11 お転婆王女
「で、俺たちはなんで呼ばれたんだ?。マスカレード王国絡みか?」
予定では再来月にマスカレード王国の第三王女が国王の名代としてこの国に正式訪問することとなっている。
その際の警備については半年前から練り始め、そのお陰であとは王女が来るのを待つだけの状態となっている。
だからウォーレンには王城に呼び出される心当たりはない。
「……その通りだウォーレン」
「はぁ? もう警備は済んだんだろ、なんの話だ? っ! 第二王子か」
肯定する代わりにため息を吐いてレイが答える。
第二王子絡みが確定し、厄介事になると予想することは簡単だ。
第二王子は国王と並び国民からの評判が悪い。
現国王は若い時に色々やんちゃしてくれたおかげで即位の時に一悶着あった。
その国王の背中を見て育った第二王子も自分の城に毎日、若い女を連れ込み、色々していると言う噂話がウォーレンの耳にも届いている。
一方の第一王子は女王様が自らの手で育て上げ、日夜、国王のようにはなるなと厳しく躾けられ、軍学校で出会った運命の相手と結婚し、すでに3歳になる長男を授かっている。
だからより国王と第二王子の女癖の悪さが際立たされる結果になっているため、国民人気が著しく低い。つまり、嫌われている。
「第二王子がとうとうやらかしたか?」
「まだやらかしてない。王子絡みの案件だ」
「まだ、ね。あいつ叩けば叩くほど埃が出てくる奴だろーーーそう言うことか、マスカレードのマリア姫がくる、って事はお見合いか」
自分達までもが呼び出された理由が理解できたウォーレンは苦虫を噛み潰したような顔で首を振る。
「それだけじゃない、今日呼んだのはその話もあるが、反体制派も動き始めたみたいだ」
「マリア姫を襲うのか?」
ウォーレンは視線を逸らし少し考えるそぶりを見せるが、マリア姫と反体制派が繋がる接点が見出せない。
「そうだ」
「うんな馬鹿な、あいつらは反国王だろ、なんでマリア姫を」
何故反体制派がマリア姫を狙うのか。考えても出てこない。マリア姫を狙う理由がないのだ。
「だからだよ、反体制派は反体制派と名乗っていながらも国の転覆を図ろうとしている奴らじゃない、どちらかと言えば国王と第二王子を引きずり下ろして、早く第一王子に国王の座について欲しい奴らなんだ」
レイの説明を受け、そう言う事か、とウォーレンは思わず呟く。
「そう言う事、マリア姫と第二王子を結婚させたくない、と」
どんな恣意的な理由だよ……だからあいつらは困るんだよ、国民人気も悪いからな。
下手したらこの国の半分ぐらいは反体制派って言ってもおかしくない。まぁ、俺もその中の1人だがな。
「反体制派の話は後だ、それよりもアクア王女も出てきた」
アクア王女この国の第三王女で先ほどから話題に出ているマリア姫の1番の親友だ。
昔はウォーレン達にわがままを言い、お互いの国を行き来し合う仲だったが、大人になり色々と制約が増えここ最近は文通が主な交流になっている。
それでもウォーレンをお供に年に一回お忍びでお互いの城に遊びに来ている。
「あぁ、アクアは嫌がるだろうな、自分の親友が足軽クソ兄貴と結婚するなんて許せない」
「仮にもお前、王子だぞ、1発罷免にされるぞ良いのか?」
騎士団長と言えど罷免では済まないだろう、良くて打首ではないだろうか。だが仮に打首になってもアクア姫が全力で恩人であるウォーレンを守ることが予想される。罷免で済むかもしれない。
「俺の再就職先はもう見つけてるから大丈夫だ」
大きく頷いたウォーレンはニヤッと嫌な笑みを浮かべた。
「良いな、後が決まってるやつは」
再就職先、つまりアクアの護衛だ。
「アクアが出てきたって?」
「そうだ、もう来るだろう」
その言葉は適当に出されたものではなく、別室で待機している護衛に向けて言った言葉だ。
その言葉通り、直ぐにこの会議室の扉が開き、若い女性が入ってきた。
背中まで伸びる黒い長髪が1番最初に人の目を引く。どこぞの王様やら王子とは違い宝飾の少ない薄い青いドレスを身に纏い、黒く艶やかな髪をさらに際立たせ。そこには蝶の髪飾りが付けられている。
王族ながらも見た目や所作に王族ならではの傲慢さは一切感じられず柔らかい印象を抱く。
ジルコーとアイリスは普段着のアクアを見慣れていると言うのに、はぁ〜と感嘆のため息をつきその心臓を完全に撃ち抜かれ、骨抜きになっている。
1番にウォーレンを視界に入れたアクアは恥ずかしそうに手を振る。ニヤッと笑みを浮かべたウォーレンが手を振り返る返すと顔を真っ赤に染めシルクの手袋が付けられた手で顔を隠す。
「久しぶりだな、アクア」
「え、えぇお久しぶりですウォーレン……団長」
呼び捨てにしたかったが一応公の場に近い為役職を付けて名前を呼んだ。
「呼び捨てで良いよ」
「ありがとうございますウォーレン」
「で、最近レイモンドはどうだ?」
「ダメです。こないだも私の誕生日なのにお祝いの言葉すらくれませんでした」
シクシク涙が流れたような演技を見せると、この場の全ての視線がレイモンドを捉えた。
そしてウォーレンが1番に問い詰める。
「おいおい、護衛がそれで良いのかよ、おめでとうございますの一言あっても良いんじゃないか? 俺はちゃんと髪飾りを送ってやったぞ」
アクアの黒い長髪に似合いそうな蝶を模した髪飾りを購入しプレゼントしていた。
今アクアがつけている髪飾りはまさしくそれだ。
「俺は護衛だ、子守じゃない」
「悪いな、こいつシャイで可愛い女の子に耐性がないんだ、そう言う人生送ってこなかったからね」
「貴様は黙ってろ!……申し訳ない」
思わず語気が強くなったレイモンドはイライラした様子で謝る。
「気にすんな」
「お前に謝ったんじゃない」
「2人ともやめないか、早く本題に入ろう」
レイがそう促すと立っていてアクアを1番奥の先に案内し座ってもらった。
少し間が開き、お互いがお互いの目を見て先手の押し付け合いをしてると先にウォーレンが口を開いた。
「で、なんでアクア。お前が出てきたんだ?」
アクアがこの場に出てきた理由はレイから、かいつまんで聞いていたが再度本人の口から話させようとウォーレンがわざとその話を振った。
「皆様知っての通り、ディアスお兄様はあまり……健全とは言えません」
どんなにクソ兄貴だろうと自身の兄の悪口を言うのは気分が良くないのかアクアは言葉を選びながらゆっくりと口にした。
「だな、最悪と言っても過言ではない。第二王子でよかったって言うレベルだな」
「えぇ、その通りです。お兄様がもし第一王子ならすでにこの国は内乱になっていたと思います」
「マジか?」
アクアはコクリと僅かに頷く。
小さな肯定にそこまでのことか……言う空気が従者を中心に流れるが、3人の団長はだろうなという目でそれを見ていた。
第一王子アムズがいるおかげでどうにかこの国は持っていると言っても過言ではない。
もしいなかったらアクアの言葉通り、内乱が起きていただろう。
♢ ♢ ♢
アクアの願いはクソ兄貴と親友の結婚を阻止したいとのことだった。
だが文通ではマリアは答えてくれずマリアの本心は不明。マリアがどう思っているのかわからない以上話を進める事は困難とウォーレンは判断し、当日アクアと共にマリアの本心を書き出す事を決定して会議は終わった。
アクアが退出してウォーレンも残業はやだと言わんばかりに帰ろうとしたがレイに呼び止められた。
「反体制派が動くなら王都に入る時か帰る時の二択だ」
「俺らを甘く見るなよレイ。仕事の時はみんなちゃんとやる奴らの集まりが騎士団だ。仕事になれば王族も平民も関係ない。俺らは命賭けて護衛対象を守るだけだ」
ウォーレンはそう言いジルコー、アイリスの両名を連れて本部に帰還した。




