14 翌朝の騒動
3日目の朝。時刻は午前8時。
ウォーレンやレイ、レイモンドの軍関係者達はからこれ1時間ほど慌てふためきながら王城をあっちに行ったりこっちに行ったり死に物狂いで走り回っている。
なぜかと言うと、この後、10時にはマリア王女は自国に帰国することになっている。だがそのマリア王女がいまだに姿を見せないのだ。
もし誘拐などされ行方不明となっているのであれば、確実に彼ら首が飛ぶ。だから総動員で走り回っていると言うわけだ。
文字通り、死にたくないわけである。
「なぁ、アクアの部屋にいるんじゃねぇか?」
まるで天地をひっくり返したように探し始めて1時間。探せる場所全てを捜索しても見つからず、諦めたように休憩していたウォーレンが静かに口にした一言は思ったよりも遠くまで響いた。
ウォーレンの何気ない一言がこのフロアにいる全員の耳に入るとハッとした空気になり静まり返った。
首が飛ばなくて済んだと言う心からの安堵のため息がフロア中を支配した。
「今頃爆睡中じゃないか?」
マリア用に客室が用意されているが夜は毎日アクアの部屋でキャッキャうふふの女子会を開いていた。いつまで起きているのかわからないが、明け方近くまでであることはまず間違い無いだろう。
残念。この場にアクアの部屋を覗きにいけるような男はウォーレンただ1人しかいない。
周囲の目がウォーレンに集まる。皆見に行けと言っている。
ストレスが増えたようなため息を吐くとウォーレンは仕方ないと言わんばかりに立ち上がりアクアの自室に向かう。
アクアかの部屋の前に着くと一応扉をノックする。
だが反応はない。
試しにドワノブを回してみるがやはり鍵が閉まっている。
「完全に寝てるな……」
いくらウォーレンと言えど若い女子、それも王女の部屋に入るのは気が引けるが、これも仕事のうちだと割り切り、アクアから無理やり預けられている部屋の鍵を鍵の束から探し出す。
「これ、じゃねぇ、これでもない、あれでもない………どれだ?」
鍵の束にはいろいろな鍵が付けられている。
騎士団本部の鍵に倉庫の合鍵、アイリスの家の合鍵、自宅の鍵、どこかの金庫のガキ、よくわからない鍵、実にさまざまな鍵が区別なく束ねられている。
「みっけた」
その中の一つ他の鍵とは違う大きめの鍵を取り出して鍵穴に合わせるとガチャリと言う音が聞こえる鍵が開いた。
「アクア王女、入りますよ」
一応、ウォーレンにもデリカシーというものは存在する。ちゃんと挨拶は忘れない。だがそれはほとんど自己保身のためだ。こうやって周囲の奴らにも聞こえる声で問いかけ、自分はちゃんとやることはやりましたよというアピールも含まれている。
既に再就職先は見つけてあるが、今からその再就職先の部屋に忍び込むのだ、保険はいくらかけても損ではない。
再度ノックして扉を開け、なるべく置いてある私物などを目に入れないようにゆっくりとアクアの寝室に向かう。
僅かに目に入る私物は女の子らしい物が多い。
テーブルの上にはメイク道具などいろいろなものが置かれているが、一角だけ綺麗にされたところにウォーレンが毎年贈っている髪飾りが並べられていた。
「ちゃんと使ってるのか」
これ以上余計な物はこれ以上見ないように進み、寝室の扉をノックするがやはり返答はない。
「入りますよ!」
これ以上先に入るのは憚られるが、このままでは責任問題になりかねない、もう一度強めに扉をノックし返答がない事を確認してゆっくりとドアを開けると、布団を蹴散らし爆睡している2人の姿が目に入る。布団の上にはお菓子の空袋が散乱しておりゴミを撒き散らしている。
2人の寝顔を見るつもりはなかったがつい目に入ってしまう。
普段は見せない緩み切った笑みを浮かべ、何かぶつぶつ言っているその口元の布団涎でもたらしたのか変色している。
「ーーーウォーレン、あれも欲しいーーー」
「夢の中でも俺にたかろうとしてるのかよ」
昨日、ウォーレンはアイリスを巻き込み2人と城下町に買い物に出た。その時は財布が文字通り空になるまで色々と買わされた。
2人のベットの周りには昨日買った物の包装紙がバラバラに破られ撒き散らされているがその中で一つの箱だけは綺麗な状態を維持してあった。
「使えばいいのに」
その箱の中身はウォーレンが前々から買っていた髪飾りである。
完全無欠に見えるウォーレンでも欠けているものがあるそれはセンスである。
特に若い女性への贈り物は頭を悩ませても出てこない。だからいつも髪飾りを選ぶのだ。
これならばセンスを問わず、邪魔になることもない。
「起きろ!!」
ウォーレンは騎士団式に手を叩きながら、お昼までぐうたら寝ている子供を起こすおっかさんのように2人を起こす。
「うぅーー?」
「ゆーゅー?」
そうするとゆっくり2人は目覚め、目をこすりながら起き上がる。
「ウォーレン?………!! ウォーレン!なんでここに!?」
アクアが寝巻き姿のままマリアを盾にするような形で飛び跳ねた。
そうしてようやくマリアも目覚め今の状況を理解し始める。
「……ウォーレン、さん?」
「お前らもう帰る時間だ、お前らが起きてこないから今、城中を大捜索してる最中なんだ、早くしないと何人かの首が飛ぶぞ」
脅し半分本音半分で言うと2人はこの後の予定を思い出し、急いでベットから降り、ウォーレンが居る事を忘れ大慌てで着替えようと服を脱ぎ始める。
「ーー! おいここで脱ぐな!」
「ウォーレン! 出て行って!」
お前らが原因なんだよとすぐそこまで出かかっだが文句言う暇があるなら帰るのがウォーレンだ「早く支度して出てこいよ」と伝えこの部屋を後にした。
部屋を出ると自分の首の行方が気になる兵士たちをはじめレイやレイモンドなど軍幹部の姿も見えたウォーレンが出てくると同時に「王女様は!」と問いかけてくるがその前にちゃんとアクアの部屋の鍵を閉めた。こう言うところがウォーレンが信用される1番な理由なのだろう。
「大丈夫だ。寝てただけだ」
その言葉に心から安堵した一般兵士たちははぁーとため息をつき皆膝をついた。
「お嬢様たちにはほんと手を焼かされるな」
邪魔な兵士たちを掻き分けレイがそう声をかけてきた。
「仕方ないだろ、お嬢様だ。こう言う時にしか遊べないんだからゆっくり遊ばせてやればいいんだよ」
「そんなわけには行かないって、もう後一時間もすればマリア様は帰国するんだから、もう外の用意は出来てる。あとは本人が来るだけだ」
「少し遅れると思うぜ、いろいろ準備が大変そうだ」
そうウォーレンが言うと「メイドを呼ぼう」とレイが答えたがーー
「2人でやらせとけ」
「甘いな」
ウォーレンは首を横に振り、レイたちを押し退けて出来た道を通る。
「いつまでも、頼ってばっかりじゃダメだ」
この後は騎士団と近衛、そして軍の最終の詰め合わせが控えている。面倒な仕事に肩を落としながら重い足取りで臨時に設置された作戦本部がある大広間に向かう。




