」


 その言葉にミシェルは首を傾げた。

 フローネには一度も『早く結婚しなさい』や「孫の顔が見たいわ」など結婚を急かすようなことは言っていない。

 その当時、孫の顔を見たいとは思っていなかったが、アイリスが産まれて初めて『孫の顔が見れて嬉しいわ』と言った程度だ。


 フローネの夫とは働いていたバーで出会ったと聞いている。結婚以外の楽しいことも知っているはずなのになぜ、そんな言い草で言ったのかミシェルにはわからない。

 アイリスの話だ。子供の話など丸呑みにはできないがそれでもどこが歯の奥に物が詰まるような感覚がそこにある。


「本当にお母さんがそう言ったの?」

「うん」


 少しだけ頷く。


「お母さんにもお母さんさんなりの考えがあるのよ。多分ね」

「嘘」


 アイリスの頷きに答えれるほど回答がなかったミシェル苦し紛れに言葉を紡いだが、繋ぎ合わせただけの言葉はすぐに見破られた。


「でもそれは間違ってないと思うわ、アイリスにはアイリスの考え方があるようにお母さんにもお母さんの考え方があるの、みんな相手が何を考えているのかなんてわからないわ、だから言葉で解決しようとするけど、その言葉もどうしても自分に都合よく解釈してしまう物よ」


 ミシェルの言葉にアイリスは頷きもせず答えもせず黙り込んでしまう。


 ♢ ♢ ♢


 玄関の扉が開き「帰ってきたぞ」と言うジェイムズの声が聞こえた。その声にミシェルが「お帰りなさい」と返事をしながら出迎えた。

 リビングに戻ってきたジェイムズは袋から林檎を二つ取り出し「食べる?」と聞くと「食べる」とボソッと返事が返ってきた。


「かぁさん剥いてくれ」


 出した林檎をミシェルに手渡そうとするがミシェルはそれを受け取らない。


「自分でやりなさいよ」


 そう一言ジェイムズにとってはかなりキツイ事を言われた。


「わしがやったらまた大惨事になってしまうぞ」

「アイリス、おじいちゃんを手伝ってあげて頂戴」

「悪いが手伝ってくれ」


 2人に頼まれたアイリスは少し笑みを浮かべてジェイムズの腕を掴みキッチンに連れ去ったーー




「ごめんなさい」


 リビングのソファーに腰掛けるミシェルにジェイムズは平身低頭謝罪の言葉を口にする。


 アイリスに連れられキッチンに向かった時は楽しそうに笑みを浮かべ、いざ包丁を取り出しアイリスと並び林檎を意気揚々と剥いていた。


 が実際出来たのはボロボロになった林檎だった。

 ジェイムズが買った林檎は凸凹だらけで皮は残ってるし芯も切り取れてない、残っている林檎よりも捨てた林檎の方が多いような有様だった。

 その隣の皿にはアイリスが剥いた百点満点これ以上ない出来前の林檎が置かれているせいでよりジェイムズの作品の下手具合が際立ち強調されている。


 アイリスは手際良く皮剥きを終え、途中からはジェイムズの手を握り「違う、こうやるの」と指導していた。そのおかげもあってか最後の方に切った二つはまだ林檎であると認識はできたが、最初の4つをミシェルが初めて見た時、思わず目元を押さえ瞬きを何度かしてこれは現実か? と確かめていた。


「私が間違ってた」


 やっぱり任せるんじゃなかったと後悔したミシェルはジェイムズが切った林檎を食べ「なんでかな〜」と力無く呟く。


「こんな見た目でも林檎は林檎ね」


 どんなに見た目が悪かろうが林檎は林檎の味をしていた。こんなのが林檎とは思いたくもないが脳はこれを林檎だと認識している。

 ジェイムズの林檎を食べてからアイリスが剥いてくれた林檎まで食べる。


「味は同じね、なんで同じなのか疑問だけどもういいわ、どっちと美味しい」

「ただ剥いただけだぞ」

「貴方は余計なこと口にしないで」


 雉も鳴かずば撃たれまい。余計な事を口にしたジェイムズをピシャリと叱り黙らせる。

 そして綺麗な方の林檎を皿をアイリスに持たせ隣に座らせた。


「さぁ、アイリス早くお食べ。あなたも責任持って食べてくださいね、また余計なもの買って、おつまみはと当分なしね」

「そんな〜」


 ジェイムズの悲しい細々とした悲鳴が響き渡る。

 そう言う時は普通ならお酒は抜きと言われるがジェイムズは酒は飲まない、ついでにタバコも吸わない人なので酒抜きと言っても意味はない。だが酒の当てになりそうなものは食べる。

 老夫婦の掛け合いにアイリスは思わず笑い声を漏らす。


「かわいそう」

「気にしなくて良いのよ」

「アイリスもこう言っている事だし」

「黙ってて」

「はい」


 どの家庭も奥さんの尻に敷かれるのがオチなのかもしれない。


 ♢ ♢ ♢


 時刻は午後3時を過ぎた頃、唐突に玄関の方からトントンとノックをした時の音が聞こえた。

 その後に1番最初に反応したのはアイリスであった。アイリスは音が聞こえると同時に耳を塞ぎ背中を丸めた。


「大丈夫だよ、私たちがついてる」


 ジェイムズがフローネが来たと思って怖がるアイリスの背中をそっと撫で安心させると速まっていた呼吸が少し落ち着く。


「あら、誰かしらね」


 玄関前にいる人物は2人のうちどちらかであることはまず間違いないだろうが、ミシェルはわざとそう口にしてジェイムズに『お願いね』と言う視線を送り、「は〜い」と返事をして玄関に向かう。


「どちらさん?」


 玄関を開ける前にきちんと外にいる人物に問いかける。


「ミシェルさんお久しぶりです。ロバートです」


 そこにいる人物が誰なのかはっきりした。

 フローネの夫つまりアイリスの父親であるロバート・ダウラであった。

 ゆっくりとドアを開けてミシェルは外に出て、ロバートを室内に入れさせないようにドアの前を塞ぐ。

 平均より背の高い好青年というには歳を食ったがまだ年齢よりも若い見た目を保っている。


 普段から仕事着であるオーダーメイドの包み込むような黒が目を引くスーツを愛用し今日もそのスーツを着ている。そして胸元には子供の頃から星の形をしたバッチ、そしてアイリスが作った同じ星型のバッチの二つが輝いている。


 商談の時でも靴だけは革靴ではなく動きやすいタイプの靴を好んで履く。本人曰く商談を装い稀に襲ってくる奴らがいるからだと言う。

 そのロバートは僅かに扉が開いた瞬間室内に視線を向けたがアイリスの姿はなくすぐに扉は閉められた。


「アイリスは……アイリスはこちらに来ていませんか?」


 すでに相当アイリスのことを探し回ったのか声は掠れ、顔は疲れからかやつれている。

 ご自慢のスーツも足元を中心に汚れが目立ち、肩周りなどは腕を動かした時に破れたようだ。


「もし、来てたらどうするんだい? 誘拐でもして連れ帰るか」

「そんな事するわけない!」


 感情を押さえつけられなったロバートば思わず声を荒げたがここは住宅街であり、もしかしたらこの奥にアイリスが居ると今、思い出し「大声を出して、すみません」と頭を下げた。


「私は……ただ、アイリスが今どこに居るのか。それだけを知りたいのです……」

「アイリスならいるよ」


 その一言に疲れていた表情が一気に吹き飛ぶ。


「アイーー」


『アイリスに合わせてくれ』そう言うとしたのかもしれないがロバートの言葉が詰まる。


「私には会う資格はない……」


 そう呟いたロバートは力無く床に座り込む。


「ロバートさん、一体何があったの? フローネとアイリスが喧嘩したって聞いたけど、貴方は何か知っているの?」

「……全て、私のせいです、私がフローネと結婚したのが間違いだったんですーー」


 ロバートは涙ぐみ言葉に詰まりながら何があったのか話し出した。


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