18 互いの背中
同刻。
ウォーレンは建物の陰とに潜む何かの気配を察知すると馬から降り、剣を構える。
そこへ同じように嫌な予感を覚えたレイモンドも合流し目線と頷きだけで、情報を共有する。
ズーズーズー
と言う何かを引きずる音と
ザッアザッアザッア
と言う不安定な足音と思われる音が物陰から近づいてくる。
兵士であればこんな足音は鳴らさないだろう。
このことから2人は既にそこに隠れているのは敵であると断定し王女が乗る馬車の護衛をさらに固めるように指で指示をした。
背後で騎士団員達が動く足音がいくつも聞こえすぐに鳴り止む。配置についたようだ。
じっと建物の影を注視する2人の目の前にウォーレンよりもさらに大柄な男がゆっくりとした足取りで出てくる。
その男の手には軍所属の者と思われる遺体が握られていた。
「見たことない奴だな」
レイモンドが何も考えずに出した一言にウォーレンは自身の中の警戒度を2段階上げる。
見たことない敵と対する時は相手の動きをよくみろそれが軍学校の教官の口癖だった。
教官の口癖通り大男の動きを見ていると特徴的な模様が見えた。
「あいつ、BBの中毒者だそれも末期だ」
男の全身には黒い水玉模様が浮かんでいる。
これは禁止薬物BBの中毒者であることを示す。
初期の中毒では腕や脚が主だが中期末期以降になると全身に特徴的な水玉模様が現れ、現れてから一月も経たないうちに意識障害が見られ、夢の世界の中で死に至る危険な薬物だが乱用者は後を絶たず、未だ、治療法も確立されていない。使用者を発見した場合はすぐさま安楽死の処置が施される。
王政はBBの流入を抑えようと必死になっているが完全には防ぎきれてないのが現状だ。
何十人と言う軍団員から放たれた矢の大半は大男を捉えてそいつの上半身は弓だらけとなるが、倒れる気配はない。
「やっぱりだな」
「しぶとい奴だ、早く死ねばいいのに」
一瞬で大男の裏に回ったウォーレンがその太い丸太のような首を斬り落とし、レイモンドは保険の意味も込めて腰を切断してそのままウォーレンが切り落とした首を真っ二つに割った。
同時に体の中枢を切り落とされた大男は自分の体の現状もわからないうちに死を迎える事となる。
薬物中毒者など2人の敵ではない。
「レイの奴め」
剣に付着した血を払い落としてからレイが用意した弓隊を恨めしそうにギロッと睨んだ。
「いいじゃないか、保険はいくらかけても足りないからな」
特徴的な笑い声でレイモンドの肩を叩こうとするが避けられ態勢を崩す。
「だから貴様は嫌いなんだ、お前ら! 馬車が出発し次第こいつをバラバラに刻んでおけ、終わったすぐ火を付けろ、灰になるまで燃やしておけ」
「そこまでか?」
「保険はいくらかけても足りないんだろ」
ニヤッと言う笑みを浮かべ起き上がったウォーレンの背中を殴った。
「ここはお前達に任せる。もう襲ってこないだろう。被害の確認もしとけ」
「了解」
口笛で馬を呼ぶとすぐに乗り1番前ジルコー達がいる先頭に向かう。
「ピート! 王女は無事か?」
「大丈夫だ、怪我一つ、負っていない」
窓から中を覗いたピートの一言でほっと胸を撫で下ろした。
こうして反体制派の襲撃は終焉を迎えた。
周囲の安全確認と負傷者死者の数を確認を終え再度出発した馬車への更なる襲撃はなく、レイ・グリムド率いる陸軍団が待機している王都外周に無事到着し騎士団のお仕事は終わった。




