12 マスカレード王国第三王女 マリア・マスカレード
2ヶ月後
時刻は朝の7時を回った頃。
予定ではもうすぐ、マスカレード王国第三王女マリア・マスカレードを乗せた馬車が王都周辺を囲む石壁の上から見えると思われる。
だがまだその姿は見えず先行しているはずの早馬も到着していない。
「本当に反体制派なんて襲ってくんのか?」
「わからん。レイモンドの話によれば襲ってくるなら帰りだとさ」
防壁の上で共に王女の到着を待つウォーレンの幼馴染の軍団長レイ・グリムドにそう聞くがレイの答えはあやふやな物だ。
「その理由は?」
「時間が経てば俺たちの士気も落ちてくるからだとさ」
「そうだな、3日も警備してれば少なからず嫌になってくる頃か」
レイモンドの考えに納得が行ったウォーレンはうんうんと頷き、反対側の石壁に向かう。
「でもここまでやる必要あるのか?」
そう言い、人だか1人いない王都の街を見下ろす。
石壁の王都側にはたくさんの民衆が王女を出迎えるために集まっていてもおかしくないが、外出禁止令を出したため、今日は警備の騎士団員以外ほとんど人がいない。だが買い出しなど必要な外出は認めているため、通行規制をかけた大通り以外はそれなりに人通りがある。
「民衆に紛れられたら終わりだ、俺たちが気づいた時には王女様が殺されてた、そうなったら洒落にもならん。俺はもちろんお前もレイモンドも部下達全部の首を差し出しても……足りないんじゃないか」
「戦争突入、なんてな」と冗談とは思えない真剣な表情で付け加えた。流石に笑い事にはできないウォーレンは視線を逸らすとそこへ馬にに跨ったアイリスが駆け寄ってくる。
馬上で手を大きく振り振り準備完了とでも言っているのだろう、アイリスを見つけると手を振り返した。
ーーなんて言ってんだろうな。まいっか。
隣を見るとレイが石壁に腰をかけている。アイリスが手を振っている相手は自分だと思っているのかレイも手を振る。
「だろうな、俺たちの首で済めば御の字だ。下手したら戦争だな」
第三王女と言えど王族が他国のそれも王都で殺されたとなれば戦争回避はほぼ不可能と考えるが妥当。
だからこそ大通りから民衆を排除し騎士団員や陸軍と近衛騎士団の一部に渡された許可証を持つもの以外の通行を禁じたわけだ。
だがそれでもどうしても監視の目が薄くなる場所は生まれるだろう。
「そう言うことだ、上層部の指揮系統は斬首でめちゃくちゃ、戦える兵士も死刑または投獄、あり得ると思うか?」
「十二分にな」
「だろ、戦争回避のためにも仕事はしなくちゃならないーーで、お前のところの副団長はなんで手振ってるんだ?」
「さぁ? 知らん」
「確認しろ! この馬鹿!」
突然ブチ切れ出したレイに驚きウォーレンの身体が飛び跳ね石壁の手すりに足を取られ身体が壁の外側に投げ出された。
「助けてくれ!」
どうにか手の力で石壁にしがみ付いているが早くも限界が近いようだ。
「ちゃんと仕事をしろ」
ニヤッと笑みを浮かべたレイがウォーレンの指一本外した。
「悪かった! 悪かった悪かった! 仕事します! だから助けて!」
レイがウォーレンの足下をその囲むと幸いにもそこは落ち葉が積み上げられていた。
多分このまま落下しても約5mほど落下するだけで済む。ウォーレンの身のこなしであれば落ち葉も考慮に入れたら怪我はしないだろう。
「仕事しろ」
脇腹にまで手を伸ばし、触れるか触れないかギリギリのところで手を止める。
「れ、レイ………」
おっさんがうるうるとした目で助けてくれと見つめてくるがおっさんに見つめられても全く嬉しくないレイはバイバイを手を振り脇腹を無情にもこちょこちょした。
思わず笑ってしまったウォーレンは手に力が入らなくなり石壁を掴めずそのまま重力に従い落下した。
「大丈夫だ、落ちても怪我はしないだろ」
「ーーーレイっっっつ!ーーー『ドスっ!』」
レイの予想通り落ち葉が重ねられておりウォーレンはそのまま全身が落ち葉の中に埋まった。
そしてすぐにアイリスが馬を叩きウォーレンを救出するために飛んできた。
「何すんですか! うちの団長に!」
「上も上なら下も下だな」
アイリスの脚力であれば壁の上まで届く、
馬を急停止させ溜め込んだ力を上方向に放出し、石壁を一歩二歩と駆け上がるが石壁上部に到達する直前、ここしかないという完璧なタイミングで頭を押さえつけれ、勢いは完全に失われ失速、そのままウォーレンと同じように可愛い悲鳴をあげながらウォーレンが作った穴の隣に埋もれた。
「団長、準備完了しました」
こう言う時でも報告は忘れずに団長に伝える。
「ーーみたいだな」
落ち葉の山を掻き分け無事脱出に成功し、同じように埋まったアイリスの手を掴み、引き摺り出す。
「よくも落としたな!」
「仕事しろ」
その声が聞こえた直後レイの姿が見えなくなった。
反対側に向かったのだろう。
そしてすぐに両国の国旗を掲げた早馬が門を潜り駆け抜けた。
「さて、俺も行きますか」
レイの目には総勢20台を超える馬車が軍勢となり軍の警備隊と共にこちらに向かってくるのが見えた。それと同時に地上に繋がる階段を降りた。
王女が乗る馬車の警備業務は国境から警備を行ってきた軍隊から騎士団に引き継ぎ、レイはウォーレンと共に先導する馬車に乗り込み王城に向かう手筈となっている。
王都外周の石壁からは先導が騎士団に変わり王女が乗る馬車の後方を軍隊と共に同行し王城まで無事届けるのが今日の仕事だ。
♢ ♢ ♢
馬車が城門の前で止まりその周りを完全に囲むように軍隊が警備をしている。
城門の王都側ではすでにアイリスとジルコーの2人が馬に跨り左右に分かれそれぞれ部下20人と共に待機しいつでも出れる用意をしている。
ウォーレンとレイの2人は王女が乗ってきた馬車の一つ後ろの馬車にフル装備で乗り込み警戒をしながら王城に向かう。
半身外に乗り出したままのレイは各部下たちから『準備完了』の報告を受け、先頭のジルコー達に出発の出発の鐘を鳴らし合図をするとゆっくりと馬が前進を始めそれに引きずられるように馬車も動き出す。
ウォーレンも馬上に乗り込むはずだったがわがままを言ったのか御者の隣に座っている。
「何か見えるか? レイ」
「いや、何も」
仕事するならとレイはそれを黙殺し警備兵の様子を伺う。
警備兵は馬車とは反対側を向き細い脇道からの侵入者を警戒しているようだ。
キョロキョロと視線をさまざまな方向へ向け不審な点がないか確認している。
「落ちても俺は助けねぇぞ」
「落ちないから大丈夫だ」
「みんなそう言うんだよ」
「ちゃんと監視してるのか?」
「大丈夫だ、今のところ異常はない。屋根の上も不審な加工の痕跡も見当たらない」
今日ばかりはウォーレンも真面目に周辺の警戒をしている。
王女が乗る馬車の周辺警備はマリアが自国から連れてきた純白の鎧を着た護衛がしている。
後ろから見る限りピリピリした様子はあるが異常が発生した様子は見受けられない。
そこは後ろから馬の蹄の音が近づいてきた。
「軍団長」
「アームズ、後ろで何かあったか?」
そこへやってきたのはレイの左腕とも呼ばれる歴戦の兵士アームズ・ガストン。
平民からの叩き上げの軍官でレイが最も信用している男。
彼には後方警備を任せていたはずだが、ここまで上がってきたと言うことは後方で何か問題が起きた可能性がある。
「問題という問題ではありませんが、住民達が最後方について来てます」
レイが確認すると後を追いかけてきている。
「帰ってもらえーーいや待て」
戻ろう馬の速度を落としたアームズが戻ってきた。
「最後方の警備兵の速度を落として物理的に距離を空けさせろ」
「後ろの警備が薄くなりますが」
「仕方ない、このまま追いかけられるよりマシだ。それとお前はこっちに付け、切り離すのはピートルの部隊30人だ」
「はい」
馬を誘導して後方は走り出す。
「問題発生か?」
「いや、後方を住民達が面白半分で追いかけてきたそうだ」
「なら切り離すべきだな」
「今やった」
先手を取られ臍を曲げたウォーレンは舌打ちをした。
「やっぱりもうちょっと、規制をきつくするべきだったな」
「そうだな。帰る時の規制はきつくしよう」




