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異世界、そして、勇者

 薄暗い地下の部屋に、金髪碧眼の少女がいる。彼女の名前はディセット。この世界の古語で「17」を示す言葉。彼女は第17王女であり、その名は生まれた順番を示すものだった。


「お父様、お母様。私は、絶対に勇者様を呼んでみせます」


 決意を抱く少女 ディセットには魔法の才能があった。そのため、王は彼女を政治の道具としてではなく、兵器として見るようになった。使用人とも顔を合わせることを禁止された。兵器として冷徹であるようにと。愛情も友情もわからないように、と。

 成長した後は、王立の魔法学院に通わせた。天才ともいえる成績だった彼女は、飛び級を繰り返し、学院の首席となった。しかし、王女であるため、身分制のクラスは分けられた。兄弟しかいない教室、その兄弟を尻目に次々と飛び級をしていく自分。友達などいなかった。だが、図書館で読んだ物語にあった友達に憧れた。


「お父様、私にも学友との交流をお認めください」


 王は、ひどく動揺した。兵器として運用する娘が自我を持ち始めたのだ。まずい、とてもまずい。王の思考はそれだけしかなかった。ゆえに名前と同じ17歳になった王女に命令をした。

 

「この世界とことわりを異とする者を勇者として参上させよ。その者を友とすることを認める」


 学院を卒業した翌日の命令だった。ディセットは、仰せのままにとしか返せなかった。自分は幸せに生きてはいけないのだ。誰かと友になることもできないのだ。悔しさなどない、怒りもない。ただあるのは、重く暗い孤独だけだった。


「私にできることは、これくらいしかないですから」


少女は、固い決意を抱く。この国のため。それだけではない。自分の存在価値のために。勇者を呼ぶのだ。


「勇者様、できれば私と友人になって欲しいですね」


 乾いた笑みがこぼれた。暗い地下にある部屋の冷たい床に魔法陣を描く。それは、遠き世界に現れたものと同じものだ。彼女は詠唱をし始めると、その魔法陣は赤く輝きだした。


「我が名はディセット。遠き世界の絆につながれし勇者を求める。名の下に呼びかけに応じたまえ」


 魔法陣から文字が光と共に迸り、ディセットの体に巻き付いていく。その魔法陣が彼女に友好的でないことは明らかだった。しかし、彼女は詠唱をするのをやめない。


「結ばれし絆よ、時は離れても、地は割けても、空が朽ちようとも、紡がれる絆は引き裂かるることなく、永遠とわに唄え」


 彼女の首のあたりまで真っ赤な文字が迫る。白い肌が赤い字に鮮やかに染まっていく。身が灼けるような感覚が彼女に襲い掛かってくる。それでも、魔法の詠唱は止まらない。


「この身を灼熱の海に投げ出すことがあろうと、極寒のつるぎがこの身を刺し貫くことがあろうと、稲妻が我を撃つことがあろうと、我は神命に従うことを誓う」

 

 顔にまで上ってきた赤い文字は、その整った容貌を穢していく。しかし、少女はやめない。この世界を救うために詠唱を続けている。


「勇者よ、ともがらよ、我らに救いを!」


 両手を挙げて、空を仰ぐ。少女の体を焼いていた文字は魔法陣に戻り、整列していく。空気がぐんと重くなる。詠唱は成功した、少女はそう確信し倒れ伏した。


「こ、れで……、この国は……、す、くわれる……、の、ね」


 少女は涙を流した。冷たい床につーっと流れ落ちていく。その涙を拭くものはいない。労う者もいない。誰にも褒められず、床に倒れている。


「お願いします、勇者様……」


 静まり返った部屋に、たった一人の少女の助けを呼ぶ声が響いた……

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